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IceDoll  


 ‡ 第2章

   《16》



 鷲塚は、指先を胸の頂に置いたまま、愛撫を続けてゆく。

「――ああぁ……」

 思わず溜息をもらしていた零は、急に自分の躰の抑制が効かなくなるのを感じていた。

 躰の奥がざわめき、甘く痺れ、どくどくと鼓動を速める心臓の音が聞こえる。

 大腿の内側をゆっくりと撫で上げられた時、零は躰の芯に突き抜けるような刺激が走ったのを感じた。

 鋭く反応したその部分に、鷲塚はさらに唇を這わせ、歯を立てる。

 零は左右に頭を振り乱し、きつくシーツをつかんで淫靡な感覚に耐えた。

 すがりつく物が無ければ、躰が、浮き上がってしまう。

 だが、誰の目にも触れさせたことのない女性器を指で開かれ、未熟ながらも興奮して勃起した男根を口で咥えられると、零は声にならない悲鳴を上げて身悶えた。

 舌先で舐められる――初めての刺激。

 初めての感覚。

 全身に、電流が走る。

「……ヒアァッ! ……あっ…あぁっ…アアッ!」

 充血した肉茎を覆う薄い皮を歯で押し上げ、鷲塚は秘められた陰珠を露わにしてしまう。

 鮮烈な刺激に打たれ、仰け反って暴れる零を苦もなく押さえ込み、鷲塚はその先端に舌を這わせた。

 小刻みに動くねっとりとした舌先が、躰の感覚全てを支配し、めちゃくちゃにしてしまう。

 視界の奥で白光が明滅し、零は声を殺すこともできずに、鷲塚の舌戯に翻弄される。

「――ひっ…ひいっ……あううっ……」

 舌先で転がすように何度も舐められていると、零の背筋に感じたこともない甘美な痺れが走った。

 根元を軽く噛まれ、温かい口の中で吸われると、躰が勝手にびくん、びくんと揺れる。

 さらに大きく敏感に育った幼芽を、鷲塚はゆっくりと円を描くように舐め回し、時々濡れた下唇で先端を擦り上げてくる。

 どくどくと激しく血が脈打ち、躰の中心に向かって流れ込んでゆく感触に、零は熱い陶酔を感じた。

 この世のものとは思えぬ快楽に、いつしか全身が重くなり、抵抗することさえできなくなる。

「……あっ、あ……んっ――あっ…いや……いやだ……」

 自分の躰が浮き上がっていくような未知の感覚が生じるにつれ、零は怯え、恐れた。

 だが、羽が触れるように軽く裏筋を舐め上げられた瞬間、快感を厭う意思までもが白く燃え上がり、零は底が見えぬほどの深い恍惚に堕ちていた。

 初めての絶頂を極めさせられ、敏感になった肌の上に、驚くほど優しいキスが下りてくる。

 その感触だけでも感じてしまい、小刻みに躰を震わせていた零は、快美な拷問から逃れるように身をよじらせた。

 ところが、その拍子にうつ伏せに躰を返されてしまい、零は愕然としてはっと息を呑んだ。

 抗うようにもがく零を拘束した鷲塚は、肩甲骨がくっきりと浮き出た背中に唇を落とし、そのまま蜜が溢れ出てくる陰裂に指を沈める。

 動揺して零の動きが硬直し、背筋が引きつる。

 初めての異物感に苦悶の表情を浮かべた零は、内部で指が動き始めると、その刺激の強さに仰け反って悲鳴を上げていた。

「――いやあぁっ! お願い……もう、やめて!!」

 全身が粟立つほどにおぞましく、強烈な羞恥が躰を火照らせる。

 けれど、肉奥は快楽の蜜で熱く濡れ、指が蠢くと、その動きに絡まるように、くちゅくちゅと淫らな音を立てた。

 とろとろと溢れる蜜が掻き出されると、零は溶けるような甘い疼きに震えた。

 逃れたいのに、逃れられない。

 自分の躰が信じられず、動いてしまえば、またどんな反応を見せるのか怖くなるから。

