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AlluringDoll


<1>



 遙か天空の高みから差し込む月光が、夜の空気を青く染める。

 深い紺青の海のようなシルクのシーツの上で、青白く耀う裸体が妖しくうねり、熱を孕んだ吐息が流れた。

 ゆっくりと月は動き、地上に落ちた影もまた形を変える。

 汗の流れる美しい背中に唇を落とした鷲塚は、荒い呼吸をしながら動かなくなった零の顔を覗き込み、喉の奥で低く笑った。

「──どうした? 俺が触れてもいないのに、もうイッたのか?」

 手首を背後で縛られ、腕を開くことができないように上半身を縛められた零は、うつ伏せで腰を高く掲げた体勢から逃れようと身をよじった。

「動くな、零──お仕置きだと言っただろう?」

 零の隣に横たわっていた鷲塚は、長い腕を伸ばし、手首を拘束するロープを引き戻した。

「……も…もう……赦して──お願い…海琉……」

 かすれた啼き声が零の唇からこぼれ、涙で潤んだセピアの双眸が必死に哀願するように見上げてくる。

 昼間であれば胸を突かれるようなその表情も、夜の淡い月明かりの下では嗜虐心をそそる誘惑となった。

 薄く残酷な微笑を形作った鷲塚は、手に持っていた白い羽毛で、シーツから少し浮き上がっている胸の突起を撫でた。

「あっ! ああっ…いやあっ……やめて……もう、やめて──」

 縛られてしまえば身動きすることもできず、鷲塚の思いのままにされるしかない。

 もう1時間近くも、そうやって羽根で嬲られていた零は、全身を汗でしとらせながら、微細な刺激が生み出す狂おしい快感に身悶えていた。

「──痛くはないだろう?」

 零が涙を流すたび、優しくなだめるような声が耳元に落ち、口づけが与えられる。

 苦痛は無い──だが、羽毛がもたらす軽く、繊細な愛撫に、零の身体は過敏に反応し、狂えるような苦悩を味わった。

 身体が熱い……そして、全身が神経になってしまったように甘く疼く。

 白い肌は淡い桜色に染まり、清水をくぐる若鮎のように総身がくねった。

 ──零は知らなかった。

 かつて、そのたった一枚の羽根が、遊郭の女郎を仕置きするために使われるほどの物であったのだ。

 柔らかな羽根の威力と、眉根を寄せた零の表情を見定めるように、鷲塚はくすくすと笑いながら、反対側の果実も愛撫した。

 そのまま腹部に滑らせ、悦楽に昂まり柘榴色に色づいた花茎へと近づける。

 思わず息を呑み、身体に緊張を走らせた零を見下ろしながら、鷲塚はすっと羽毛を引いた。

 快楽の期待が裏切られ、切なげなため息がこぼれ落ちる。

 濡れた赫い唇の間から白い歯が覗き、甘美な苦悩に歪む表情に魅せられた鷲塚は、弛緩した身体に新たな刺激を与えるため、背筋から臀部へと続く優雅な曲線を羽根でなぞった。

「やあっ……もう…お願い──もっと……」

 執拗に焦らされ、責め続けられた身体の中には、妖しい欲情の炎が燻っている。

 その炎を鎮めるためには、さらに別の刺激が必要だった。

「もっと? ──だったら、ここは?」

 求めるような声を聞き、鷲塚は鍛え上げられた上半身を起こした。

 むずがるように絶えずくねる零の双丘を見下ろし、鷲塚は暗い翳りに隠された狭間へと羽根を滑らせ、ゆっくりと上下になぞる。

 その瞬間、零の唇から引きつれたような声が上がり、大きく喉が喘いだ。

「ひいっ……はああっ…んっ…あっ……いやあっ──」

 耐えきれないというように大きく腰を振り乱した零は、何度も繰り返される焦れったい愛撫に涙を流していた。

 身悶えるたびにロープがギシリと軋み、自由になる指先だけが空をつかみ、ぴんと伸びきってしまう。

 エクスタシーの波に押し上げられる寸前、鷲塚は再び羽根を操る手を止めた。

「──いや…あ…ああ……助けて……もう、助けて…海琉──ッ」

 絶頂を迎えれば楽になれる──だが、感じすぎるほど敏感になった身体を突き放すように、鷲塚は一番苦しいところに零を置き去りにしたまま、肝心な場所には触れようとしない。

