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Narcissist?



<1>



 その日、零はいつもより寝坊をしてしまった。

 目が覚めた時にはすでに、隣に鷲塚の姿は無い。

 寝惚けてぼーっとした頭のままベッドから抜け出し、しょぼしょぼする目をこすりながら、零は顔を洗うためバスルームに向かった。

 大きな欠伸をしてドアを開けた零は、洗面所の鏡の前に鷲塚が立っているのを見た途端、ぽかんと口を開けたまま立ちつくしていた。

 シャワーを浴びた直後なのか、腰にバスタオルを巻いた鷲塚の黒髪は濡れており、うなじに水滴が流れている。

 全身から白い湯気が立ち上り、まだ湿っている肌は艶々と輝いて、成熟した男の色気が漂っていた。

 鍛え上げられた逞しい筋肉は隆々としていて、ずっしりとした重量感が感じられる。

 腕の太さだけを見ても、零の倍以上はあって、見ているだけで恐ろしい破壊力を秘めていることが判った。

 だが、零が驚いたのはそんな事ではなかった。

「──何だ?」

 呆気に取られたまま動かない零を見返し、鷲塚が怪訝そうに問う。

 その声で我に返った零は、とっさに「あ、ごめん」と口にして、ごまかすように笑っていた。

「寝坊しちゃった。顔を洗おうと思ったんだけど、後でいいや」

 そう言ってくるりと踵を返した零は、ドキドキする胸を押さえながら、先に着替えるためにベッドルームへと戻った。




 その後、朝食の席で、零は鷲塚の様子をじっと観察していた。

 いつの間にか食事をする手も止まっていたのだが、本人はそれに気づかず、鷲塚が食事をする姿を飽きもせずに眺めていた。

 ところが、そのもの問いたげで興味津々な眼差しにさすがに苛立ったのか、フォークを置いた鷲塚が、不機嫌そうに零を睨み返した。

「──いったい、さっきから何なんだ。俺の顔に何かついているのか?」

 冷たく光る鋼色の双眸で睨まれると、見慣れてきたとは言え、その迫力に圧倒されてしまいそうになる。

 テーブルに頬杖をついたまま首を傾げた零は、先ほどから気になっていた事を、素直に聞いてみることにした。

「海琉って……実は結構、ナルシストだったりする?」

「…………は?」

 思いがけない言葉を聞いたせいか、鷲塚の双眸が眇められた。

 ナルシスト──水たまりに映った自分の姿に恋をしたギリシャの美青年ナルキッソスが語源であり、自己愛が非常に強い人間の事をナルシシストと言う。

 ナルシシストが訛ってナルシストとなり、最近ではこちらの方がより一般的であったが、零はもちろんそんな事は知らなかった。

 心理学用語より遙かに軽い意味で口にしただけであり、さほど深い意味は無かったのだが、それを聞いた鷲塚は明らかに機嫌を損ねていた。

 慌てて姿勢を戻した零は、片腕を曲げ、なけなしの力こぶを作って見せた。

「だって、さっき鏡の前で、こうやったり、こんな風にしたりして、自分を見てたでしょ?」

 起き抜けの寝惚けた頭には、それは結構衝撃的な光景だったのだ。

 長身で筋肉質な鷲塚の身体は、確かに惚れ惚れとしてしまうほど見事で、格好良いと思うのだが、それを自分自身が見惚れているとなると、何だか微妙な気分になってしまう。

 極道という仕事柄、一筋縄ではいかない猛者たちを従えるには、肉体的にも強く、逞しくあらねばならないのだろうが──。

(ボディビルダーみたいに、海琉も鏡の前で、毎日ポーズ取りながら鍛えてるのかなあ)

 いつぞやテレビで見たボディビルダーのトレーニング風景と、凄まじいまでに鍛え抜かれた筋肉を思い出してしまい、それが鷲塚の姿と重なって、零の頭の中でぐるぐると回り続けていたのだった。