 さらに指が二本に増やされ、交互に動かされる。

 獣の形で拘束されていた零は、身じろぐことすらできないまま、鷲塚に敏感なうなじを強く吸われた。

「やあっ…あああっ……はっ…あっ、ああぁっ……」

 声を抑えられない。

 うなじから背中に口づけられるたび、制御できない喘ぎが迸る。

 苦しいのか、気持ちいいのかも判らない。

 残酷な男のキスが、零の躰を変えてゆく。

 秘密を暴かれ、征服されてゆく感覚は圧倒的だった。

 プライドも拒絶する意思も粉々に打ち砕かれ、その一方で狂おしい快楽に支配される。

 鷲塚は決して零を傷つけなかったが、快感を覚え込ませるように、確実に追い上げていく。

 自らの手で、無垢で清純な肉体を、快楽に弱い淫蕩な肉体へと作り変えていくかのように。

「あ、ああっ……も、もう……いやっ…はぁ…ああぁっ」

 蕩けた花唇の中で卑猥に動き続ける鷲塚の指は、淫らな痺れと、不吉な快感の予兆を呼び寄せる。

 もっと奥が、甘美な刺激を求めるように、切なくわななく。

 零の唇から甘くかすれた喘ぎが漏れるようになると、鷲塚はさらに片方の手で奥に秘められた固い蕾を蹂躙し始めた。

 全ての刺激が快楽に結びついた躰は、零の意思には従わず、鷲塚の指を易々と受け入れてしまう。

 酷くおぞましい行為だというのに、零の躰の奥に眠っていた官能が荒れ狂い、妖しい疼きが膨れ上がっていく。

 まるで、意思の無い操り人形(マリオネット)。

 鷲塚の指の動きひとつひとつが、零をのたうち回らせる。

「うぅっ…んっ! やめて……アアッ……いやああぁっ!」

 前後の花を同時に愛撫され、零は狂ったように身悶え、腰を左右に振り乱した。

 蠱惑的な動きを見下ろし、唇に喜悦の笑みを浮かべた鷲塚は、秘裂から滴る蜜をたっぷりと指に絡め、後蕾を集中的に犯し始める。

 指が増やされ、ゆるゆると抜き挿しが繰り返される。

 引きつれ、限界まで広がった後肛が、擦りたてられるたびに、どろりと熱く澱んだ痺れと、倒錯した快感を全身に撒き散らす。

「――くううっ……あぁ、あ、ああっ…んっ――ああぁっ!」

 海で溺れ、助けを求めるようにシーツにすがりついた零は、もはや何も考えられなかった。

 与えられる淫らな快楽に酔い、すがることもできずに弄ばれる。

 躰を痙攣させ、シーツの上にどっと倒れ込んだ零は、霞がかった頭で、いまだに許されてはいないのだと思い知らされた。

 柔らかくとろけた奥の蕾に、熱く凶暴な屹立が押しつけられる。

 荒い呼吸を繰り返していた零は、朦朧とした意識の中で、恐ろしい凶器で引き裂かれる己を予感し、顔を青ざめさせた。

 だが、悦楽に狂った肉体は、鷲塚の猛々しい剛直を、苦痛と歓喜で迎え入れる。

「――いやああっ……ううっ、うっ――あうぅっ!」

 激しい衝撃で引き裂かれそうになっているというのに、いまだ勃起したままのペニスを優しく愛撫されると、零は快感に痺れ、刺激を求めるように腰を波打たせていた。

 さらに半陰陽の秘泉に指が入り込み、内側からゆっくりと刺激をされる。

 薄い肉壁で隔てられた上下の内筒を、鷲塚は我が物顔で掻き乱し、小刻みに突き上げる。

 凄まじい苦痛と快感を交互に与えられているうちに、眩暈がするほど淫靡な感触が襲いかかってくる。

 獣が交尾をするように、鷲塚の逞しい腕に腰を抱え込まれていた零は、いつしかすすり泣いていた。

「……見かけによらず……淫らなカラダだ」

 耳元で囁きかける鷲塚の低くかすれた声が、荒い。

 熱い吐息を吹きかけられて、それだけで貫かれた躰が歓喜する。

 何故、こんな事になったのだろう? 

