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Fatal Doll



<46>



 何故、鷲塚の宿敵であるこの男が、ここにいるのか──?

 御山の顔を呆然と見つめていた零は、混乱して瞳を揺らし、うつむいている翔太の方へと視線を向けた。

 翔太はちらりと零を一瞥すると、苦悩を露わにした表情で唇を噛み、顔を背けた。

「……どうして……翔太君が……あなたと──?」

 浅く息を喘がせながら零が問いかけると、御山はわずかに首を傾げた。

 口許には微笑が浮かんでいるが、見下ろしてくる双眸は笑っていない。

 得体の知れないどろり澱んだ闇が、その瞳の奥に凝っているように見えた。

「父親が、息子に会いに来てはおかしいかね?」

 御山はくくっと喉奥で笑い、愕然と目を瞠った零の顎から首筋へ、さらにその下の胸元へと指先を滑らせていった。

 肌をなぞるその感触に、ぞくぞくとした快感が躰の芯を走り抜ける。

 零はくっと歯を食いしばって喉を反らした。

 そうしていなければ、今にもあられもない声を上げてしまいそうだった。

「認知はしていないが、翔太は私の息子だ。
 私の後を継げる器かどうか、いろいろと試しているところでね。
 鷲塚を出し抜けるかどうか……しばらく様子を見ていた」

 御山は淡々と語りながら、赤い果実のように腫れた零の乳首に触れた。

 媚薬を塗りつけられて敏感になっていた突起の表面を、指先でかすめるようにくすぐり、爪先で弾く。

「……くぅううっ……うぅっ……うっ」

 感覚をやり過ごそうと歯を食いしばった零の躰が、再び快感に反応して昂ぶり、ブルブルと震え出した。

 責め苦から逃れようとする白い胸を、御山の指は執拗に追いかけ、硬く尖った突起を指の腹で左右交互に擦り上げる。

「……う、ううっ……くっ……ううぅッ…んんッ」

 いつしか零は上気した顔を仰け反らせ、切羽詰まった呻き声を上げていた。

 こぼれ落ちる小さな声の中に、官能の艶が微かに滲む。

 双眸を細めた御山は、さらに戯れるように左右の突起を摘み上げ、ひねりを加えながら手前に引っ張ろうとした。

 その瞬間、千切られそうな痛みと相反する快感に襲われ、零の全身から汗が吹き出し、弓なりに背中が反り返った。

「──ヒイイッ……ううぅッ……ぅああぁッ!」

 玩弄されて淫らに踊る躰を見下ろしていた御山は、くつくつと笑い、途切れていた話の続きを零に聞かせた。

「──とは言え、なかなか、私が満足できるような結果にならないものでね。
 翔太は頭は悪くないが、極道としては神経質すぎて、図太さが足りない。
 どうせなら逃げ帰って来るのではなく、鷲塚を正面から退ける強さが欲しいものだ」

 深い失望を露わにした眼差しを翔太に注ぎ、御山はようやく零から手を離した。

 その言葉を聞いて顔を青ざめさせた翔太は、怒りと憎悪を瞳に宿らせ、冷酷非情な父親を睨み返した。

「──鷲塚との勝負は、まだ、これからです」

 一語一語区切るようにして言い返す翔太を見つめ、御山は冷笑を浮かべると、息を乱して震えている零に視線を戻した。

「だがお前は、この零に対しても、情をかけ過ぎている。
 つまらん良心など、さっさ捨ててしまえ。
 お前の代わりなど、いくらでもいる──できなければ、もうお前に用は無い」

 その瞬間、鋭く鞭で打ち据えられたように、びくりと翔太の肩が震えた。

「失敗するなら、お前が大事にしている功刀という弁護士は始末する。
 お前の母親も……この零の命も──お前の働き次第だということを忘れるな」

 御山はさらに冷酷な言葉を浴びせる。

 その恐るべき恫喝に、翔太だけでなく、零もまた全身を竦み上がらせた。

 御山は本気だった。

 双眸には一片の情動も浮かんでおらず、底無しに冥い非情さだけが宿っている。

 鷲塚も同じような目をすることを思い出し、零は怯える心を抑えるように瞼を閉ざした。

 だが、張りつめていた空気が緩んだ時、御山の指先が露わになった零の秘所に落ち、蜜液を滴らせる花芯に沈められた。

「……うぁあっ……や、止めて……ッ!」

 思わず悲鳴を上げた零に、御山はおかしげに笑いながら囁いた。

「つたない翔太の責めでは、もの足りなかったんじゃないのか?
 鷲塚なら、もっと容赦なくお前を責めるだろう。
 だが、あれも物好きな男だ。
 よりによってお前のような、男にも女にもなり損ねた人間に惚れたんだからな。
 もっとも……それだけお前のここは、具合が良いということか?」

