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Lonesome Doll


1



 ウエストに巻かれた強く引き寄せてくる腕の感触に、心地よい目覚めへの微睡みを彷徨っていた零は、ゆっくりと瞼を上げた。

 視線を巡らせて見ると、零を背後から抱き寄せ、広い胸の中に抱え込むようにして眠っている鷲塚の姿がある。

 眠っている間であっても逃がさないと言うように、その強靱な腕で拘束されているため、零は大きく身動きすることすらできなかった。

 腕の力で上半身を起こした零は、部屋の中を見渡し、ほっと欠伸をもらした。

 最近になってようやく置くことを許された目覚まし時計を見ると、すでに9時になっている。

(──時計は置いていいって言われたけど、目覚ましを鳴らしたら怒るからな)

 目覚まし時計の意味が無いと零は思うのだが、鷲塚の言い分によれば「起きたい時に起きるし、決まった時間に目が覚めるから必要ない」とのことだった。

 小さくため息をついた零は、腕の力がわずかに緩んだのを見計らい、身体をよじって鷲塚の顔を見下ろした。

「──海琉……今日、仕事あるって言ってなかった?
 11時に新堂さん迎えに来るんでしょう?
 もう9時になってるよ、起きなくていいの?」

 額に散っている前髪を指先で掻き上げ、その整った精悍な顔に零は顔を近づけるた。

 しかし閉ざされた瞼はぴくりとも動かず、零はもう一度ため息をもらした。

「海琉ってば……朝ご飯用意するから、もう起きようよ」

 元々眠りの浅い男なのだから聞こえていないはずはないと思い、零はもう少し強い口調で言った。
 今までは鷲塚の方が先に目覚めていたのだが、ここのところ、その立場が逆転している。
 以前は7時前後が起床時間であったというのに、最近はそれも大幅にずれていた。

 怒鳴るしかないだろうかと思った時、急に瞼が開かれ、鋼の瞳が現れた。
 寝惚けているという雰囲気は無く、鋭い双瞳は怜悧に輝いていたが、鷲塚はその鋼の視線だけで零を見上げると、再び瞼を閉ざしてしまった。

「……どうしてそこでまた寝るの? 起きないと、また新堂さん待たせちゃうでしょう?」

「──待たせておけばいい」

 返ってきた言葉ばわずかに不機嫌で、思わず天井を仰いだ零は、鷲塚の腕の中で身を返して向き直ると、断固とした口調で告げた。

「じゃあ、私は先に起きて朝食の準備をしてくるから、後から起きてきて」

 ところが、鷲塚の腕から抜け出そうとすると、男は零の身体を強く抱き締め、それ以上の身動きすら許されなかった。

「──ねえ……最近、ちょっと変だよ。何かあったの?」

 秀麗な彫刻のように彫りの深い顔に触れ、零は首を傾げた。
 何がというわけではないが、5日ほど前から微妙な違和感を感じていた。

 傲慢ですらある言動や、自信に溢れた態度に変化はほとんど見られないのだが、微かな雰囲気や自分を見つめてくる瞳、そして何よりも求めて抱かれる時にその違和感を感じた。

 以前よりも余裕が無く、感じ取れるか取れないかというところで微かな自信の揺らぎと切迫感を感じるのだ。

 何かあったのだろうかと心配するのだが、零の問いに鷲塚は答えることはなく、微かな不安が胸の中に降り積もっていく。

(──全てを話して欲しいと思うのに、でもそれは無理なんだよね)

 荒神会の若頭と新東海グループ株式会社の会長いう二つの顔を持つ鷲塚は、仕事絡みの話題をほとんど零に話すことはなかった。
 世間一般的な事なら話してくれるのだが、それ以外の本当に重要な機密事項は問い正したところで答えることはありえない。

 仕方がないと思った時、鷲塚が再び瞼を上げて零を見つめると、唇をつり上げて何かを企んでいるような微笑を浮かべた。

「キスをして俺を満足させられたら、起きてやる」

「起きてやるって……起きなきゃいけないのは海琉でしょう?」

 思わず呆れてしまいそう言い返すと、鷲塚はくすくすと笑って零をさらに引き寄せた。

「じゃあ、このままだな。まだ2時間あるだろう?」

「2時間って、新堂さんが来た時、このままじゃ困るよ。
 海琉は良くても、私は嫌だからね」

 毎晩のように抱かれ、パジャマを着ていても結局脱がされてしまうため、目覚めた時はお互いに一糸纏わぬ姿となっている。

 さすがに寝室の扉をいきなり開けられる事はなかったが、それでもばたばたと慌てているところを見られれば、直前までベッドに入っていたと言うことは一目瞭然であった。
 鷲塚は気にしていないようであったが、零はそれで気まずい思いをしたことがある。

