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Fatal Doll



<59>



 通話を切った真那は、厳しい表情を浮かべている新堂を見つめ、首を傾げた。

「お金は奪われてもいいって、鷲塚さんは言ってたけど……。
 ちゃんと、犯人を追跡できてんのかなぁ?
 新幹線の中まで古谷さんを護衛できてたの、結局2人だけなんでしょ?」

「犯人がGPSに気づかなければ、東山さんが居場所を突き止めるはずだ。
 そこにきっと……零さんもいる」

 まるで自分自身に言い聞かせているような新堂の言葉に、真那は小さく頷いたが、心に不安が残り、ポケットの中のキーホルダーを握り締めていた。

「古谷さんの次は……あたしかな? それとも、鷲塚さんの方かな?」

 犯人が近くから見ているような気がして、落ち着かなくなった。

 真那は恐る恐る周囲を見回しながら、ふと銀のジュラルミンケースに目線を落とした。

 鷲塚は取引に応じ、身代金を支払うつもりなのだから、さっさとこの金を取りに来て、零を返してくれないだろうか。

(零ちゃん……どうか、無事でいて──必ず、みんなで助けるから……)

 空を見上げた真那は、不安に揺れる心を振り切るように、瞳に力を込めた。



 すでに感覚は麻痺しかけていたが、御山に躰の芯を貫かれ、内奥を突き上げられる振動だけは感じられた。

 疲れ果て、朦朧とした双瞳を見開いていた零は、内部から躰を壊されてゆくようなその感覚に苦しみ、きつく眉根を寄せた。

 秘唇を割られ、深々と貫かれたまま前後に揺さぶられると、ジュブジュブとぬかるんだ卑猥な水音が響く。

 混ざり合った体液──傷ついた我が身を守るように溢れた愛蜜と、その躰を穢すように放たれた御山の白精と……。

「……あっ…あっ……ああっ……」

 もはや声を抑えることもできず、大きく突き上げられるたびに、半ば開いた零の唇から虚ろな喘ぎが漏れ出していた。

 閉ざすこともできない瞳からは絶望の涙が、緩んだ口の端からは涎が滴り落ち、妖しいほどに鮮やかな深紅のシーツを濡らす。

 苦痛を感じた時だけ指先が強張り、助けを求めるようにシーツを掻きむしったが、零の両腕は力を失ったように頭上に投げ出されていた。

 そんな零の鈍い反応を咎めるように、御山は不意に動きを止め、白い双臀をぴしゃりと平手で打った。

「さあ、もっと自分から腰を振れ。
 私を満足させられなければ、お前が嫌っているあのファントムを呼び戻すことになるぞ」

 その名を聞いた瞬間、背筋に震えが走り、零はのろのろと顔を振った。

「……いや……いや……怖い──止めて……」

 掠れきった悲鳴を上げた零は、両腕に力を入れて上半身を支えると、促されるまま腰を揺り動かした。

 その様を背後から見下ろし、御山はくくっと喉を鳴らした。

「すっかり私に馴染んでいるが、少し緩みすぎたな。
 どれ……今度は、こっちに嵌めてやろうか」

 秘芯を穿ったまま、御山は零の後蕾を指先でなぞると、ガラスの瓶に入ったとろみのある液体を窪みに垂らした。

「さあ、零──自分の指を奥まで入れろ」

 淫猥なその命令に、一瞬全身を強張らせた零は、きつく瞼を閉ざした。

「……お願い……海琉を……殺さないで──翔太君を……止めて……」

 幾度となく繰り返される哀願。

 無力な操り人形のように御山に屈したのは、愛する人の命を守りたいと願ったから。

 翔太はすでに、鷲塚抹殺の準備を整えるため、昨夜のうちに屋敷から姿を消している。

 その彼を止めることができるのは、ここにいる御山だけ──。

