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TearyDoll


37



「……ごめんなさい……私、独りぼっちになるのが怖くて、自分の事ばかり考えてた。
 でも……ずっと傍にいたい……海琉を失いたくないから、あなたに無事でいてほしい。
 私の我が儘なのかもしれないけど、本当に誰よりも海琉を愛してるから……だから、どうか私の居場所を取り上げるような事をしないで──」

 逞しい首にしがみつき、そのうなじに顔を伏せた零は、孤独の予感を怖れて立ちすくむ心を言葉にした。

 長い間胸の奥に巣くってきた孤独感は、鷲塚の存在によって癒されたはずだった。

 鷲塚への愛と、鷲塚から受ける愛が、零の心を強くし、孤独の闇から魂を守る光となった。

 だが、もしもその光が失われてしまえば、再び孤独の迷宮を独り彷徨うことになる。

 温かな腕に守られる安心感を知ってしまった今では、その守護を失う事は絶望にも等しい。

 ──だからこそ、この奇蹟のような愛を失うわけにはいかなかった。


 小刻みに震えるしなやかな身体を強く抱き締めた鷲塚は、甘い香りのする柔らかな亜麻色の髪に口づけると、猛々しく輝いていた鋼の双眸を静かに閉ざした。

 初めて零を見つけ、その全てを己のものにすると決めた日から、狂気のような激情が生まれた。

 愛と言うにはあまりにも荒々しい感情は、餓え渇ききった獣が久しぶりに獲物を見つけた時の欲求にも近い。

 その全てを喰らいつくすまで、何者にも、零自身にさえ、その身と命を奪われるわけにはいかなかった。

 ──他人に殺されるぐらいなら、いっそ自分自身の手で零を葬った方がいい。
 それほどまでに激しく、いびつに歪んだ恋情が、鷲塚の心の奥底には横たわっている。

(……だが、その事をまだ、おまえ自身が気づいていない)

 その身を独占し、支配しようとしている鷲塚の方が、本当は身も心もがんじがらめに囚われてしまっているのだ。

 零を失えば、己の中に残る最後の何かが壊れる──そんな奇妙な予感があるからこそ、御山の前で盾になった零を見て動揺し、これほど苛ついているのかもしれない。

 零が差し出す愛は、我が儘というには可愛らしく、ずっと純真なものに思える。
 それに比べると己の与える「愛」は、遙かにエゴイスティックでどろどろとした暗い欲情に満ちている。

 だが、今さら引き返すことはできない──判らなければ、思い知らせるだけだった。

 欲望に霞む瞳を鈍く光らせ、閉ざしていた瞼を開けた鷲塚は、零の耳朶に口づけるようにして唇を寄せ、低く囁きかけた。

「零──おまえは俺のものだ……心も身体も全て。
 おまえを俺から奪おうとするヤツは、誰であっても許さない。
 たとえどんな理由があろうと、俺からおまえを引き離そうとするヤツには、俺は必ず制裁を加えるだろう。
 おまえも、二度と逃げ出したり、勝手な真似はするな。
 さもなければ、この足を鎖で繋いで、この部屋から一歩も出られなくしてやるからな」

 あまりにも横暴で独善的な言葉だというのに、その言葉は甘く快美な睦言のように聞こえ、零の心は歓喜に震えた。

 深く低く流れる声は、危険な麻薬のように全身に染み渡り、零の身体に官能の炎を熾す。

 耳を打つ吐息に快感を感じ、瞼を閉ざして細い顎を反らした零は、唇から熱い吐息を漏らし、その言葉にうなずいていた。

「……本当に判ってるんだろうな?」

 子供のようにしがみついてくる零を引き離し、ベッドの上に押しつけた鷲塚は、セピアの瞳を覗き込んで確認するように問うた。

 美しく艶やかに染まった瞳を、一瞬戸惑ったように揺らした零は、瞬きもせずに見つめてくる鋼色の双眸を見返し、もう一度小さく首を縦に振った。

 その瞬間、端整な唇がひどく禍々しい微笑をたたえてつり上がり、鷲塚はくくっと喉の奥で残酷な笑い声を立てた。

「だったら、今夜はこの身体にも、おまえが誰のものなのかを教えてやらないとならないな。
 二度とバカな真似をしないように、忘れられなくなるように思い知らせてやる。
 俺が許すまで、おまえも身体を張って付き合え」