 苦しい。熱い……感じすぎて、躰が、壊れてしまう。

 容赦なく弄ばれながら、快楽を感じている自分が……おぞましい。

「悔しいか? お前は死ぬまで、俺から逃げられない。
 お前はもう、俺のものだ」

 いつの間にか見えない鎖で絡め取られ、蜘蛛の巣にかかった蝶のように捕えられていた。

「あっ…ぅあぁっ……止めて……も、もう……いやあぁ……」

 弱々しく首を振る零を仰向けに返した鷲塚は、頬を伝う涙を舐めとり、深く繋がり合ったまま唇をも求める。

 唇の狭間に鷲塚の舌が滑り込み、震えて縮こまった舌が囚われる。

 揺さぶられる躰と連動するように、舌が吸われ、深く絡まる。

 拒否を封じられ、快感だけ煽られる。

 背中の下で、ギシギシと軋み続けるベッド。

 思い通りにならない自分の躰と感覚……涙でぼやけた視界の中で、苦しむように眉根を寄せ、息を荒らげる秀麗な雄の貌(かお)。

 意識が、混濁する。

 腰骨の奥で、鷲塚の膨張した脈動が跳ね、どろりと熱い何かが迸る。

 受け入れた躰の内側を埋め尽くすように、脈打ち続ける欲望から、雄の白濁を注がれる。

 躰が、穢される。

 倒錯した快感が、閃光となって頭の芯を灼いてゆく。

 全身が、ショートする。

 大きなうねりに巻き込まれ、堕ちていく感覚に、零はついに意識を手放していた。



 目が覚めた時、零を襲ったのは全身を覆う重い倦怠感だった。

 躰を引きずるようにして上半身を起こした零は、自分を陵辱した男の姿が見えないことに安堵し、深い溜息をつく。

 その途端、下肢の奥に鈍い痛みが突き抜け、思わず顔をしかめた。

 苦痛を和らげるようにゆっくりと息を吐き出すと、零は警戒するように辺りを見回した。

 いつの間にかベッドのシーツは新しい物に変えられており、零の躰も綺麗に清められているようだった。

 だが、着ていた洋服がどこにも見当たらず、着替えも無い。

 窓辺に置かれたパーソナルチェアの背に、男物らしき白いバスローブが掛けられている。

 今はそれだけが躰を隠せる衣類のようだった。

 鈍く突き上げてくる痛みに耐えながらベッドから下りた零は、サイズが大きすぎる長いバスローブを取り上げると、情交の跡が色濃く残る躰の上に羽織った。

 腰紐をきつくしめ、肌の上に柔らかな布を感じると、ほんの少しだけ安心する。

 寝室から出ても、相変わらずリビングはがらんとしてしていて、人の気配は感じられない。

 どうやらこの部屋の主は、零をひとり残して出かけているようだった。

 虜囚となった自分が外に出ることはないと、鷲塚は高をくくっているのだろうか?

 それとも、ここは獲物を閉じ込めておくための檻で、やはり外に逃げる術は無いのだろうか?