「お前が私のオンナとして従順に振る舞うなら、鷲塚を生かしておいてやろう」

 守られることはないであろう残酷な戯れ。

 だが、それでもわずかに残された可能性にすがり、零は御山の言いなりになって抱かれ続けていた。

 今できることは、それしかない。

 だからこそ、どれほど破廉恥な行為を強制されても、御山の命令に服従してきたのだ。

「……あ、ああっ……やぁっ……いや……中が──」

 躰を捻りながら、背後に回した右の手指で己の後肛を貫き、ほぐすように蠢かせると、とろりとした液体が染みこみ、じわじわと熱く火照り始めた。

 たまらなくなり、無意識に腰をもじつかせると、秘芯に突き刺さった御山の存在が急に大きく感じられ、零は思わず低く呻いていた。

 そのまま奥をぐいと押し上げられ、衝撃で腰が反り返る。

「もっと指を開くんだ。全部注ぎ込んでやる」

 くつくつと笑う御山の言葉通りに、零は唇を噛みしめながら、後蕾を自ら開いて見せた。

 恥ずべき姿を見られながら、媚薬を注ぎ込まれる。

 そうして、零の指の狭間に御山は自身の指を差し込み、内部を撹拌するように動かした。

 指の腹で、薄い肉壁越しの己自身をなぞり、御山は残酷に忍び笑う。

「私を感じるだろう? お前のこの格好を、鷲塚に見せてやりたいものだな」

 零の太腿が快感に震え始めると、御山はそう言って嘲笑し、秘唇を穿っていた楔をずるりと引き抜いた。

 硬度を保った男根は、そのまま後肛にあてがわれ、内部へと沈み始める。

「──ぅあああっ……いやあぁッ……動かないで!」

 まるで神経を直接引っ掻かれているような凄まじい快感に、零は狼狽し、悲鳴を上げた。

 逃れようとする腰を御山の手が引き戻し、奥深くまで結合する。

 そのまま小刻みに揺さぶられると、零は混乱の中で、苦しみ藻掻きながら嬌声を放った。

「……あ、あああッ……海琉ッ……いやっ……もう……許して……!」

「鷲塚も、ここを使って、お前を抱いていたのか?」

 息を荒らげ、白い背中を抱え込むように覆い被さった御山が耳元で囁きかけると、零はきつく眉を寄せたまま唇を噛んだ。

 御山の口からその名前が出るたびに、鷲塚の気配を身近に感じ、躰から心が離れていきそうになる。

 だが、御山はそんな零を現実に引き戻し、汚辱の中に沈めた。

「……ここはどうだ? こんな風に弄られていたのか?」

 前方に差し込まれた手が、赤く充血して膨らんだ零の花茎を捕らえ、酷く嬲る。

 甲高い悲鳴を放った零は、御山の動きに合わせるように躰を波打たせ、肉悦に飲み込まれそうになった。

 だが、ひどく冷ややかな御山の声が響いた途端、ぎくりと躰がすくむ。

「鷲塚も、哀れな男だな。
 お前に惚れなければ、弱みを作ることなく生きられただろうに。
 いっそ、さっさと自分の手で殺しておけば、誰にも奪われずにいられたのだろうが……」

 背後にいる御山の表情は見えなかったが、色情に溺れる淫蕩な声音ではなかった。

 むしろ、何もかもを突き放し、遠くから観察しているだけのような、ひどく冷たく乾いた音色だった。

 空虚な絶望──御山が抱え込んでいる深い闇をまざまざと感じ取り、零は恐怖に捕らわれた。

 ざっと鳥肌が立つと、それを見取った御山はくつくつと笑い、零を仰向けにひっくり返し、お互いの顔が見えるようにして秘蕾を貫いた。

「……あ、ううぅぅっ……」

 苦痛に仰け反った零を見下ろした御山は、白い喉に両手をかけ、顔を寄せて囁いた。

「私の許から逃げ去り、舞い戻ってきた香澄をこの手で殺してからは、どんな女も同じ顔に見える。
 だが不思議とお前は、だんだん香澄に似てくるな。
 もう一度、こうして殺してしまえということか?」

