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Fatal Doll



<80>



 花芯の中で蠢く指先と同じように、鷲塚の舌は零の口腔を犯し、翻弄する。

「……ふあぁっ…はっ……ああっ……海琉──」

 せり上がる官能の渦に呑みこまれた零は、すぐに最初の歓を極め、痙攣を放った。

 総身から力が抜け、息を弾ませる零の前で、鷲塚は秘裂に浸した指を抜いて口に運び、ぬらぬらと銀色に光る快楽の雫を味わう。

 分かれた唇の狭間から赤い舌が妖しく蠢くと、その淫猥な様に惑わされ、全身の血がざわめいた。

 だが、すぐに羞恥に襲われ、見ていられなくなった零は、思わず視線を背けていた。

「これ以上すると、止められなくなりそうだが──ここも舐めて欲しいか?」

 くつくつと笑いながら、そんな零の両脚の間に顔を伏せた鷲塚は、からかうように息を吹きかけ、赤く尖った零の雄芽に舌を伸ばす。

「──あううぅっ……んっ…あっ……」

 鮮烈な快感がほとばしり、耐えきれずにビクンと腰を跳ね上げた零は、逃れようと反射的に両膝を閉ざそうとした。

 だが、鷲塚の手で押さえ込まれ、さらに大きく開かれる。

 口の中で扱くように舐められると、未熟なペニスは脈動が感じられるほどさらに充血し、大きく膨らんで熱を帯びる。

「ひあぁっ……あ、ああっ……イヤ……そこばっかり──おかしくなっちゃう……」

「イヤじゃないだろう──いやらしく腰を振っているのはお前だ。
 まるで、お前のココが、俺の口を犯したがっているようだな」

 吸われるたびに、小刻みに波打つ淫らな腰のうねりを指摘され、零は悲鳴を上げた。

「いやあぁっ……ああっ……お願い……そんな事、言わないで──」

 激しい羞恥に苛まれながらも、快楽に逆らえなくなっている零を上目遣いで見上げ、鷲塚は見せつけるように赤い舌を閃かせる。

 一瞬、瞼を開いて鷲塚を見つめた零は、ひどく背徳的なものを感じ、慌てて目を閉じた。

 瞼の裏にその光景が焼きつき、痺れるような快美感が総身に流れ込んでくる。

 そして、花弁に沈められていた指が、珠茎の根を抉るように内側で蠢くと、零は自分でも驚くほど淫らな嬌声を上げていた。

「ひうぅっ…あっ……っああぁっ! はあぁっ…んっ…ああっ…ああぁー…ッ!」

 神経が集中する敏感な零のペニスに、鷲塚の舌が蛇のように絡みつき、さらに擦り立てるように唇できつく吸われる。

 唾液を絡ませ、わざと卑猥な水音を立てながら、快楽の肉芽を執拗に刺激される。

 零は強すぎる快感に身悶え、ガクガクと震え続けた。

「……いやあっ……許して……イク…ッ……ああっ、ダメ……いっちゃう……ッ!」

 身体中が狂乱する痺れに支配され……極限へと追い詰められてゆく。

 尖端に歯を立てられた瞬間、甘い痛みが引き金となり、弓なりに反り返った零の総身が硬直した。

「──はううぅ…ッ……」

 だが、絶頂に達して砕け散っても、鷲塚はなおもその行為を止めようとはせず、のたうつ零を見上げながら、思うさまに舐め回し、掻き鳴らす。

 無慈悲な快楽の虜となり、受け止めきれずにシーツを掴んで乱れた零は、続けざまに押し寄せる愉悦に翻弄され、すすり泣きながら崩れ落ちた。

 虚脱して朦朧となり、ハアハアと荒い息を喘がせていると、爛れた快楽の余韻から疲労と気怠い睡魔が忍び寄ってくる。

 目を瞑ったままぐったりと横たわる零を、広い胸の中に抱き寄せた鷲塚は、優しくなだめるように額や瞼にキスを落とした。

「零……もういい──このまま眠れ」

 温かく、逞しい腕の中で小さな溜息をついた零は、とろとろと微睡みながら、鷲塚の胸にそっと額を押しつけた。

「……でも……海琉は……?」

「心配しなくとも、今のお前の姿と声を思い出しながら、後でいくらでもイけそうだ」

 誰よりも強い情欲を抑え込んだまま、鷲塚は汗ばんだ亜麻色の髪を指先で梳き、こめかみに唇を押しつけた。

「だけど……」

「今はまだ、無理はさせられない。
 がっつく俺を受け入れられるほど、お前の体力が回復していないからな」

 目を閉じたままその声を聞いていた零は、鍛え抜かれた体躯の熱さと、己の躰に当たる怒張の強さに惑わされ、身を震わせた。

 こうして肌を触れ合わせているだけで、自分は心地良い陶酔に堕ちてゆくが、解き放てない鷲塚は辛い思いをしているだろうか?

