Rosariel.com
王国の暁闇


<1>



 大理石の湯船から上がった王子リュシアは、女官が用意した滑らかな白絹の夜着を身に着けると、裸足のまま寝所へと向かう。

 足裏に感じる大理石の冷たさが、火照った身体に心地良く感じた。

 アゼリス王国の第七王子として誕生しながら、《天の舞人》クセと同じ両性を持つ《半月》であったリュシアは、生まれながらの神巫(みこ)として自由奔放に育てられてきた。

 だが、そんな気楽な生活にも終止符が打たれる。

 明日になれば、隣国のマディヤル王国へと旅立たねばならない。

 竜神イシュヴァの化身とも謳われる若きマディヤル王のもとへ、嫁がされることになるのだ。

 かつてマディヤルとアゼリスは、ひとつの王家であった。

 二つの血統に分かれ、独立した王国として存在しながらも、アゼリスの国力は強大なマディヤルには遠く及ばない。

 18歳になれば王妃として嫁がされることは、リュシアが生まれた時から約束されていた。

 たとえリュシアが結婚を望まなくとも、逆らうことは許されない。

 湿り気を帯びた朱金の巻き毛を指先で梳きながら、居間を通り過ぎようとした時、人の気配を感じて、リュシアはふと視線を向けた。

「──……兄上?」

 そちらを見やると、大扉の前にリュシアの異母兄である王太子マファールが立っている。

 何故、王宮にいるはずの兄が、リュシアの住むこの離宮にいるのだろう?