 わざと大きな水音を立てながら花裂を掻き乱した御山は、恐怖と怒りそして湧き上がる快感の狭間で身悶える零を見下ろし、翔太に声を掛けた。

「翔太──ゴムを寄越せ」

 金縛りに遭ったように身動きできずにいた翔太は、その言葉ではっと目を瞠り、懊悩するように眉根を寄せた。

「早くしろ。お前のせいで、生で挿れられなくなったんだ」

 拳を握り締め、きつく瞼を閉ざした翔太は、近くにいた男が差し出すコンドームを受け取ると、決心したように足を踏み出した。

 零を拘束する椅子から離れた御山は、嘲笑うように告げた。

「敵のオンナに情けをかけた罰だ。
 いつものように私をしゃぶって、お前がゴムを付けろ。
 お前がどんな人間なのか、せっかくだから零にも見せてやるといい」

 青ざめた翔太は、激しい屈辱に身を震わせながらも、命令通り床に膝をついた。

 耳を疑い、驚愕に声を失っていた零は、翔太が御山の張り詰めたペニスを取り出し、奉仕するように舌を這わせ始めたのを見て、思わず顔を背けていた。

 ピチャピチャと水が弾ける音が響き、くぐもった翔太の呻きが鼻から抜ける。

 狂っているとしか思えなかった──本当に、二人が実の父子であるのなら……。

 だが、しばらくすると、準備を終えた御山は再び零の足許に立ち、小刻みに震える白い内股を掌で撫で上げた。

 御山の唇に残忍な嗜虐の笑みが浮かぶと、零は喉を引きつらせて悲鳴を上げた。

「──や、やめて……ッ! い、いや…いやあ……ッ!」

 拘束されたまま零はむなしい抵抗を繰り返し、恐怖におののく顔を振り乱した。

「たまらない悲鳴だ──鷲塚のオンナを犯せるのだと実感させてくれる。
 こんなに血が沸き立つのは久しぶりだ」

 束の間、悲鳴を聴き入るように瞼を閉ざし、愉悦の表情を浮かべた御山を、零は泣きながら死にもの狂いで睨みつけた。

 この男にだけは……決して、屈してはならない──魂が叫び声を上げている。

 救いを求めて悲鳴を上げ続ける心を抑えつけ、零は溢れ出る嗚咽を堪えた。

 耐えなければならないのだ……鷲塚の傍に、帰るためには……。

「さあ、零──存分に泣きわめいて、よがり狂え。
 お前が、私に犯されていることを知ったら、鷲塚はどう思うだろうな?
 考えるだけで愉快だが……その様を見られないのが、本当に残念だ」

 御山は無防備な零の秘唇に尖端を押しつけると、ぐっと躰を押し進めてきた。

 押し広げられ、貫かれる──その瞬間、媚薬に蕩けていた花弁が一気に燃え立ち、意思に反して喜悦の叫びを上げた。

「……くぅっ…あああぁッ! ひいっ……いやぁッ……いやあぁッ!」

 限界まで裸身を反り返らせた零は、容赦なく襲いかかってくる快感から逃れようと、惑乱して顔を振り立てた。

 感じたくは無いのに、異常なまでの快美感が全身を貫き、ビクンビクンと跳ねるように反応してしまう。

 御山は声を上げて笑い、淫らな締め付けを楽しむように、ゆっくりと律動を繰り返した。

 そのたびに零は顔を仰け反らせ、抗いようのない官能の痺れに悲鳴を迸らせた。

「──やっ……やめて…ッ! ……ひあっ……アアァッ!」

「イヤと言いながら、ざわざわと絡みついてくるぞ。
 出来損ないの躰のわりには、ここは名器だな」

 嘲るような言葉を投げかけた御山は、びくりと震え上がった零に腰を密着させると、涙で汚れた顔を押さえて囁きかけた。

「──どんな気分だ? お前が愛する男の、憎むべき敵に犯される気分は?
 いっそ、お前を孕ませてやったら、面白いだろうがな。
 愛する者を奪われ、穢されて……母親と同じような目に遭っていると思えば、あの鷲塚でも苦しむだろう。
 私は、鷲塚のそういう顔が見たいんだ」