 それを聞いた零は驚愕に瞳を瞠り、思わず反論を口にしかけていた。

「──えっ? だって…あれは──」

「『だって』じゃない。
 おまえだって、自分勝手で我が儘な事をしたって自覚があるんだろう?
 お仕置きは当然だな──俺に散々心配をさせたんだから」

 そもそも零が鷲塚をかばったのは、自分の事を想っての事だと判っていたし、鷲塚はその行動を本当は咎める気などなかった。

 だが零が再び同じ行動を繰り返し、凶弾に倒れる事を思えば、ここで感謝することなど絶対にできない。

 零の優しい本音を逆手に取ってでも、その行動が本当に愚かな事なのだと、心と体に刻み込ませなければ鷲塚の気が休まらなかった。

 案の定、零はショックを受けたようにセピアの瞳を見開き、狼狽したように視線を逸らす。

 ふっと唇に微笑を刻んだ鷲塚は、零の唇を奪うように深く口づけし、誘いかけるように舌をからめ合わせた。

 切なげな吐息が漏れ、鷲塚の下にある身体から緊張が解けるように力が抜けてゆく。

「零──自分でそのドレスを脱いで、俺におまえの身体を見せるんだ」

 零の腕を引き、背を支えるようにして抱き起こした鷲塚は、涙に潤んだセピアの瞳を見下ろすと、首筋を愛撫しながらそう囁いた。


 耳元で囁かれた言葉が一瞬信じられず、混乱した零は鷲塚の顔を呆然と見返した。

 しかし野性的で秀麗な容貌には、冗談を言っているような表情はない。

 息を呑んだ零は、さらに背中を押されるようにして床に立たされてしまうと、困惑と羞恥に柳眉をひそめながら、もう一度哀願するように鷲塚の顔を見つめた。

「……海琉──あの…私……」

 すでにファスナーは下ろされ、脱げかけているドレスを両手で押さえながら、零はどうすればよいのか判らず身体を震わせた。

 肘をついてベッドに悠然と横たわった鷲塚は、怪訝そうに眉を吊り上げ、うっすらと微笑む。

「どうした? ドレスが脱げなければ、いつまで経ってもおまえを抱けない。
 ──それとも、俺を焦らしたいのか?」

「そんなんじゃ……」

 狼狽えたように頭を振った零は、羞恥に肌を紅く染めながら、鷲塚に背を向けた。

 背後から射抜くように見られているという恥ずかしさに身体が緊張し、滑らかなシルクを脱ぎ落とすという動作が、ひどく困難なものに思えた。

 愛撫を受けた背中に視線を感じ、全身の肌がゾクゾクと敏感に高ぶってくる。

 ぎゅっと瞼を閉ざしたままドレスと格闘していた零は、ようやく全てを床に落とした時、全速力で走った後のように息を喘がせていた。

 それ以上身動きする事ができなくなり、白い裸体をかばうように両腕を交叉させた零は、隠そうとするように身を縮めた。

 ところが、不意に音もなく膝裏をすくわれ、驚く間もなく零は鷲塚に抱き上げられてしまう。

 ベッドに横たえられたと同時に、薔薇の雫を落としたような白い肌に、鷲塚は情熱的ですらあるキスの雨を降らせた。

 そしてその指先は、浅い呼吸を繰り返す胸の頂を飾る淡い先端をなぞり、時に優しく摘み上げる。

 硬く凝った果実から電流が流れ、零は手足の指先まで痺れるような快感を感じた。

 執拗に擦り上げられるたび、甘く鋭い痛みにも似た感覚が全身を貫き、零は悲鳴を上げた。

「ああっ……あ、ああ…や…やめ…──」

「こんなに硬くして感じているのに、止めてほしいのか?」

 背中が浮き上がり、胸を突き出すように反らした零を見下ろし、鷲塚は低く笑うと、指先で挟み込んだ果実を舌先で舐め上げた。

 その瞬間、零が引きつれたような声を上げ、繊細な美貌を歪めながら頭を振った。

 鷲塚は片側の乳首を唇で、反対側を指先で愛撫しながら、空いている方の手を零の白い下肢へと滑らせた。

 シルクよりもなめらかな大腿の内側をなぞり、両性を合わせ持つ神秘的な秘芯に触れると、零の腰が大きくびくりと跳ねた。

 鷲塚は指先に熱く滴る蜜液を感じ、柔らかな花弁がふっくらと熱を帯びているのを察した。

 やんわりと花びらの縁をなぞるように指を動かしながら、鷲塚は貪欲なほど胸元ばかりを攻めている。

 自分だけが全裸だという淫猥な姿を恥じらい、必死で感じまいとするように唇を噛んでいた零は、しかしついに陥落し、嬌声を上げた。

「あっ…海琉……お願い──もう、だめ…ああっ……」

「まだだ──今日はおまえをもっと狂わせてやる」

 残酷に突き放しながらも、鷲塚の瞳は欲情に光り、その呼吸もまた荒く熱い。

「……や…ああっ、いや……ゆるして……も、もう…しないで……」

 身体の中で最も敏感な花茎に触れられることなく、快楽の蜜を溢れさせると、甘くすすり泣きはじめた零の紅潮した目尻から涙が滑り落ちた。