 身を隠すような黒衣をまとうマファールは、いつも穏和な微笑を湛えているのだが、今夜は無表情でどこか雰囲気が異なっていた。

 睨め付けるように見つめてくる緑翠色の瞳の奥には、謎めいた深い闇が横たわり、その違和感にリュシアはわずかに眉をひそめる。

 王太子であるがゆえに、誰にも止められずにここまでたどり着けたのだろうが、何の知らせもなかったことが解せない。

 常日頃から礼儀正しいマファールには考えられないような行動だった。

「どうなさったのですか、兄上? こんな夜遅くに……」

 秀麗な顔に無表情を張り付けたまま、沈黙を保つマファールに戸惑い、リュシアは首を傾げて問うた。

 マファールはしばらくリュシアの美貌を見つめていたが、やがて口許に冷淡な微笑を刻んだ。

「……そうやって、そなたは無邪気さを装いながら、男を惑わすのだな」

 兄の口からようやく飛び出した言葉は、リュシアを愕然とさせた。

 嘲りを含んだ低い声、侮蔑に彩られた言葉──。

 普段のマファールであれば決して口にしない悪意を持った言葉に、リュシアは殴られたような衝撃を感じた。

 戸惑いは困惑に変わり、どう応じたものかと迷うように、リュシアは蒼瞳を床の絨毯に落とす。

「何を仰られているのか……私には判りません。
 お別れに来てくださったのではないのですか、兄上?」

 マファールはゆったりとした足取りでリュシアに近づき、風格のある長身で正面に立ちはだかった。

 不可解な態度を取る異母兄と正対することがひどく苦痛に思え、リュシアは思わずマファールに背を向ける。

 だが、背後から伸びてきたマファールの腕が、リュシアを広い胸の中に閉じ込めた。

「戯れ言だ、許せ。
 湯上りのそなたがあまりにも美しくて、目を奪われてしまった。
 この美しさが他の男の目に触れるのかと思うと……腹立たしくて仕方がない」

 息苦しいほどにきつく抱き締められていたリュシアは、低く押し殺した声音を耳朶に感じた。

 微風のように忍びやかでありながら、地の底から沸き上がる熱を帯びた異母兄の声は、リュシアの心を竦ませるような生々しい欲望をはらんでいる。

 しかしその不安をあえて感じまいとするように、リュシアは鮮やかな蒼瞳を瞼で隠し、細い吐息をついた。

「私も……アゼリスを離れるのは寂しい。
 けれど、この婚姻は、私が生まれた時から決まっていた。
 それは、兄上もよくご存じでしょう?」

 マファールらしくない言葉を吐くのは、きっと王宮で何か嫌な事があったせいなのだろう。

 怯える心を無視して、リュシアは自分自身を無理に納得させる。

 リュシアがうつむくと、燭台の炎を弾く金髪がきらきらと輝きながら、白々とした胸元へと滑り落ちた。

「そなたの身体からは、いつもよい香りがする。
 甘く、繊細で……雄を高ぶらせるような蠱惑的な匂いだ」

 背後から抱き締めたまま、マファールは露わになったリュシアのうなじに顔を伏せ、酔いしれたような熱っぽい口調で呟く。

 首筋に、マファールの吐息が触れる。

 異母兄の言葉を訝しく感じたリュシアは、マファールの唇が肌に押し付けられた途端、びくりと体を震わせた。

 驚きのあまり、リュシアはとっさに身を引こうとしたが、体を絡めとるマファールの腕は強く、抜け出すことができない。

 髪の生え際をたどるように口付けていたマファールは、繊細な肌をさらに味わうように、白い貝殻のような耳の後ろに舌を這わせた。

「――兄上! お戯れはおやめください!
 私は明日、マディヤルへ嫁ぐ身。いくら兄上とはいえ、無礼が過ぎます」

 マファールの腕の中でもがきながら、リュシアは窘めるように言葉を放った。

「人払いはしてある。そなたが声を上げようと、誰も助けには来ぬよ、リュシア」

 マファールはリュシアを封じる手の一方をするりと夜着の中へと滑り込ませ、なだらかな胸を愛撫し始める。

 リュシアは声にならない悲鳴を上げ、淫猥さを増してゆく兄の手から逃れようと必死にもがいた。

「どんな女よりもそなたは美しいというのに、ここに乳房が無いというのは不思議なことだな」

 マファールは、掌に引っかかる小さな果実を指先で摘み取った。

 指の腹で柔らかくさすり、硬くしこり始めたところできつく押し潰す。

「――アッ!」

 疼痛に声を上げるリュシアを腕の中に閉じ込めたまま、マファールは低く嗤い、胸の突起を指先でねじり上げる。

 あまりの痛みにリュシアは体を硬直させ、息を詰まらせた。

「そなたのここも、女のように硬くなってきたな。
 ここを触られると、女はだんだんと気持ちが悦くなり、男に身を委ね始める。そして、ここは――」

 リュシアが身動きできないのをいいことに、マファールは耳朶に優しく接吻しながらそう囁き、もう片方の手で神秘の秘所を撫でた。

 男としては未熟なリュシアの陽根は、それでも充血して勃ち上がり、マファールにしごかれるとぴくぴくと淫らに震えた。

「男と同じで、ここは快楽を拒むことなどできない。
 私に触られて感じているのか、リュシア? 
 そなたのここから溢れるぬるぬるとした樹液が、私の手を汚しているぞ」

 男としての急所を手の内に捕えられ、リュシアは激しい恥辱を感じた。

「お……お止めください、兄上! どうして…こんなことを!」

 頬に朱を走らせたリュシアは、ぞろりと背筋を這い上がってゆく快感から意識をそらそうと顔を背け、引きつった声で叫んだ。

「可愛い弟の事を思えばこそだ。
 男を知らぬ無垢なそなたを、私の手で女にしてやろう。
 残虐なマディヤル王に、そなたの身体が引き裂かれぬように」

 冷淡な声音とは裏腹に、マファールの手は情熱的な愛撫を繰り返してゆく。

 身体の奥にある炉が熱く燃え立ち始め、リュシアはせわしなく息をあえがせた。

「あ、ああっ……いやだ……こんな――ッ!」

 鮮やかな紺碧の双眸に涙が浮かび、リュシアは芯からせりあがってくる快感に耐えようと、唇を噛みながら喉を反らせる。

 ところが、あと一瞬で愉悦の極みに達するかと思われた時、無情にもマファールは指先を引いてしまった。

 悦楽がするりと肉体からすり抜ける。

「――あ、ああぁっ……」

 リュシアは思わず落胆したような吐息をもらした。

 だが、マファールの指先が優しく花弁を掻き分け、その奥深くへと沈むと、初めての異物感に鈍い苦痛が湧き起る。

「気持ち悦かったようだな……そなたの女は悦びながら私を受け入れ、熱い蜜を滴らせている。
 そなたの初めての男は、この私だ。
 ここで交わって、私とそなたはひとつになるのだ」

 華奢なリュシアの体を捕らえたまま、マファールはまだ狭い未通の女芯を指先で犯し、忌まわしいほど淫らな言葉を放つ。

 異母兄の力強い腕を外させようとしたリュシアは、差し込まれた指先の先端からくちゅり、くちゅり……と淫らな水音が流れるのを、信じられない思いで聞いていた。

「いやだ……嫌です、兄上……もう、離して――!
 こんな事は……許されない!」

 必死で逃れようとあがくリュシアを見下ろし、嘲笑いながら、マファールは指先を根元まで押し込み、内部をかき回すように激しく蠢かせた。

「ひ、ひいいつ! いや、い…痛い――」

「指一本で痛いなどと言っていたら、私のこれが入ったら死んでしまうぞ。
 しばらく我慢しているのだ、リュシア。
 淫乱なそなたの体は、すぐにもっと太いものを欲しがるようになる」