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TearyDoll


57



 その後、零の携帯電話を使い、安斉は鷲塚に連絡をした。

「零を助けたかったら、一人で晴海埠頭の倉庫に来い」と。

 全て予定通りであったが、今、主導権を握っているのは自分ではなく後藤──だが、それが違うだけで、安斉の目的は全て狂ってしまう。

 電話口の向こうにいる鷲塚の深く響く冷静な声を聞いた途端、安斉は全てを放棄して逃げ出そうとすら考えた。

 このままゆけば、この誘拐事件の首謀者は安斉だと見なされるだろう。

 当初の計画ならそれでも良かったが、後藤が好き勝手に行動する状態では、望みのものは手に入らないかもしれない。

 内心で舌打ちしながら、安斉は携帯電話を後藤に渡した。

「──で、おっさんは何だって?」

 薄ら笑いを浮かべながら、後藤は手の中で携帯電話を弄んだ。

「判った──だってさ」

「それだけ? 怒ってなかったのか?」

 訝しげに片眉をつり上げた後藤を、安斉は苛立たしげに睨み、荒っぽい口調で答えた。

「知るかよ、ヤクザが何を考えてるかなんて。
 それより、さっさと準備しねーと、こっちもマズイことになるんじゃねーのか?
 相手は、拳銃持ってるヤクザなんだぜ」

 すると後藤は面白がるように声を立てて笑い、馴れ馴れしげに安斉の肩を抱いた。

「心配すんなって、尚之──相手がチャカ持ってることを、俺らは知ってる。
 けど、向こうは、俺がチャカ持ってる事は知らないんだ。
 それが向こうの弱点になる。
 ヤクザが撃たれて死んだって、ヤクザ同士の抗争だって思われるだろ?
 まさか俺らが疑われるわきゃねーよ」

 そう説明しながら、後藤はジーンズのウエストに挟んであった拳銃を、笑いながら安斉に見せびらかした。

「おまえ……それを、どこで──?」

 呆気にとられて安斉が問うと、後藤はにやりと唇を歪めた。

「知り合いから貰ったんだ、すげーだろ?
 もし俺が鷲塚ってヤツを仕留められたら、その人の口利きで、とある組の幹部に取り立ててもらえるって事になってる。
 そうなったら、金も女も思いのままだ」


 椅子に縛り付けられたまま座らされていた零は、後藤が持っている黒光りする拳銃を目に留めた瞬間、はっと顔を強ばらせた。

 何故、まだ高校生であるはずの後藤が、拳銃を所持しているのかは判らない。

 だが、その凶器は鷲塚の命を奪う可能性がある──そう思った瞬間、全身の血流が凍りつくような衝撃を感じた。

(この子たちは……まさか、海琉を殺そうと──?)

 そんな事はさせられない……何があっても、鷲塚の身は守らなければ──。

 でも、どうすれば良いのか、どうすればこの危険を鷲塚に知らせられるのか、判らない。

 ぎゅっと瞼を閉ざしていた零は、近づいてくる安斉と後藤に涙を湛えた瞳を向けた。

「君たちが海琉を傷つけたら、私は絶対に許さない。
 もし……もし、君たちが海琉を殺したら──たとえ、どんな事をしてでも……私が…君たちを殺してやる!」

 声を詰まらせながら叫んだ零の瞳は、悲愴な決意に溢れていた。

 光を弾いて輝くセピアの瞳を、安斉は魅入られたように見返していたが、後藤は声を上げて笑いながら拳銃をちらつかせた。

「へえ〜、そんなに好きなんだ、鷲塚ってヤツの事。
 じゃあ、やっぱり尚之が言ってたみたいに、彼氏の見てる前で輪姦してやるよ。
 あんたが他の男に突っ込まれて、ひいひいよがってるのを見たら、あんたの彼氏はどんな顔するだろうな。
 もしかして、愛想尽かして、そのまま帰っちゃったりしてな」

