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妖精王の光環


<7>




 せわしなく息を喘がせながら、ぐったりと脱力していた凛は、あまりの恥辱に身体が震え出すのを止められなかった。

 自分ですら滅多に触れる事の無い部分を、見ず知らずの男に弄ばれた上、浅ましくも快感に溺れて射精してしまったのだ。

 そこが男にとっては急所だと頭では理解していても、性欲を厭う凛の心は、激しい罪の意識と嫌悪感に苛まれてしまう。

 バルディーズを睨むこともできず、凛は目を瞑って顔を背け、理性にしがみつくようにただ歯を食いしばることしかできなかった。

 ところが、凛が動揺している隙に、バルディーズは身に纏った衣を全てを脱ぎ落とし、鍛えられた肉体を外気に曝した。

 再び男にのし掛かられた瞬間、肌と肌とが重なり合った場所に生命の熱を感じ、凛は驚愕したようにはっと双眸を見開いた。

「──ここはまだ男を知らぬようだが、やはり快楽に濡れるのだな」

 冷たく嘲笑うような声で呟きながら、バルディーズは節ばった長い指先を、凛の内側へと沈めた。

 内部の構造をさぐるように指先が動かされると、そこからくちゅり、くちゅりと淫らな水音が流れ出る。

 鉤状に曲げられ、淫猥に蠢く指を体内に感じた途端、凛は、頭の中が真っ白になるほどの衝撃を感じた。

(……一体、この男は、どこに指を──)