 じわじわと快楽の炎に炙られながら、肉体は燃え立とうとしているのに、最後の一線で爆ぜる事ができないのだ。

 その苦しみにすすり泣きながら、堪えきれなくなった零は、残酷な拷問者に救いを求めた。

「ここに使うと、羽根が使い物にならなくなるな」

 雨に打たれた水鳥の翼のように、びっしょりと濡れた羽根を指先でなぞった後、鷲塚は唇を微笑の形に歪めた。

 枯れることなく蜜を溢れ出す泉、そして秘園を守る花弁の縁を羽根の先でくすぐり、零にさらなる悲鳴を上げさせた鷲塚は、零の背後に回り込み、悦楽に震える双丘を押し開いた。

「ここを舐められるのと、羽根を使われるのと、どちらがいい?」

 真後ろから全てを見られる羞恥に、思わず零が腰を落とそうとすると、強い手がその動きを封じて、形を固定した。

 恥じらいに頬を紅潮させた零は、生殺しのような状態が続く事を恐れ、掠れた声で哀願めいた言葉をもらした。

「ああ……いや…羽根はもういや……」

「舐められる方がいいのか?」

 低く笑いながら、鷲塚は蕾のように硬くすぼまった秘孔に指の腹を押し当てた。

 その瞬間、電流が走ったかのように零はびくりと痙攣し、柳眉を寄せて何度もうなずいた。

「動くなよ──動いたら、後ろも縛り上げるからな」

 鷲塚は脅すように告げると、誘惑するように揺れる白い腰をつかみ、潤って光って見える艶めかしい器官を舐め上げた。

「くうう…んっ……くうっ!」

 生暖かい刺激から逃れようと双丘が跳ねる。

 腰を力ずくでつかみ直した鷲塚は、ピチャピチャと獣が水を舐めるような音を立てさせながら、可憐に震える花弁を舐め回し、花蜜を滴らす花芯に舌を差し入れた。

 さらなる蜜を求めて舌を蠢かせ、すすり上げると、零の背が弓なりに仰け反った。

「ハア……んっ…くうぅっ……も、もう…赦して…ゆるして……っ!」

 鷲塚の愛撫から逃れようと腰を振り乱し、零は気が狂いそうなほどの快感に悲鳴を上げた。

 これ以上は堪えられない──おかしくなってしまう。

 凄まじい法悦の荒波に呑み込まれ、足先から脳天へと痺れるような恍惚が駆け抜けていく。

 何度も、何度も総身が大きく打ち震え、零は力尽きてシーツの上に突っ伏した。

 しかし鷲塚の舌は濡れた花芯を離れ、喘ぐようにひくつく秘蕾を舐めた。

「いやあっ……いやあ……ッ!」

「まだだ──これからだぞ、零」

 崩れ落ちた腰をすくい上げた鷲塚は、涙を溢れさせた零の頬に唇を落とすと、背後から己の体躯を重ねた。

 限界まで昂ぶり、いきり立った灼熱の楔が、儚く華奢な身体を貫く。

 獣のような体位で突き刺され、深く穿たれるたびに零は嬌声を上げた。

 汗に濡れたしなやかな背中が苦痛を訴えるように歪むのを見下ろしながら、鷲塚は触れれば壊れそうな身体を抉るように腰を沈めた。

 背後から零を抱くといつも昂ぶりが増し、獣欲が煽られる。

 狂暴なほど猛々しい己の欲望が、柔らかな花弁に包み込まれるようにして出入りする姿を、鷲塚は無機質な鋼の瞳で見つめていた。

 不意に壊してしまいたいという狂気に肉体が痺れ、鋼の双眸が熱く溶けた。

 己自身を全て埋め込み、汗に濡れた肌と肌を密着させた鷲塚は、上半身を深く屈して零の唇を奪った。

 熱い吐息が溶け合い、甘い唾液が絡まり合う。

「あ…ああっ……海琉──だめ、おかしくなる……もっと……ああ…もっと……して──」

 切なげにすすり泣きながら、零が甘い歔き声を上げて腰を波うたせた。

 鷲塚の腰の動きが速まり、屈強な体躯が白い肌に打ちつけられる。

 破壊的ですらある強烈な律動を受け止めながら、零の喉から極まったような声が上がった。

 その瞬間、マグマのような奔流が零の胎内で噴き上げ、どくどくと注ぎ込まれる。

 壮絶な快感がスパークし、白く輝く闇に堕ちながら、零は力強い鼓動に包まれていることを感じていた。