 御山の手に力がこもると、呼吸が止まり、零は息苦しさに喘いで顔を歪めた。

 香澄という名の女性は……御山に、殺されたのだ。

 頭の隅で悟った瞬間、血が凍りつくような絶望に襲われた。

 男の手を引きはがそうと、零が必死に爪を立てると、御山は笑いながら力を緩める。

 そして、零が苦しむ姿を楽しむように、再び指先に力を入れた。

「……何故……どうして……殺したの……?」

 かつて愛した女性すら冷酷に殺害した男に戦きながら、零は死にもの狂いで声を振り絞った。

「私を裏切る者は許さない──それだけだ」

 御山は冷ややかに笑うと、不意に喉から手を離し、緩やかに陵辱の律動を刻み始めた。

「……ぅあっ……あ、ああっ……」

 総毛立つような快感が背骨を走り抜け、喉を反り返らせた零はシーツを掻きむしった。

 たとえ媚薬のせいだとしても、冷酷非情な御山に犯され、感じてしまう躰が厭わしい。

 鷲塚と過ごした時間さえも穢されていきそうで、零は唇を噛みしめ、髪を振り乱した。

「お願い……私を……殺しても、いいから──海琉を……助けて……」

 だが、何度も懇願する零の姿を嘲笑うように、御山は不意に恐るべき言葉を放った。

「お前がいくら頑張って鷲塚の命乞いをしたところで、私の意思を変えることはできんよ。
 残念だが、今日中には訃報が舞い込んでくるだろう」

「──いやああぁッ!」

 打たれたように身を強張らせた零は、悲痛な叫びを上げ、のしかかってくる御山を押し退けようと両手を振り回した。

 だが、御山はその腕を難無く押さえ込み、己の存在を思い知らせるように激しく零の躰を突き上げ始めた。

「バカな子だ……お前は何も判っていない。
 おそらく、鷲塚本人は、自分のオンナに無様な命乞いをさせてまで、生き長らえようとは考えないだろう。
 むしろ命を捨てる覚悟で、戦いを挑んでくるはずだ。
 お前が自分の意思で私に躰を開いたと知れば、さぞ幻滅するだろうな」

 零の愚かさを嘲笑しながら、御山は己自身を根元まで押し込み、深く息を吐き出した。

 そして、ショックを受けたように目を剥いた零を見下ろし、にやりと唇をつり上げる。

「翔太は、鷲塚を仕留めるためにファントムを連れて行った。
 ファントムの頭に残っているのは、お前への妄執と、鷲塚への憎悪だけだ。
 どうやって復讐を果たすのか、興味深いと思わないか?」

 鷲塚に対する激しい憎悪も、零への狂気じみた執着も、ファントムと呼ばれる男の心に深く根を下ろし、もはや消し去ることはできないのだろう。

 だが、それ以上に恐ろしく底知れないのは、目の前にいる御山だった。

「……あなたは……どうして、そんなに海琉を憎むの──?」

 涙を抑えることができず、零がすすり泣きながら問いかけると、御山は動きをとめ、くくっと喉を鳴らした。

「私が老いた時、あの男は今よりもさらに力をつけ、私を凌ぐ存在になるかもしれない。
 あれに初めて出会った時、私はその危険を感じた。
 それ以来、何度となく命を狙ってきたが、あれはしぶとく生き残っている。
 芽は早めに潰しておいた方が良いというのに……いまだに成し遂げられていない。
 そんな存在を、お前は憎まずにいられるか?」

 御山の歪んだ感情に怯え、零は首を振り乱した。

「……あなたは……狂ってる──そんな身勝手な理由で……人を殺すなんて……」

 すると、御山は零の顔をつかんで鼻先を突き合わせ、ひどく優しい声で囁いた。

「お前は、香澄と同じ事を言う。
 だが、身勝手なのは鷲塚も同じだ。
 私の手も、鷲塚の手も、同じように人の血で染まっている。
 どんな理由があろうと、その事実は変わらない。
 それでもなお、あの男の傍にいたいと願うなら、お前も鷲塚と同じ業を背負わなければならないが……お前に、その覚悟はあったのか?」

 はっと息を飲んだ零を冷たく見下ろし、御山は双眸を細めた。

「香澄は、それを厭って私の許から逃げた。
 潔癖な女だったからな──平然と法を犯すような男には耐えられないと言っていた。
 あれが望んでいたのは、いわゆる平凡な幸せというヤツだ。
 それはお前も、同じではないのか?」

 御山のその言葉は、零の心に思いがけないほど深く突き刺さった。

 一瞬、嫌悪することも忘れ、零がその顔を呆然と見返すと、御山はひどく醒めた目つきで冷然と笑った。

「ああ……余計な事をしゃべり過ぎたな。
 お前は何も考えずに、私に抱かれて啼いていればいい」

 そう言い、御山は口を噤むと、零の肉体を貪ることだけに集中し始めた。

 曖昧に溶けていた感覚が、急に鋭く尖って零を苛み、想いが千々に乱れてゆく。

(……私は……それでも……海琉の傍にいたい──)

 不意に心の中に抑え込んでいた感情が弾け、涙となって溢れ出す。

 ただ、それだけが望みだった。