 鷲塚が欲しいのは……その存在で満たされたと思うのは、自分もまた同じ。

 早く一つになって、抱き合いたい──だから……。

「お願い、海琉……して……──抱いて……私は、大丈夫だから……」

 厚い胸板に唇を押しつけ、雄々しく隆起する筋肉を指先でなぞりながら、そっと囁く。

 その刹那、電流が流れたようにぶるりと身を震わせた鷲塚は、貼り付けるように零をベッドに押さえ込むと、鋭く光る鋼の双眸で見下ろした。

「俺を誘うな、零……後悔するぞ」

「後悔なんて、できないよ……私は、海琉を愛しているから──」

「優しくできなかったらどうする?」

 飢えたように見つめてくる鷲塚の頬に手を伸ばし、零は淡く微笑んだ。

「それなら、私を奪って……海琉の好きにしていい──私が、息絶えてしまうまで……」

 その言葉に返されたのは、理性を振り払った、貪るように激しいキスだった。

 鷲塚自身の張り出した尖端が、十分過ぎるほどに潤っていた零の花唇を探り当て、ゆっくりと押し開くように貫いてくる。

 柔らかな花弁を引き裂き、奥へと突き通される感覚はあまりにも鮮烈で、零は鷲塚の広い肩にしがみついて引き攣れた声を上げていた。

 圧倒的なその存在──躰の内側が張り詰め、重苦しいほど緩やかな律動を感じるたびに、爆発してしまいそうになる。

 すでに限界まで高められていた零の躰は、穿たれた瞬間に一気に燃え上がっていた。

「……ぅあぁっ…あ、ああっ……あううっ──凄い……海琉が……私の中で……」

 刺し貫かれたまま揺さぶられていた零は、両腕を鷲塚の首に絡めて、貪婪な獣欲を受け止めた。

 冷徹な理性の枷から解放された雄の本能が疾走し、零の魂の奥にまでリズムを刻み込もうと、鷲塚の剛直が深く、浅く律動する。

「──感じるのか、零?」

 のしかかってくる鷲塚の張り詰めた筋肉から熱い汗が滴り落ち、荒々しい息づかいが耳元へと降り注ぐ。

「ああっ…あっ……海琉が……中にいる……──ちゃんと……感じる……」

 太く長大な鷲塚の男根に、悦楽に蕩けた秘肉を擦られ、敏感な最奥を容赦なく抉られると、零は凄絶なまでの快感に身悶えた。

 強烈な痺れに腰骨が溶け、脳天まで突き抜ける快感の波が、重いひと突きごとに押し寄せてくる。

「はああっ……んっ…ああっ…ああぁ……ッ!」

 原始的な交わりは、お互いの想いがストレートにぶつかり、混ざり合ってゆくようだった。

 零の躰の脇に両腕を突いた鷲塚は、苦痛を堪えるようにきつく双眸を閉ざし、二人の間で交錯する狂おしい感覚に集中している。

 甘くロマンチックな睦言も、官能を高め合う優しい愛撫も無い。

 身の内を突かれるたびに弾ける強烈な快感と、共鳴する想いが、深く絡み合う二人から言葉を奪い、切迫した呼吸だけを部屋の中に響かせる。

 だが、次々に押し寄せる法悦の渦に巻き込まれ、零は鷲塚の下で藻掻き、息を止めて仰け反っていた。

「──あ、ああっ……あうぅぅっ……海琉……もう……ッ……」

 我を忘れ、意味も無くその名を呼ぶだけとなった零の顔を引き寄せ、鷲塚は喘ぎをこぼす唇をキスで塞ぐ。

 後を追うように昇りつめ、獣じみた唸りを上げた鷲塚の怒張が、ひときわ大きく脈動し、総身を痙攣させる零の最奥で爆ぜる。

 視界が真っ白にフラッシュし、鷲塚の精を受け止めた花芯もまた灼けるように熱くなる。

 その刹那、遥かな高みへと連れ去られた零は、愉悦の頂点に引き留めるよう強く抱き締められたまま、やがて暗い奈落へと堕ちてゆく。

「──零……俺は、お前が傍にいればいい」

 肩で荒い息をしながら、苦しみに喘ぐような、鷲塚の低い囁きが鼓膜に沈む。