 心に湧き起こった疑念と怒りに急き立てられるように、零は脇目もふらず玄関のドアまで歩いて行った。

 何度かノブをひねってみるが、予想通り、ドアは全く動かない。

 強く叩いてみても、鈍い音が虚しく響くだけだった。

 誰も、いない。

 誰も、助けてくれない。

 ドアに両手をつき、顔を伏せた零は、涙がこぼれ落ちそうになるのを必死でこらえた。

 大きく息を吐き出し、首を振って涙を払うと、踵を返して零はバスルームを探す。

 広々としたバスルームにもまた、全体に大きな窓があり、そのまま突き抜けるような風景が広がっていた。

 リビングの窓と同じく、視界を遮るビルは何もなく、レインボーブリッジとお台場までもが見える。

 だが、零の興味は風景にはなかった。

 脱衣所でバスローブを脱ぎ落とし、肌には熱すぎるくらいのシャワーで躰を必死に洗う。

 擦っても、擦っても、白い躰から所有の刻印は消えない。

 鷲塚が落としたキスの痕跡が、色鮮やかな花のように浮かび上がっている。

 肌が痛みで悲鳴を上げ始める頃になって、零は諦めてボディブラシを取り落とした。

 冷水でシャワーを浴び直すと、肌にぴりぴりとした刺激が走る。

 自分の心を裏切った躰を罰するように、零はそのまま冷たいシャワーを浴び続けた。

 躰の中に残っていた熱が、冷水によって凍え、流れ出していくような気がする。

 消えてしまえばいい。

 躰に刻み込まれた、鷲塚の存在感――重ねられた肌の熱さ、躰を穿つ太い脈動、零を閉じ込める強靭な腕の硬さも、全て――。

 皮膚から感覚が無くなったのを感じて、零はようやくバスルームから出た。

 床に脱ぎ捨ててあったバスローブを羽織った零は、ふと壁に嵌め込まれた大きな鏡に目を向けた。

 首筋から鎖骨に流れる肌の上に、鬱血した赤い印がくっきりと残っている。

 決して薄れぬ、情交の証。

 肌をなぞり、きつく吸い上げる鷲塚の唇の感触が浮かび上がり、背筋にぞくりと妖しい痺れが走った。

 彼を拒みたかったのに、その手や唇がもたらす快感に脳髄まで侵され、何度も何度も嬌声を上げた。

 淫らだと嗤われながら、彼を受け入れ、求めるように躰をうねらせていた。

 脳裏に、残像が浮かぶ。

 最後に見た、鷲塚の貌。

 囁かれた言葉。

『お前は死ぬまで、俺から逃げられない』

 思い出した瞬間、零は大きく腕を振り上げ、虚像を壊そうとするように、鏡に拳を叩きつけていた。

 鏡に大きな亀裂が入り、力一杯、何度も拳を打ち付けていると、ついに鏡が砕け散る。

 それがまるで今の自分自身を表わしているかのようにも思え、零は乾いた声で笑い出していた。

 ガラスの破片で切れた手は血塗れになり、ぽたぽたと紅く床を汚していく。

 虚ろな笑いはいつしか嗚咽に変り、床に座り込んだ零は、声を押し殺して涙を流した。

(――何故? 私が、いったい何をした……)

 こんな想いは感じたくない。

 心を閉ざそうとしても、打ちのめされてしまった精神に枷は嵌め込めない。

 陵辱された屈辱と、それ以上に己の肉体が狂わされたことに、零は衝撃を受けていた。

 声を上げてしまえば、きっと耐えられなくなる。

 血に濡れた拳を胸の中に抱きしめるようにして蹲った零は、片手で唇を塞ぎ、声を押し殺して泣いた。

 望んでいたのは、大切な家族の幸せ、ただそれだけだった。

 だから、鷲塚の求めに応じて、命を差し出したのに……まだ、こんな形で生きている。

 この身はすでに、自分のものではない。

 契約書にサインをした瞬間、この躰の支配者は、鷲塚という恐ろしい男となった。

 肉体は嬉々として新たな支配者を迎え入れ、屈し、従った。

 零の想いは裏切られ、もっとも望まない形で肉体の秘密を暴かれ、恥辱と絶望を殺すこともできずに、生かされている――あの残酷な男の、玩具となるために。

 死んでしまえば、苦しみは終わる。

 鷲塚は、全てを終わらせてくれると信じた。

 それは愚かな……とても愚かな期待だったのだ。

 もう、自ら死ぬことも選べない。

 鷲塚の意思に従わなければ、家族がどうなるか判らないから。

 ふらりと立ち上がった零はリビングに向かうと、ソファの上に倒れ込んだ。

(……何もない部屋。ここは私の牢獄で……墓場だ――)

 涙を堪えることも、血を止めることも放棄をした零は、そのまま闇に引き込まれるように瞼を静かに閉じた。