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Fatal Doll



<8>



 それを聞いた薫は、思わず苦笑を浮かべた。

「基本的に、お節介で頑固なのよ、あの人。
 自分が良いと思った事は、誰かれ構わず押しつけるし、筋がどうの、しきたりがどうのってうるさいんだから。
 お父さんはああいう人だから、いつも聞き流してるけど、海琉とは昔からよくぶつかってたわね。
 海琉も、自分の意見を曲げないからさ」

 冷静に母親の性格分析をした薫は、呆然としている新堂の顔をのぞきこんだ。

「だから、海琉は自分で零ちゃんを連れて行くことにしたわけ。
 新堂君じゃ、お母さんに逆らえないでしょう?
 海琉は、誰の目にも触れさせないよう、本当は零ちゃんを閉じ込めておきたいのよ。
 あいつにとって、大事な宝物みたいなもんだから」

 ところが、その言葉を聞いた新堂は、突然感極まったように両目をつぶり、拳を強く握りしめた。 

「──そ、そんな大切な零さんの命を、若頭は、いつも俺に預けてくれているんですね!」

「……はあ?」

 話の飛躍についてゆけず、薫は訝しげに首を傾げた。

 しかし新堂は、気力を取り戻して背筋をぴんと伸ばし、意を決したように宣言した。

「零さんを守るためだったら、俺は命懸けますから!」

「……よく判んないけど、元気になったならいいわ」

 やや呆れ気味に薫が呟くと、それを見ていた古谷がくつくつと笑い出した。

「単純というか……幸せな性格だなぁ、新堂」

「マゾとしか言いようがありませんけれどね」

 新堂をからかう古谷の言葉にうなずきながら、東山も皮肉っぽい笑みを浮かべる。

 そして、成り行きを黙って見ていた高宮は、何も言わずに天井を見上げ、嘆かわしげにため息をついたのだった。




 全身にずっしりとした重みと、寝苦しさを感じ、零は深く息を吸い込んだ。

 気を抜けば、また瞑ってしまいそうな瞼を開き、天井を束の間ぼんやりと見つめる。

 意識を失うようにして眠ってから、どのくらい時間が経ったのだろう?