 激しく求め合い、二つに引き離されるその瞬間を感じていた零は、限界を超えた疲労と睡魔に引きずられるように、意識を遠退かせた。 




 エンジンの轟音を響かせながら、巨大な旅客機が大空へと飛び立ってゆく。

 国際空港の屋上テラスから、飛行機が絶え間なく離着陸する滑走路を見物していた零は、思わずはしゃいだ声を上げていた。

「凄いですよね〜。何で飛行機って飛べるんだろう?」

「そりゃまあ、飛行機ですから、飛ばないと……」

 傍にいた新堂が思わず苦笑を浮かべると、零は目の上に手を翳して旅立ったばかりの飛行機の行方を目線で追った。

 薄い白絹のような雲だけが浮かぶ空は快晴で、眩しいほどの日射しが降り注ぐ。

 陽光が機体に反射して銀色に輝く様を、零は微笑みを浮かべて見送った。

「私、飛行機に乗るの、これが初めてなんですよ。
 外国はもちろんなんですけど、国内もあんまり旅行とかしたことなくて」

 半陰陽として生まれた自分が、他人の目には奇異に映るのではないかとずっと恐れ続け、見知らぬ場所に行くことが怖かった。

 高校を卒業してからは、日夜働き通しで、旅行に出かけるような余裕も無かったが──。

 曇りの無い笑顔を見せる零をちらりと横目で見た新堂は、浮き立つ気分に同調するように相槌を打つ。

「真那にも心配かけたし、何か、お土産を買ってこなきゃ」

「お土産買うなら、グアムの方がきっと面白いですよ。
 例の無人島は、何にも無いって噂ですし……」

 ちらりと背後を振り返った新堂の視線の先には、鷲塚と話している古谷の姿があった。

 銀ラメのストライプが入った白のスーツに、マゼンダピンクのワイシャツ。

 相変わらずの服装だが、古谷と話している鷲塚が、ダークスーツに黒のサングラス姿なのだから、一般人から見れば相当な威圧感だろう。

「そうなんですか? でも、きっと楽しいですよね、南の島って」

 セピア色の瞳を期待に輝かせる零に視線を戻すと、思わずつれられて口許に笑みが浮かび、新堂は楽しい時間を想像した。

「泳いだり……あと、サーフィンとかヨットとか、できると楽しいですよねえ」

 古谷から話を聞いたところ、どうやらその無人島は、世界的な超セレブが所有しているらしく、設備は充実しているらしい。

 何故、鷲塚がそんな場所を使用できるのかは、いささか謎めいていたが──。

 それに関しては詮索しない方が賢明だと考え、新堂は楽しげな零の姿に視線を戻した。

 笑えるようになって良かったと、つくづく思う。

 あの悲惨な事件を経験した後では、精神的におかしくなっても不思議ではなかった。

 無論、心の中に傷を抱えているのだろうし、好不調の波はあったが、零は今まで通りの自然体で生きているように見える。

 以前と変わったことと言えば、出会った頃の壊れてしまいそうな儚さが薄れ、その瞳の中に強い覚悟のごとき光が輝くようになったことか。

 空から舞い降りてくる海外からの到着便を仰いだ新堂は、自戒と決意を新たにする。

「ねえ、新堂さん──あれは、どこの航空会社ですか?」

 無邪気に問いかけてくる透き通るような零の笑顔を、新堂は心底守りたいと思った。



 空港に初めて訪れた子供と同じように、滑走路の風景に釘付けになっている零と、護衛のつもりでその傍に立っている新堂の後ろ姿を眺めやり、鷲塚は思わず嘆息をもらした。

「……相変わらず、隙だらけだな、あの二人は」

 後から追いかけてきた古谷が、同じ対象をちらりと一瞥し、賛同するようにうなずく。

「一般の入場者も混ざってっから、確かに無防備過ぎる気もするが……。
 しかしまあ、これだけガードが揃ってれば大丈夫じゃねえのか?
 だいたい、何でわざわざこんなお子様ランドに出てきたんだ、お前らしくもない」

