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TearyDoll


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 はっと息を飲み込んだ途端、男の双眸が鋭く射抜くように咲妃を見つめた。

 抜き身の刃を喉元に突きつけられたようなショックに、咲妃はフローリングの床にぺたんと座り込んでしまう。

 その様子を冷ややかに見つめながら、鷲塚は零の肉体を穿つ動きを止めた。

「──止めてほしいか、零?」

 あと少しで悦楽の極みに達しそうになっていた零は、首を横に振りながら、ねだるように腰を揺らめかせた。

「……やっ…あっ……お願い……やめないで──」

「だったら、自分で動くんだ──イキたいんだろう、零?
 イカせてやるから、おまえが好きなように動いてみろ」

 目隠しをされた零の耳元で囁き、鷲塚はふっと熱い吐息を耳に吹き込む。

 それすらも快感に繋がるのか、零は唇を開いて甘く喘ぐと、鷲塚の上でゆっくりと腰を使いはじめた。

「──あっ…は…んっ……許して……海琉…意地悪しないで──」

 切れ切れの吐息の合間に、切なげな哀願が混ざり込む。

 鷲塚が熱く濡れた花襞の内側に埋め込んでいた己自身を抉るように蠢かすと、零はほっそりとした顎を弓なりにのけぞらせて喘いだ。

 やがて、杭を打ち込むように剛直が深く沈んでは、引き出される。

 引き締まった白い臀部にそれが入り込む様はグロテスクであり、抽挿のたびにグチュグチュと粘液質な音がするのが淫猥だった。

「あう! あっ、あっ……ああっ!」

 突き上げられ、深く貫かれるたびに、零の唇のあわいから艶めかしい悲鳴が押し出されている。

「──そんなに声を上げたら、妹に聞こえるぞ」

 邪悪な双眸で咲妃を眺めやりながら、鷲塚は笑みを含んだ声で零に囁いた。

 必死で首を振った零は、切羽詰まったような甘く掠れた声を上げると、全ての力を失ったように鷲塚の上に頽れた。

 やがて、全裸の零を抱き上げた鷲塚は、咲妃の存在を気にした風も無く、寝室らしき部屋へと入っていく。

 なす術も無く床に座り込んでいた咲妃は、壁を支えにしてよろよろと立ち上がり、自分が眠っていた客間に逃げ込んだ。

 ドアを閉め、内鍵をかける──ところが安堵した途端、膝からカクリと力が抜けた。

 床の上で膝を抱え込んで座り込んでいると、不意に大粒の涙が溢れ始め、訳もなく大声で叫びだしたくなった。

(──イヤだ……あんなお兄ちゃんは……あたしはいらない──!!)