 ほんの短い間しか眠っていないような気もするが、夢も見ないほど深い眠りだった。

 けれど少しずつ頭脳が目覚めてゆくと、夜の記憶が身体の芯に蘇り、零は切ないため息をもらした。

 苛烈ですらある鷲塚の情熱が、熾火のように残っている。

 ところが、そのまま寝返りを打とうとした時、鷲塚の長い腕に抱え込まれていたことにようやく気づいた。

 さらには、二人の両足が絡み合い、思うように抜け出せない。

 自分の足を動かそうとすれば、否応なく鷲塚を刺激してしまうだろう。

 どぎまぎして零が顔を赤らめると、いつから目覚めていたのか、鷲塚が堪えきれなくなったようにくつくつと笑い出した。

「……お、重いよ、海琉。潰れちゃいそう」

 急に気恥ずかしくなり、零は小声で不平を口にした。

 すると鷲塚は、腕をどかす代わりに、零を自分の身体の上に引き上げた。

「──これならいいだろう」

 寝起き独特の物憂げな低い声で囁いた鷲塚は、そのまま零のうなじを引き寄せ、戯れるように唇を重ね合わせた。

 まだ完全に目覚めていないせいか、甘やかなキスに翻弄され、夢心地になってしまう。

 敏感な首筋に幾度となく口づけられ、背中を抱き寄せる手が肌の上を優しく滑り出す。

 狂おしいほどの快感に責め立てられた夜とは一変し、鷲塚の愛撫はどこまでも優しく、零は温かな心地良さにうっとりと身を委ねていた。

 ところが、鷲塚の指先が、双丘の狭間をたどり、慎ましやかな秘蕾をゆるゆると刺激し始めると、途端に零は落ち着きを失った。

 昨夜も蹂躙されたはずのそこは、まだ熱をはらんだように疼いている。

「あっ……も、もう……起きなきゃ……」

 思わず声を上げた零は、淫らに蠢く指先から逃れようと身をよじらせた。

 しかし力を増した鷲塚の指は、つぷりと後蕾に押し入り、内部に残っている欲望の残滓を掻き乱した。

「──アアッ!」

 二本の指で刺し貫かれた瞬間、鷲塚にしがみついていた零は、大きく仰け反った。

「尻の穴に咥えこんだまま気絶したんだぞ。
 眠らせてやっただけ感謝しろ」

 責めるようにそう言い、パシっと双臀を叩いた鷲塚は、いやいやとかぶりを振る零を己の上にまたがらせた。

「昨日の続きだ──足を開いて、自分で挿れろ」

 残酷で、ひどく官能的な笑みを浮かべる鷲塚を見下ろし、零は息を喘がせた。

「……嫌って…言ったら?」

 消え失せそうなか細い声で反抗を試みると、鷲塚は面白がるように唇を歪め、零の白い太腿の上に掌を滑らせた。

「嫌なら仕方がない──お前を縛って、『やる』と言うまで啼かせてやろうか?
 どうせ今日は休みだからな。いくらでも付き合ってやる」

 顔を青ざめさせた零を、鷲塚は鋼色の双眸を細めてにやりと笑った。

「……す、するから……酷いこと、しないで」

 どちらにしても許されないなら、負担の少ない方を選び取るしかなく、零はおののきながら膝立ちになった。

 猛り立った鷲塚の剛直を手で支えながら、自ら秘肛に導く──その浅ましい姿を見られる恥辱に震え、零はぎゅっと両目を瞑った。

「……あ、あうう……ううっ……き、きつい」

 夜の間にとろかされているとはいえ、慎みを取り戻した後蕾を開かれるのは辛く、零は呻きながらわなわなと唇を震わせた。

 だが、ゆっくりと腰を沈めてゆくと、張り裂けそうな苦しみの中で鷲塚の脈動を感じ、えも言われぬ快感が湧き上がってくる。

「……あ、ああっ……おねがい……動かないで……」

 苦痛と快楽の狭間で必死に哀願しながら、時間をかけて零が根元まで呑み込むと、鷲塚は微かに艶めいた声で命令した。

「そのまま後ろに両手を突いて、膝を開け。
 お前のいやらしい姿をさらけ出すんだ」

 逆らう余裕さえなくなった零は、言われるがまま背後に両腕を突き、ぶるぶると震える膝を開いて見せた。

 情欲に染まり蜜を溢れさせる花芯や、むごく貫かれた後肛まで見られていると思うと、激しい恥辱に息が止まりそうになる。、

「──お前の好きなように動いてみろ」

 欲望に掠れた鷲塚の声に操られ、零は自分でもわけが判らぬまま、たどたどしく腰を上下させ始めた。

 しかし、すぐに灼けつくような快感が湧き起こり、零は喉から背筋まで大きく反り返らせて硬直していた。

「……だ、だめ……もう……ッ!」

 少しでも動けば、おかしくなってしまう──そんなぎりぎりのところで辛うじて踏みとどまっていると、鷲塚の手がすっと伸ばされた。

 充血し、硬く尖った花芽を摘み取られ、繊細な包皮ごとしごかれると、零はうわずった泣き声を上げ、狂ったように腰をうねらせ始めた。

「ひっ、ひっ……ひあぁッ……あっ、いやぁ…ッ……死んじゃう……ッ」

 やがて、鷲塚が下から緩やかに突き始めると、零はその律動に合わせながら身悶え、艶めいたうわごとと喘ぎをもらし続けた。




 鉛が入ったように重い腰をさすりながら、零はやりきれない思いでため息をついた。

 あの後、鷲塚に抱かれるようにして風呂に入り、全身を清めてもらったが、肌の上にはまだ情交の余韻がねっとりと絡みついている。

 辛うじて衣服は身につけたものの、身体がだるくて言うことをきかず、零はリビングのソファにぐったりとよりかかっていた。

「うう……ご飯作らなきゃ」

 朝からこれほど疲労困憊するのは、最近では珍しい。

 鷲塚が忙しくて、ゆっくりしている時間が無かったからだが──。

 もう一度嘆息をもらした零は、何とか気合いを入れてソファから立ち上がろうとしたが、途端に足から力が抜け、床に座り込んでしまっていた。

「……海琉のバカ」

 まだシャワーを浴びているはずの鷲塚に、零はささやかながら悪口を言うと、カーペットの上にごろんと仰向けになった。

 食事作りを放棄して、このまま寝てしまおうか──。

 そんな消極的な反抗を思い巡らせていると、バスローブ姿の鷲塚がリビングに現れた。

「お前──何やってるんだ?」

 洗いざらしの黒髪を掻き上げながら、鷲塚は呆れたように零を見下ろした。

 憎らしくになるほど疲れを見せない男を足許から見上げ、零は首を左右に振ると、のろのろと上半身を起こした。

「あれしきで腰が立たなくなったのか?
 相変わらず体力が無いな、お前は」

 足許をふらつかせている零に歩みより、支えるように抱き寄せた鷲塚は、さもおかしげにくつくつと笑った。

「──あ、あれしきって……海琉と一緒にしないでよ」

 思わず顔を赤くした零は、すねたように顔を背けた。

 鷲塚はくくっと喉を鳴らすと、そのまま零をソファに座らせ、まだわずかに湿っている亜麻色の髪を指先で梳いた。

「そんな事より、腹は減っているのか?」

「全然……食べたくない」

 恨みがましい声で零が呟くと、鷲塚は思いがけない事を言い出した。

「だったら、そこで待っていろ。
 着替えたら、すぐに出かける」

「出かけるって……どこに?」

 突然の事に驚愕し、零が聞き返すと、鷲塚は微かに不機嫌さを滲ませた声で応じた。

「──親父の病院だ。お前を連れて来いと言われているからな」