 空港の屋上テラスは、旅行者を見送る者たちが多くたむろしているが、航空機の発着を見物する以外とりたてて用の無い場所である。

「……俺じゃない。
 チェックインまで時間があるから、屋上で飛行機が見たいと、零が言い出したんだ」

 瞳の色を隠す、黒いサングラス越しに、鷲塚は周囲に警戒の目を向ける。

 その言葉を聞いて笑っていた古谷が、「それはそうと」と呟き、前もって依頼しておいた物を差し出してきた。

「零ちゃんのパスポートだ。
 何やかんやでぎりぎりになっちまったが、間に合って良かった。
 今日も渋滞に巻き込まれなきゃ、もちっと早くに届けられたんだがな」

「パスポート無しでは、さすがにチェックインのしようがないな」

 皮肉っぽく唇をつり上げた鷲塚は、真新しいパスポートを開き、記載事項を確認した。

 旅券番号と姓名、国籍、生年月日、本籍、そして性別──。

「気をつけろよ、鷲塚──あんなでも、一応、零ちゃんは男ってことになってるからよ」

 鷲塚の視線の先をのぞき込んだ古谷が、指先でアルファベットのMを指す。

 性別のMは、Male──すなわち、男性の略。

 古谷に指摘されるまでもなく理解しているつもりだったが、微笑みがちに撮された美しい写真とのギャップに、わずかなショックを感じる。

 普段は忘れている事実が、不意に目の前に突きつけられたようにも思えた。

「ああ、それから……こっちも」

 古谷が突き出してきたのは、零のために用意させた新しい指輪だった。

 死人の指と共に送られてきた指輪は、零には返さず、今も鷲塚の手元に残してある。

 思い出を残すというより、むざむざと零を奪われた自らの戒めとして、保管しておくことに決めたのだった。

 宝石箱の蓋を開け、中で煌めくダイヤモンドを見下ろした鷲塚は、ふっと溜息をつき、離陸するジャンボジェット機を指差している零の後ろ姿を眺める。

 何もかも忘れたように明るく、無邪気に笑う零を、誰よりも愛おしいと感じられる。

 生涯をかけて守りたいと思える相手に出会えたことを、もし神とやらが存在するなら、感謝しなければならないのだろう。

 初めて出会った時に感じた直感が、たとえ御山の血がもたらす暗い因縁だったのだとしても、零自身が放つ純粋な輝きは失せることがなかった。




「零──ちょっとこっちに来い」

 飛行機の尾翼に描かれたマークを、一つずつ新堂から教えてもらっていた零は、鷲塚に名前を呼ばれて振り返った。

 鷲塚の傍には、見送りに駆けつけた古谷が立っている。

 鷲塚の代理を務める高宮は多忙極まりなく、東山は自社の事で手一杯で、気楽に私用を頼める相手が、古谷しかいなかったらしい。

 ダークスーツをまとう長身の鷲塚と、個性的なファッションの古谷は、共に周囲を圧する異彩を放っていた。

 ただ立っているだけでも漂う危うげな空気に、人々は敏感に反応し、不審な眼差しでこちらを遠巻きに見ている。

「どうかしたの?」

 古谷は、零のパスポートを届けてくれると言うことだった。

 何か不備があっただろうかと心配になり、不安な面持ちで二人の前に歩み寄ると、鷲塚が突然「左手を出せ」と言う。

 困惑して首を傾げつつ、零が物を受け取るように左手を差し出すと、鷲塚は手の甲を上に返し、薬指にダイヤモンドの指輪を嵌めた。

「お前の新しい指輪だ。
 いつまでも空のままだと、また余計な虫が寄ってきそうだからな」

 ぴたりと指輪が嵌った零の薬指を、親指の腹でなぞり、鷲塚が口の端をつり上げる。

 思いがけないプレゼントに驚愕し、声を失っていた零は、燦然と煌めく指輪を見つめて涙ぐみ、唇を震わせた。

 前にもらった指輪もずっと大事にしていたのに、ファントムに奪われ、恐ろしい犯罪に利用されて穢された──。