 鷲塚はしばらく無言で零の顔を見返していたが、急に椅子から立ち上がると、テーブルを回って零の背後に立った。

 急に周囲の空気が重々しく、寒々しいものに変わる。

 不穏な雰囲気を察した零は、内心で焦りながら、許しを請うように鷲塚を振り仰いだ。

「ご、ごめんね……気に障ったなら…謝るから──」

 しかし、双眸を剣呑に光らせた鷲塚は、あっという間に零を椅子から抱え上げると、朝日が降り注ぐ明るいリビングの上に放り出した。

 尻餅をついた零が狼狽えて見上げると、鷲塚は冷ややかな声で命じた。

「──脱げ」

「…………え?」

 両腕を組んで立ちはだかった鷲塚は、零の動揺など全く意に介さないというように恐ろしい言葉を淡々と繰り返した。

「着ているものを脱いで、裸になれ。
 早くしないと、時間が無くなるぞ」

 腕時計に視線を向け、鷲塚は脅すような口調で告げた。

「こ……こんなに、明るいのに……そんな事──」

 愕然とした零は、窓の外に広がる青空を見つめた。

 白い陽射しが燦々と差し込むリビングの窓際は、眩しいほどの日溜まりになっている。

 窓の向こうから覗く者などいない事は判っているが、こんな明るい空間の中で裸になることなど、恥ずかしすぎてできるはずがない。

「できない」と言うように首を左右に振った零を見下ろし、鷲塚は唇を薄くつり上げ、皮肉げな微笑を浮かべた。

「──脱がせてほしいのか?」

「そ、そんなんじゃ……」

 驚いて双眸を瞠り、零が改めて首を振ると、鷲塚は「早くしろ」と言わんばかりに顎をしゃくり、楽しげに目を細めた。

「あまり時間がかかるようだと、お仕置きを追加だ」

 その傲慢な言葉にびくりと身を震わせた零は、それでもなお迷い、身動きできなかった。

 いったい、鷲塚は何をしようとしているのか──。

 どうやら先ほどの発言が、鷲塚の機嫌を損ねてしまったらしい。

 それは判るのだが、その後の行動があまりにも唐突すぎて、零には理解できなかった。

「あ、あの……ごめんなさい。
 海琉が気にするとは…思わなかったから……」

 もう一度謝れば、この恥辱的な行為を許してもらえるだろうかと思い、一抹の期待を込めてそう訴えかける。

 しかし鷲塚は腕時計を見下ろしたままそれには応じず、零の謝罪を冷ややかに拒否しているように見えた。

 途端に悲しくなり、零がしゅんとして項垂れていると、指先で腕を叩き、残り時間をカウントしていた鷲塚は、顔を上げてにやりと笑った。

「時間切れだ──警告はしたからな」

 そう宣告した鷲塚は、零の傍らに跪き、シャツのボタンを一つずつ外し始めた。

 呆気に取られたまま、その指の動きを見下ろしていた零は、白いシャツがフローリングに落ちてようやく我に返った。

「ちょ…ちょっと──やっ…いやだっ……こんなの……」

 穿いていたデニムを脱がされ、下着も剥ぎ取られてしまうと、零は床に転がったまま立ち上がることもできなくなった。

 羞恥に身を焦がしながら、零はできるだけ身体を隠そうとして手足を縮めた。

 一糸まとわぬ姿で胎児のように丸くなり、恨めしげに睨んでくる零を見下ろした鷲塚は、眩しげに目を細めた。

「朝からいい眺めだな」

 朝日を浴びた零の身体は、透き通るように白く輝いている。

 零は必死で秘部を隠そうと身を縮めていたが、淡い影になっている肩や腰のライン、そしてそれよりも深い影を作る下肢の狭間が、返って扇情的に見えていた。

 あまりの恥ずかしさに身を震わせた零は、床に落ちたシャツを拾おうと腕を伸ばした。

 ところが鷲塚の指先が背中から腰をなぞり、その艶めかしい感覚にびくんと仰け反る。

 その途端、閉じていた両脚が反動で開きそうになってしまい、零は慌てて内股を引き締めると、さらに足を硬く閉ざして丸くなった。

 零は身を守ろうとしているのだろうが、双丘は露わになっている。

 そこに狙いを定めた鷲塚は、片手で白い尻肉をつかむと、その弾力を味わうように指先に力を加えた。

 下肢に力を入れているせいで、強く揉まれると筋肉に痛みを感じ、零は眉根を寄せる。

 だが、ふっと身体から力が抜けた隙をついて、双丘の谷間に指先が滑り込み、花弁をまさぐられた。

「……濡れているな。無理矢理脱がされて、感じたか?」

 一度侵入した鷲塚の指先は、閉ざされていた秘裂の中に易々ともぐり込み、その存在を知らしめるように淫らに蠢く。

「うっ……やっ…いや……やめて──ああっ!」

 快感が少しずつ大きくなり、零はもじもじと足をすりあわせながら、手淫を拒もうとした。

 そんな弱々しい抵抗を見て笑った鷲塚は、秘芯の上部にある小さな男根を指先で突いて刺激をし、さらに掌で丸まった背中や腰に愛撫を加えた。

「あ、あっ…あっ……いやっ……いやあっ……」

 快感が全身に広がるにつれて、零の身体は蕾がほころぶように弛緩し、花開いてゆく。

 閉ざされていた零の下肢が乱れると、鷲塚は足首をつかんで仰向けに転がし、さらに大きく左右に開かせた。