 何とか事故を起こすことなく荒神会の総本部事務所にたどり着いた新堂は、目を虚ろに彷徨わせたままソファに座り込んだ。

「はあ〜〜っ」

 部屋全体に響き渡るような盛大なため息をついた時、何故か薫と東山が仲良く連れ立って現れた。

「どうしたんですか、新堂君? この世の終わりみたいな顔をして?」

 にこやかに微笑みつつ、東山が怪訝そうに訊ねると、隣に立っていた薫もまた同意するようにうなずいた。

「この世の終わりって言うより、死んだ魚みたいな目になってるわよ」

「……放っておいてください。
 世界が終わろうと、死んだ魚になろうと、今の俺の気持ちを判るヤツなんて、この世のどこにもいないんですから」

 膝の上に頬杖をついた新堂は、ふてくされたようにそう言い、そっぽ向いた。

 その様子を見下ろした薫は、東山と一度顔を見合わせた後、軽く片眉をつり上げた。

「あらま、イジケ虫──まあ、いいわ。
 そんな事より、高宮はいるの? ちょっと話があったから立ち寄ったんだけど」

 薫の言葉に、新堂ははたっと我に返り、気まずそうに宙を仰いだ。

「あ〜〜、俺も今、帰ってきたばっかなんで……ちょっと──」

「君は高宮の直属だから、真っ先に報告に行かなきゃいけないんだろう?
 こんな所で拗ねてる暇はないはずだけどね」

 腕を組んだ東山が手厳しく指摘すると、新堂は慌ててソファから立ち上がり、若頭補佐を務める高宮の部屋へと二人を先導した。

「──零さんの妹は無事に帰っていったのか?」

 予定より早く帰ってきた新堂の姿を認めた高宮は、先刻鷲塚から聞かされていた話を思い出し、そう訊ねた。

「──妹? 零ちゃんの妹さんが、こっちに出てきてたの?」

 新堂が答えるより早く、薫が驚いたように口を挟む。

 新堂はどう答えようかと逡巡するように曖昧にうなずき、相変わらず見事な無表情を保つ高宮の顔をうかがった。

「それが、その……非常に困った事になってまして──」

 薫と東山がいるところで報告しても良いのかと迷う新堂を見やった後、高宮は興味津々といった顔つきの二人をジロリと睨んだ。

「出て行けと言っても、どうせ後から聞き出すつもりだろう?」

 すると東山がくすりと微笑を浮かべ、謎めいた眼差しを新堂に向けた。

「気になりますからねえ、やはり。
 まあ、ここから追い出されても、聞こうと思えば方法はいろいろありますから、どうぞお気遣いなく」

「でもさ……零ちゃんの妹さんが万が一海琉に会ったら、ただ事じゃ済まなくなるわよ」

 薫が眉間に皺を寄せ、そう深刻そうに言うと、新堂が大きくうなずいた。

「……ってことは、もう会っちゃったってこと?」

 気まずそうな新堂の顔を見返し、薫が驚きの声を上げた。

「そうなんですよ、薫さん──ホント、俺はもう大変で……」

「新堂──誰が喋っていいと言った?」

 今にもぺらぺらと喋り出しそうな新堂を制するように、高宮が不機嫌そうな低音を発する。

 新堂は姿勢を正して謝ったが、「鬼の高宮」の強面な威嚇は、極道と共に人生を歩んできた薫には通用しなかった。

「ここまで聞いちゃったんだから、全部聞かせてもらうわよ。
 だいたい、未成年の女の子を巻き込んで騒ぎを起こされたら、さすがのあたしだって困るんだからね。
 海琉の性格は、一緒に育ったあたしが一番よく判ってるわよ。
 あいつが何をしでかすかぐらい、全部推測できるんだしさ」

 そして、強引な薫の質問攻めに遭い、新堂は起こった出来事の全てを洗いざらい喋らされることになった。

「……それって、もの凄〜くヤバイんじゃない?」

 聞き終えた後、薫が眉をひそめて呟くと、東山が同意するようにうなずいた。

「零ちゃんの妹は高校生──あの二人のセックスは、どう考えても18禁っぽいからな。
 そのまま見せると、ご両親から苦情が出るかもしれませんねえ」

「ねえ、東山さん──あたしが言いたいのは、そういう事じゃないのよ」

「おや、それは失礼を。
 健全な青少年の行く末が、ちょっと気になったものですからね」

 くすくすと笑う東山を呆れたように見やった後、薫はため息をついた。

「──つまり、あたしが言いたかったのは、海琉が本気で腹を立てたら、咲妃ちゃんがどうなるか判らないってことよ」

「確かに……妹の事はどうでもいいって、本気で思っていますよ、若頭は。
 可愛げの無いガキですけどね、零さんの妹にしちゃあ……。
 でも、彼女に何かあったら、悲しむのは零さんだし──」

「そう言う新堂君は、哀れな子兎を、狼の巣に残して出て来ちゃったんだよね〜。
 それって、男としてどうなのよ?
 零ちゃんだって、新堂君がいなくなったら、海琉にヤラレ放題なわけだし」

 ちらりと揶揄するような流し目を薫が向けると、新堂は憮然としたように言った。

「そう言われても、俺がどうにかするっていうのは不可能じゃないですか。
 咲妃ちゃんの事はともかく、俺があのまま居たら、零さんがもっと嫌な思いをしただろうし」

「でも、大っぴらにのぞけるチャンスを逃したのは、勿体なかったですねえ」

 東山がため息混じりに呟くと、その途端、新堂の顔が傍目にも明らかなほど紅潮した。

「あら〜、新堂君ってば、真っ赤になってる。
 よっぽど刺激が強かったのね〜、ホストの君が赤くなるほどってことは」

 薫がにやにやしながらからかうと、新堂は言い返そうと口を開きかけたが、そのまま何も言わずにそっぽ向いた。