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Fatal Doll



<35>



 零の手首に嵌まった手枷の留め具が、鉄の鎖に連結される。

 ガチンと硬い音を立てた金具を、ファントムは確認するように両手で引っ張ると、満足げな様子で別のスイッチを押した。

 その途端、モーターが無慈悲に逆回転し始め、零の裸身は天井に向かって少しずつ吊り上げられていった。

 両腕は天井からV字型に吊られてしまい、いまだ手錠に拘束されている足は、爪先立ちになる位置まで引き上げられてしまっていた。

 これでは、全身に力が入らず、抗うこともできない。

 凄まじい恐怖に怯えながら、零は必死で身をよじり、無防備な裸身を少しでも隠そうともがき続けた。

「さあ……大人しくしていろ。
 そんなに暴れていると、大事なところが切れてしまう」

 零の前に立ったファントムはポケットからナイフを取り出し、自らの言葉に酔いしれるようにそう囁くと、下着の上に刃を当てた。

 秘処を愛撫するように優しく切っ先でなぞると、指を中に滑り込ませて布地に切り込みを入れ始める。

 秘奥へと刃が突き刺さり、切り刻まれることを想像した瞬間、全身から脂汗が吹き出した。

 歯がカチカチと鳴り始めてしまい、零は必死で震えを抑えようと、両目をきつく瞑り、奥歯を食いしばった。

「──くっ……ううぅ…ッ……」

 不意に下着がむしり取られ、零は喉を仰け反らせながら呻いた。

 露わになった部分に、ファントムの変質的な視線が痛いほど突き刺さってくる。

 好奇や落胆、あるいは嫌悪か──零の異形に気づいたなら、誰もがそういった反応を見せるだろう。

 だがファントムは、まるで驚いた様子もなく、むしろ嬉々として、手袋をはめたままの手で零の性器を探り始めた。

「ここに男を咥えこんで、悦んでいたんだろう?
 天使でありながら、堕落した行為に溺れたお前には、罰が必要だ」

 自らの言葉に陶酔しているのか、ファントムはハァハァと息が荒くしている。

「──ヒィッ! くぅ……うぅ……い、いや……いやだ……」

 ごわごわした太い指先が、縮こまった珠芽を摘み、さらに奥へと進んでくる。

 指先で花弁を開き、内側に入り込んだ瞬間、身体の芯に強い痛みが走り抜けた。

 全身を強張らせ、拒絶するように零が下半身を大きくひねると、ファントムは喉の奥で笑いながら、突然シャワーで湯を浴びせかけてきた。

 逃れることもできず、頭からぐっしょりとずぶ濡れになった零は、髪の先からぽたぽたと落ちてゆく雫を呆然と見つめた。

 自分のことを、ファントムはただの物か肉塊としか見ていないのではないか──。

 本能的な獣欲は感じとれるが、それ以外の感情は希薄で、むしろ玩具を乱暴に弄ぶ子供のような残酷さばかりが伝わってくる。

 大きく咳き込んだ零が、のろのろと顔を上げると、ファントムが目の前に立ち、見せつけるように手袋を外し始めた。

 手袋の下から現れたその手を見て、零は愕然と双眸を瞠った。

 左右五指の爪が全て剥ぎ取られており、指や手の甲にいたるまで無数のケロイドが走っている。

 全体的に赤黒く硬化しており、指先は爛れたように皮膚がボロボロになっていた。

 驚愕する零を瞬きもせずに凝視しながら、ファントムはゆっくりとマスクを外し、ニットの目出し帽を脱ぎ去った。

 男の顔貌は、同じ人間とは思えないほど歪に崩れていた。

 皮膚は両手と同じように爛れ、ミミズ腫れのようなケロイドが走り、抜け落ちてしまっているのか眉や髪の毛がまばらにしか生えていない。

 鼻の形は完全に潰れてしまい、鼻孔だけが黒くぽっかりと開いていた。

「……あっ…ああっ……あ……」

 恐怖に震え上がった零を、怨念を宿したぎらぎらと光る双眸が睨みつけている。

 気を失わないでいられるのが不思議だった。

「……恐ろしいか? 気味が悪いか?
 だが、こんな風になったのは、鷲塚のせいだ。
 鷲塚に復讐するために、お前を奪った。
 そしてお前は、あの男と交わっていた罰を受けなければならない」

 底知れぬ憎悪がこめられたしゃがれ声でそう言ったファントムは、爛れた指先を伸ばし、零の滑らかな肌を楽しむように愛撫しはじめた。

(──海琉への……復讐)

 混乱を極めていた零の脳に、その言葉は落雷のようなショックを与えた。

 何故、新堂が殺され、自分が拉致されたのか、その言葉で全ての出来事が腑に落ちる。

(……海琉と……この人の間に、いったい何が……)

 束の間、零は冷静さを取り戻したが、ファントムはそれ以上落ち着く暇を与えず、なだらかな胸元の頂にある突起を摘み、強くねじり上げた。

「……くっ……い、いや……ッ!」

 痛みに身をよじった零を背後から抱き締め、ファントムは嘲笑いながら囁いた。

「嫌がっても逃げられない──お前は、二度とここから出られない。
 鷲塚は、お前が死んだと思うだろう。
 お前はすぐに忘れ去られ、ここで死人の慰み者になるんだ」

 ファントムはざらついた指で双つの乳首を転がし続け、耳の中にぬめぬめとした舌を差し込んでくる。

「──ううっ!」

 嫌悪感に苛まれ、零が唇を噛みしめながら精一杯顔を背けると、ファントムは反り返った首筋に舌を這わせ始めた。

 その間にも、無防備な胸への愛撫は続き、押し込んだ乳首をまた摘み出され、幾度となく指先で弾かれる。

 唇を噛みしめて、おぞましい感覚に耐えていた零は、少しずつ刺激に敏感になってゆく肉体から気をそらそうと、必死で別の事を考えた。

(でも……海琉は、必ずあれが別人だって気づいてくれる)