 きつく瞼を閉ざして男の視線を拒絶していた零は、はっとセピアの瞳を瞠った。

 その一瞬、御山の顔に驚愕が広がる。

 御山は零の頬を両手で挟み込むと、恐怖に彩られた双瞳をじっと見下ろした。

「──お前は……私が昔愛した女に、不思議なほどよく似ている。
 あの女も、私を心底憎みながら、こうして抱かれると乱れていった。
 愛する男の名前を呼びながら、そのうち堪らなくなって私を求め始める。
 お前も、きっとそうなるだろう。
 鷲塚を忘れて、私に『いかせて』と頼むようになる」

「……そ、そんな事……あるわけ…ないっ…!」

 凄まじい怒張の脈動に苛まれながら、零は不自由な両手の拳を握りしめ、わずかに頭を振ろうとした。

 だが、押さえられたままの顔は動かない。

 そのうち、肉体の奥底に尖端が擦りつけられると、零はかっと目を見開き、唇をわなわなと喘がせた。

「ここが感じるのか、零? 鷲塚にもここを突かれて、啼かされていたんだろう?」

 残酷な微笑を浮かべた御山は、零の顔を固定させたまま、小刻みな動作で同じ場所をえぐり続けた。

 押し止めようとする意思を振り切り、零の躰がぶるぶると痙攣し始める。

 責め続けられ、もろくなっていた躰はもはや、暴力的な快感に抗うことができない。

 声も出すことができず、恐怖に瞳を見開いていた零は、冷酷な微笑を浮かべる御山の顔をただ見返すことしかできなかった。

「……あ、ああっ……いやっ……やめて……ひあぁッ……止めて──ッ!」

 ところが御山は、絶頂に昇りつめようとする躰を突き放すように突然身を引くと、「ファントムを連れて来い」と、控えていた男に命じた。

 力みが抜けてどっと頽れ、大きく胸を喘がせていた零は、その言葉を聞いた途端、蒼白になった。

 不吉な予感に、血が凍りつくような恐怖さえ感じる。

 すぐに連れて来られたファントムは、両手足を鎖で繋がれ、訳の判らない叫び声を上げ続けていた。

 その凄惨な姿に総毛立った零に、御山は揶揄するような眼差しを向けると、器具台に置かれていた細い注射器を取り上げた。

「これには覚醒剤が入っていたんだが……翔太は、お前に使わなかった。
 中毒になると、誰もがああなる──翔太に、感謝するんだな」

 冷ややかにそう告げて、御山はファントムの前に注射器を放り投げた。

 何も視界に入っていないように、ファントムは血走った目で、ぎょろぎょろと宙を睨みつけている。

 ところが床に転がったそれを見つけると、ファントムは両脇の男たちを恐るべき力で振り切り、涎を垂れ流しながら注射器に飛びついた。

 震える手でキャップを外し、腕に針を突き立てる──醜く焼けただれた顔に、恍惚の表情が浮かび上がった。

 その無惨な姿を蔑むように見下ろした御山は、再び零の躰を剛直で貫くと、中断していた淫らな律動を繰り返し始めた。

「……ひああっ……あ、ああっ……も、もう……やめて……ッ──お願い…ッ!」

 陵辱に怯え、すすり泣きをもらす零の耳元で、御山はひどく優しい声で語りかけた。

「私に犯されて、気持ち悦いんだろう? 
 なら、あの可哀想なファントムに、お前の淫乱な姿を見せてやるといい。
 お前に惚れて、身を滅ぼした、哀れな男だ」

 思いがけない言葉にはっとすると、御山は唇を触れ合わせんばかりに顔を近づけ、くつくつと笑いながら言った。

「……まだお前は、あれが何者なのか、思い出せないのか?
 誰よりも罪深いのは、お前だろう?
 お前に惚れた男たちはみな、破滅へと導かれていくというのに──」

 涙を流し続ける零の顔をつかんだ御山は、二人の交合を凝視し、ギラギラとした欲望を露わにし始めたファントムの顔を見せつけた。

 鎖に繋がれたファントムは、激しく興奮しているのかハアハアと息を荒らげ、零の方へと這い寄ってこようとする。

 欲望に濁ったその目に、理性の光は無い。

 醜く焼けただれた手が伸ばされた途端、凄まじい恐怖に貫かれ、零は絶叫した。

 御山は高らかに哄笑し、激しく律動を刻み続ける。

 精神も肉体もバラバラに壊されていくような錯覚に、零は狂乱し、悲鳴を上げ続けた。