「ありがとう、海琉。
 大切にするね……今度は、無くさないようにするから……」

 指輪を嵌めてもらった左手を握り締め、胸に仕舞い込むように引き寄せると、はらはらと涙がこぼれ落ちてくる。

 無惨に殺された少女は、こんな幸せを感じることもできずに、死んでしまったというのに。

 それでも……罪深いと判っていながら、胸が高鳴るほどに嬉しかった。

「指輪の一つや二つ、無くしても構わないが……それより──」

 大した事では無いと言うような口ぶりの鷲塚は、写真が印刷されたパスポートのページを開き、零の目の前に突き出してくる。

「帰ってきたら、お前の性別を変更しろ。
 零──俺のために、オンナになれ」

 呆気に取られた零は、涙で潤む両目を瞬かせ、首を傾げて鷲塚を見上げた。

 サングラスを外した鷲塚は、鋭利に輝く鋼の瞳で零を見つめている。

 その双眸に宿る意思の強さに、零は圧倒されたまま立ち尽くした。

 冗談ではなく、本気で言っているのだろう──そう悟る。

「お前が悩んでいることは知っているし、俺自身は、こういう書類に何が書かれていようと気にならない。
 お前は、お前だ──男だろうが、女だろうがな。
 ただ、現実的には、いろいろと不都合が生じるのも事実だ」

 いつも通りの冷静な声音で語る鷲塚を見つめ、零は戸惑いながらもうなずいて見せる。

 鷲塚の言葉は明解だったが、その真意がいまいちつかめず、途方に暮れてしまう。

 そんな零の瞳を見すえ、鷲塚はさらに言葉を継いだ。

「戸籍の性別を変更したら、お前は、俺と結婚するんだ。
 返事は、イエスしか受け付けない」

「──えっ? え…えっと……?」

 とっさに理解できず、ぽかんとしている零の横で、冷やかすように口笛を吹いた古谷がニヤニヤと笑う。

「おいおい……どうせプロポーズするなら、もちっとマシな場所でやれや。
 それか、薔薇の花束を持って、零ちゃんの足許に跪くとかよ。
 そんな言い方じゃあ、零ちゃんだって、何が何だかさっぱり判んねえだろうよ」

 野次馬根性丸出しの古谷をじろりと睨んだ鷲塚は、瞬きもできずに呆然としている零の肩をぐいと引き寄せた。

「お前を守るために、これ以上、どんな隙も作りたくない。
 お前を、俺だけのものにしたいからな」

 旅立ちを前にして突然突きつけられた鷲塚の要求に、零は狼狽えながらも、胸の奥が熱くなるのを感じた。

 プロポーズ……古谷が言うように、本当に、結婚の申し込みなのだろうか──。

「零──返事は?」

 容赦なく催促され、我に返った零は、鷲塚の顔を見上げた。

 お互いの視線が吸い寄せられたように絡みつき、目を離せなくなる。

 迷いの無い鋼色の双眸を見つめるうちに、歓喜と安堵が胸一杯に広がり、じわりと目頭が熱くなった。

「私は、ずっと傍にいるって、約束したから……。
 だから……海琉がそうしたいなら──私を、海琉のお嫁さんにしてください」

 囁くように答えると、鷲塚は零を胸の中に抱き寄せ、ほっとしたように深い溜息をついた。

「零……お前は、俺のただ一人の運命のオンナだ」

 空気を震わせる飛行機の轟音も、周囲にいる人々の話し声も、全ての音が急に遠ざかり、鷲塚の声だけしか聞こえなくなる。

 心が高揚し、足許がふわふわとして、舞い上がっていきそうだった。

 うなじを引き寄せられ、鷲塚の唇に口が塞がれる。

 ──もう、何も怖くない。

 衆目を集めていることがふと気になったが、零は淡く微笑を浮かべて瞼を閉じ、蕩けるような至福の中で愛する人のキスを受け入れた。




─ The End ─




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