「この腕の中から出たければ、俺を起こさないといけないな」

 鷲塚の言葉とその表情を見て、もはや何を言っても無駄であることを悟ると、零は身体を屈めて唇を寄せ、男の唇にそっと触れさせた。

 触れるだけのキスで終わらせようと思っていた零であったが、不意にうなじを引き寄せられ、吸い込まれそうに深い瞳で見つめられた。

「俺を満足させろと言っただろう? それでは眠たくなるだけだ」

 低く静かな声に、先ほどまでとは異なった艶が混ざり込み、その瞳と声の魔力に零は一瞬で囚われた。

 セピアの瞳が潤みを持ち、身体の芯もまた鼓動の高まりと共に熱を宿す。

 零は男の顔を両手で挟み込むと、もう一度顔を伏せ、今度は深く唇を重ねた。
 唇を吸い、舌を差し入れると、すぐに応えるように、さらに貪るように舌が絡みついてくる。

 その激しさに息が上がり、無意識に逃れようとした零を、鷲塚は許さないと言うように柔らかな唇を軽く噛んだ。

 キスが大きな快感をもたらすということを鷲塚によって教え込まれた零は、歯列を割って侵入した舌に口腔を舐められ、息を喘がせて身体を震わせた。

「……満足した……海琉?」

 唇が解放され、口の端から伝い落ちた雫を舐め取られた後、零は呼吸を乱したまま訊ねた。

 鷲塚は、欲情に濡れ、わずかに赤みを増した美しいセピアの瞳を見つめながら、邪な微笑を浮かべると、シーツの下に隠された己の欲望に零の手を導いた。

 猛々しく高ぶった灼熱に触れさせられ、零は驚愕し、狼狽すると、そのまま慌てて身体をよじって逃れようとした。

 そのしなやかで華奢な身体を背後から捕らえた鷲塚は、己の肉体に密着させるように抱き寄せ、そのうなじに顔を寄せて囁いた。

「煽りすぎたな、零。どう責任をとってくれる?」

「やだっ……夜、あんなに──」

 耳元で響く声に背筋がぞくりとし、零は必死でその腕から逃れようとしたが、するりと滑り込んできた指先がまだ潤いの残る花芯に沈められた瞬間、とろけるように身体から力が抜けた。

「いやだと言うわりには物欲しげだぞ。こっちも可愛らしく勃っているしな」

 濡れた指先で凝った花茎の尖端をなぞられ、零は息をつめて身体を仰け反らせた。

 昨晩も残酷なほど執拗に愛撫を加えられ、柘榴色に充血した宝珠はわずかな刺激にも敏感になっていた。
 そこを再び攻められ、零は声を殺して耐えることが精一杯であった。

 拘束していた腕で軽く片足を開かせ、鷲塚はその間に息づく濡れた花に己の牡をゆっくりと擦りつけ、感じて滴る花蜜をからめた。

 その間にも花茎を愛撫する手は休めず、鷲塚は零の柔らかい耳朶を噛み、その耳の中に舌を差し込んだ。

「──ひっ! ああっ…あっ……もう…止めて──」

「止めていいのか、このままで? 今日は遅くなるからな、それまで慰めてやれないぞ。
 こんなに濡らして……欲しくはないのか?」

 宝珠をしごいていた指先が、熱く花蜜を溢れさせる泉に入り込み、鷲塚の動きを思い出させるように淫猥に動き、そして蜜を掻き出すように蠢かされた。

 さらに耳の中に差し込まれた舌が、濡れた音を響かせながら、出入りを繰り返す。

 その全てに肉体を惑わされ、情欲に支配された零は、花弁をこする楔を求めるように身体を波うたせ、羞恥を堪えるように目を閉じたまま何度もうなずいた。

「あ…ああっ……欲しい…海琉が──もうっ…来て……お願い──」

 シーツにしがみつくこともできず、己の肩を抱き締めて快楽に震えていた零は、耳元でくすりと笑った声を聞き、かっと身体が熱くなるのを感じた。

「──良い子だ、零」

 零の言葉に満足したように、鷲塚の声に深みと艶が増し、そして褒美を与えるように灼熱の剣でゆっくりと艶めかしく悶える身体を貫いた。

 あつらえた鞘に収めるように全てを埋め塞いだ鷲塚は、零の身体を抱き締め、首筋やうなじに口づけながら律動を繰り返した。

 リズムを乱し、角度を変えて突き上げると、零の唇から脳髄を痺れさすほどに甘い啜り泣が上がる。

「……ああっ…んっ…あっ──いやあっ…そこは…だめっ──」

 そのポイントを疲れた瞬間、狂わんばかりの快感が走り、その衝撃に零は仰け反った。

 しかし止めるどころか、鷲塚はそこを重点的に攻めはじめ、突き上げられる度に零の唇から濡れた悲鳴が上がる。

 大きく身体を震わせ、身を振り絞るように痙攣して極みに達した零は、それと同時に内部に熱い奔流が浴びせられるのを感じた。
 その感触にすらのたうつと、鷲塚の腕が強く身体を抱き締めてきた。

 花芯を貫いていた牡の脈動が鎮まり、零の呼吸が落ち着くと、零の身体からずるりと楔が引き抜かれた。

 その感触に大きく身悶えすると、鷲塚はなだめるように零の唇を塞ぎ、そして軽く頬にキスを落とした。

「おまえは食ったし、とりあえずはシャワーだな」

 ベッドから下りてバスローブを羽織った鷲塚は、もう一度ベッドに腰掛けると、汗に濡れて額に張りついている零の前髪を払い、そこに口づけた。

 いきなり機嫌の良くなった鷲塚の声に、零は呆然としながらも何とか言葉を返した。

「──先に入って…出かける準備を……早くしないと、迎えが来ちゃうから──」

 絶頂の余韻がなかなか去らず、零は身体を動かすこともできなかった。

 そんな零を見下ろし、鷲塚はくつくつと笑いながら包みこむようにして抱き、頬やこめかみに口づける。
 そして、不意にシーツごと零の身体を抱き上げた。

「動けないなら一緒に来い。そのままじゃ辛いだろう?
 最後の一滴まで、綺麗に掻きだしてやるから──」

 その言葉にぎょっとした零は、怯えを含んだセピアの瞳で鷲塚を見つめた。

 男は鋼の双眸を細め、唇に意地の悪い微笑を浮かべていたが、零が声も出せずにかぶりを振るのを見た途端、さもおかしげに声を立てて笑い出した。

 からかわれた事を悟った零であったが、しかし下手に抵抗すると、本当に実行しかねないと思い直し、おとなしく抱かれたままバスルームへと向かったのだった。