 自分の身代わりに殺された憐れな少女──彼女の死体を鷲塚が見れば、零ではないときっと気づくだろう。

 だが、それまでは零が死んだと思い、鷲塚は苦しむのだろうか。

(──ごめんね……海琉……ごめんなさい。
 私は…いつもあなたに、心配ばかりかけてる……。
 もっと、しっかりしなきゃ……いけなかったのに……)

 誰よりも大切で、愛する人を、苦しませたくはなかった──たとえ、それがファントムの策略通りだったとしても。

 だが、もし本当に自分が殺され、鷲塚が知ったらどうなるか。

 そこに考えが至った時、零ははっと息を止め、湯気が揺らめく虚空を見上げた。

(……死んだら……ダメだ──)

 そして、生き続けることだけが、零に残されたただ一つの希望なのだ。

 生きてさえいれば、いずれ鷲塚が助けてくれるかもしれない……そう思うことができる。

 くっと息を呑み込み、零は弱気になりそうな自分自身を叱りつけた。

(……落ち着かなきゃ……泣いてばかりじゃ、どうにもならない。
 海琉だったら、きっと、そう言うだろう)

 ところがその時、獲物の鈍い反応が気に入らなかったのか、ファントムは零の未熟なペニスを強く握り潰そうとした。

 凄まじい激痛に貫かれ、一瞬にして思考が弾け飛ぶ。

 悲鳴を上げて反り返った零の身体を、ファントムは両腕で抱き留めると、萎縮した花芽をあやすようにしごき始めた。

「……他のことを考える余裕があるのか?
 だが、そのうち淫らな本性が暴かれ、狂い泣くことになる」

 がくがくと震える零の耳元でそう囁いたファントムは、一度傍から離れると、浴室の外から銀色のワゴン台を押して戻ってきた。

 その台の上には、巨大なガラスの注射器や、ゴム管、薬瓶などが、探しやすいように陳列されている。

 ファントムは、その中から木製の洗濯バサミのようなクリップを二つ取り上げると、青ざめている零の乳首を指先で引き出そうとした。

「……ヒッ!」

 小さなクリップに突起を挟みつけられた瞬間、零は悲鳴を上げ、頭を振り乱した。

 小さな鈴がぶら下がった木製のクリップは、零が身を揺するたびに、チリンチリンとこの場には似つかわしくない可憐な音色を響かせる。

 ジクジクと湧き上がる疼痛と、屈辱的な鈴の音で身動きできなくなった零は、足の手錠が外され、そのまま両足を開かされても、抗うことを忘れていた。

 足を閉じられないように、ファントムは両手と同じような足枷を嵌め、床に埋め込まれていたフックと連結してしまう。

 今まで以上に自由を奪われたことに気づいた時、作業を終えたファントムは、タイル張りの床に両膝を突いて、零の秘芯を指先で弄び始めていた。

「……くうぁ…ッ……あっ…うっ……」

 零は両目を閉ざし、ズキズキと疼く乳首の痛みを意識の外に追いやろうとしたが、指先に捕らえられた雄芯がファントムの口に吸い込まれた瞬間、試みはもろく崩れ落ちた。

 ファントムの舌先が敏感な尖端をなぞり、すぼめられた唇が全体をきつく締め付ける。

「──あうぅッ! い、いやぁッ……や、やめ……てッ……!」

 卑猥な吸引を拒むように身をよじった零は、肉体の芯にせり上がる忌まわしい感覚に戦き、切羽詰まった悲鳴を上げた。

 拒絶する意思を嘲笑うかのように、紛れもない快感が肉体の内に生まれようとしている。

 胸の突起を苛む疼痛が、もともと感じやすい性感を刺激し、恐怖で凍えきっていた肉体に淫らな熱を灯そうとしていた。

 左右に激しく頭を振り乱すと、その動きに合わせるようにチリンチリンと鈴が響く。

 振り子のように揺れる鈴が、さらなる忌まわしい刺激となって乳首をクイクイと引っ張り、零を惑乱させていった。

「フフフ……勃起してきた……感じているんじゃないのか?」

 喜悦の笑いをもらしたファントムは、さらに零を狂わせようと、先ほどより充血して大きくなった肉芽に吸い付き、口の中で執拗に舌嬲りを続けた。

 そしてざらついた指先で繊細な花弁の形をなぞり、蜜を含み始めた花唇の中に長い中指を埋め込んでゆく。

 媚肉を掻き乱され、口淫で弱みをいたぶられるうちに、零の瞳は戦慄に凍りつき、怯えた悲鳴を放ちながら、ガクガクと大きく仰け反った。

 感覚を遮断しようとすればするほど、神経が鋭敏になってゆく。

「──う、ううぅッ……や、やめて……うッ……うぅッ」

 何も感じたくはなかった。

 互いの肉体を重ね合わせ、零の快感を思うがまま爪弾き、高鳴らせるのは、鷲塚でなければならない。

 己自身の感覚に抗おうと、零はなす術もなく頭を振り乱した。