 性欲が淡白であるとは言え、男である自分の肉体を凛は熟知している。

 生まれてから今まで、自分が男であるという事を疑った事は一度も無かった。

 だが、男の指に貫かれた内腔は、かつてその存在を確認した事は一度も無く、存在する事自体がありえないものだった。

 パニックに陥っているというのに、理性は何故か冷静に、その部分はまるで女性器のようだと告げてくる。

 男の精を受け入れ、胎児を育む子宮へと続く道──。

 何故、自分にそんなものがあるのかと思った瞬間、凛の脳裡に、男に抱かれながら悦びの声を上げる母親の姿が浮かび上がってきた。

「やめろおぉっ! 俺に……触るなあーっ!!」

 嵐のような嫌悪感と恐怖に総毛立ち、凛は絶叫しながら逃れようと抵抗した。

 男が求めているのが何なのかを直感的に理解したがゆえに、それを拒否する本能がけたたましく警鐘を鳴らしている。

 突然激しく暴れ始めた凛を、バルディーズは膂力で押さえ込みながら舌打ちした。

 するとその時、濃い灰色の頭巾を目深にかぶった人物が、銀の盆を捧げ持ちながら歩み寄って来た。

「バルディーズ様……これを──」

 盆の上にはルビーを散りばめた銀のゴブレットが載せられており、中には血液を思わせる深紅の液体が満たされている。

 凛の両腕を頭上に押しつけて封じたバルディーズは、片手でゴブレットを取り上げ、中の液体を素早く口に含んだ。

 握り潰さんばかりの力で、凛の両手を押さえ込んだバルディーズは、華奢な顎を反対側の手で強引に捕らえ、口をこじ開けようとする。

 指が頬にめり込み、痛みを感じて凛が思わず唇を開くと、すかさず男の唇が重なった。

 口移しに液体が注ぎ込まれた途端、凛は喉に焼け付くような熱さを感じた。

 喉の粘膜を刺激する熱に驚き、呆然とした凛は、そのまま反射的に液体を飲み干してしまう。

 胃に落ちても熱を放っている液体は、やがてじわじわと血流に染みこみ、凛から抵抗する気力と体力を奪ってゆく。

 それと同時に、下腹の辺りにずんと痺れるような灼熱が宿り、牡の証である陽根と、本来は存在しない女陰が甘く疼き始めた。

 瞳が潤み、熱のこもった吐息を漏らすようになった凛を、バルディーズは冷酷でさえある眼差しで見下ろしていた。

 紺碧と深紅のオッドアイは、神秘的にも邪悪にも見える。

 その双眸を見返しながら、凛は低く喘ぎながらため息をついた。

「……あ、ああ……どうして……」

 自分の肉体に何が起こっているのか判らない──。

 身体の変調に怯え、凛は不安を隠しきれない眼差しでバルディーズを見つめた。

 彼は薄く笑みを浮かべると、凛に端整な顔を近づけてきた。

「傷つけようとは思わぬが、おまえと交わるためならばな。
 時は限られている──すぐにおまえを我が物にして、おまえの霊力をもらうとしよう」

 謎めいた言葉を囁いたバルディーズは、困惑に瞳を揺らす凛にもう一度口づけた。

 快楽に導くような巧みなキスに、凛は恍惚とした浮遊感に襲われる。

 ところが、男のいきり勃った肉槍を視界の端に認めた瞬間、凛はその巨大な剛直に戦慄し、思わず怯えた声を上げた。

「……嫌だ……止めてくれ──」

 哀願めいた凛の言葉を聞いても、バルディーズは顔色一つ変えなかった。

 飲まされた液体のせいで身動きできない凛を冷たく見下ろしたまま、彼は雪のように白い下肢を開かせて両脇に抱え、自らの腰を進めた。

「ひ…いぃッ! やっ、やめろおぉ……ぐうっ、うああーッ!!」

 身体は痺れたように動けなくても、感覚は正常か、あるいは常よりも過敏になっていた。

 存在するはずのない女唇に、熱く硬い牡の楔が押しつけられ、繊細な花弁を引き裂きながら、狭隘な花筒に侵入してくる。

 ミシミシと身体の芯が軋みを上げ、頭頂を突き抜けるような激痛が走り抜けた。

「ひいいっ……ひっ…いっ……ううっ、あっ…ああぁーッ!!」

 全身を引き裂かれるような衝撃に悲鳴を上げ、凛は一瞬意識を遠のかせた。

 男の全てを呑み込まされると、激痛は少し和らいだが、その代わり自分自身とは異なる脈動を体内に感じてしまう。

 しかし男が腰を引き、容赦の無い抽挿を始めると、凛は痛みと違和感によって覚醒し、再び苦悶の声を上げた。

「アアッ……やめ…ろっ……ひっ、ひうぅっ……くっ…ううぅッ」

 操り人形のようにガクガクと身体を揺さぶられ、凛は涙を流しながら啜り泣いた。

 男としての矜持を粉々に打ち砕かれながら、反撃することもできずに、肉体を蹂躙されていく。

 あまりの屈辱と絶望に打ちのめされながら、凛はただ行為が終わることだけを祈った。

 ところが、永遠とも思える凌辱の間に、尖端の張り出しと血管の浮き出た樹幹に擦り立てられる秘芯の花肉が、紛れもない快感を訴えてざわめき始める。

 疼痛とは異なる感覚に戸惑い、ぎゅっと閉ざしていた瞼を開くと、汗の玉を額に浮かべたバルディーズの秀麗な顔が目の前にあった。

 彼もまたきつく眉根を寄せ、荒い呼吸を繰り返しながら、貪欲に凛を穿っている。

 白皙の頬に汗が滴り、人間離れした美しい男の顔が快楽に歪むのを、凛はどこか夢見心地で見つめた。

 その瞬間、ふっと二人の視線が絡み合う。

 ラピスラズリとルビーの輝きを宿す双眸がわずかに見開かれ、そしてあたかも引き寄せられたかのように、バルディーズは凛と唇を重ね合わせた。

 激しい律動の代わりに、凛の口の中に滑り込んできた舌が奔放に動き回る。

「……んっ…ふっ、ぅうっ……ううっ……」

 いつしかバルディーズのキスに応じるように、自ら舌を絡め合わせていた凛は、再び胎内で楔が動きはじめると、それまでとは比べ物にならないほどの快感に襲われた。

「あっ…やめっ……あっ、ああっ……くっ……ああぁ……」

 肉体を引き裂く激痛が、いつの間にか官能を狂わせるような快美感に変わり、凛は幻想と現実の狭間で声を上げた。

(……夢なら……いつか目が覚める──)

 これが、抑圧された情欲が見せる淫夢であるのなら、朝になれば目覚めることができるはずだった。

 そもそも、男である自分が、女になるはずはないのだと思い、バルディーズに激しく突き上げられながら、凛は嬌声を怺えるように唇を噛んだ。

 苦痛に悲鳴するより、快楽に溺れる方が遙かに罪深い──姦淫を犯した母親と、同じ過ちを繰り返してはならない……。

 必死に自分に言い聞かせていた凛は、バルディーズが白熱を迸らせた瞬間、肉体を灼かれるような感覚に襲われた。

 双眸から涙が溢れだし、喉の奥から長く尾を引く震える悲鳴が流れる。

 その時、霞んだ視界の向こうに、星々の輝く夜空が見えた。

 清冽な青白い光を投げかける蒼銀の月と、血に染まったような禍々しい赤銅の月に照らされる夜空は、凛がいつも見上げていた夜の色よりも、わずかに明るく青みが強いように思われた。

 サファイアよりも青く、ラピスラズリのように光り輝く星を宿した幻想的な夜。

(まるで……俺を犯している男のようだ──)

 そんな事を考えながら、凛は自分の意識が闇に引き込まれていくのを感じていた。

 目覚めが近いのかと思い、ふと安堵する。

 未知の世界に迷い込み、誰もが羨むような美しく神秘的な人物に出会ったとしても、男である自分が女になって強姦されるような夢は、悪夢でしかありえない。

「……イズリューン……私を受け入れよ──そして……力を……」

 低く響く冷静な声が、遠くから追いかけてくるように耳に届く。

 まるで救いを求めるような男の美声を心地よく聞きながら、凛は解放を待ち望むように、最後の意識を手放した。