 後藤が放った残酷な言葉は、零の心臓を止めてしまうほど大きな衝撃を与えた。

 喪心したように大きく見開かれた双眸の目尻から、留まっていた涙の雫がこぼれ落ち、頬を伝っていく。

 壊れてしまいそうなほど繊細で儚げな美貌に嗜虐心を募らせ、後藤は拳銃をジーンズのウエストに挟み込むと、ポケットから長いバタフライナイフを取り出した。

 慣れた手つきで刃を開くと、後藤は笑いながら零の着ている白いシャツに手を掛ける。

「おっさんが来るまでに、まだ30分ぐらい時間があるから、ちょっと暇つぶしすっか。
 このお姉さんを裸に剥いて、SMショーみたいに縛っちまうっていうのはどーよ?」

 後藤が仲間に声を掛けると、途端に大きな歓声が上がった。

「いーぜ、やっちまおーぜ!」

「じゃあ、まずは上から順番に〜」

 彼らの声はまるでゲームを始めるかのように気楽なものだった。

 シャツの一番上のボタンに後藤の指がかかった瞬間、零は身をよじって悲鳴を上げていた。

「嫌っ──いやあっ! 止めてっ……私に、触らないで──っ!」

 零の喉から迸った悲痛な叫びは、だが少年たちの征服欲を煽る麻薬となり、さらに彼らを残酷に駆り立てていく。

 死に物狂いで暴れる零を押さえつける少年たちの顔には、獲物を食らおうとする雄獣の欲望が貼り付いていた。

 後藤はバタフライナイフを使い、ことさら恐怖を長引かせるように、シャツのボタンを一つずつ布地から切り離していった。

 シャツの下から現れた処女雪のように白く滑らかな肌は、少年たちを興奮させ、呼吸を荒くさせていく。

 だが、剥ぎ取られたシャツの下には、女性特有の豊かな丸い乳房は無く、一瞬、彼らを戸惑わせた。

「えっ……? 何だ、女じゃねーじゃん」

「マジかよ──ってことは、今から来るヤーさんはホモってわけ?」

 ざわつき始めた少年たちは、しかし零の肌に刻みつけられたような赤いキスマークを見つめ、にたにたと好色な笑いを浮かべた。

「バカじゃねーの、おめーら。
 言っただろうが、この人は、俺の高校の先輩だった人だって。
 男相手が嫌なら、手出しすんじゃねーよ」

 それまで少し離れた所で様子を見ていた安斉が、少年たちの様子を見て呆れたようにそう言い、彼らの間に身体を割り込ませるようにして零に近づいてきた。

 シャツを脱がされ、上半身を剥き出しにさらされた零の前に膝をつき、安斉は許しを請うような眼差しで零を見つめた。

「ごめんな、零さん──でも、俺はやっぱり零さんの事が好きなんだ。
 他のヤツらに渡すぐらいなら、今すぐにでも零さんの事抱きたい。
 愛してるから……俺のこと、許してくれよな」

 顔を背け、きつく唇を噛んだまま双眸を閉ざしていた零は、あまりにも自分勝手な安斉の告白に憎しみすら覚え、恐怖に引きつった声で叫んでいた。

「愛していれば……何でもしていいって思ってるの!?
 相手が望まない事を強いて、傷つけて──そんなのは愛じゃないでしょう!」

 身体に触れてくる安斉の指の感触に嫌悪を感じ、必死に我慢していなければ叫び続けてしまいそうだった。

 後藤にシャツを剥ぎ取られていく間、零はどうにかして逃げようと藻掻いていたが、後藤の仲間によって身体とまだ自由だった両足を押さえつけられ、どうにもならない。

(──このまま犯されれば、海琉を……裏切ることに──!?)

 絶望が津波のように押し寄せ、零は我を忘れて悲鳴を上げていた。

 他人とは違う異形の肉体──人目にさらすことは忌まわしい事でしかなかったというのに、鷲塚と出会い、抱かれるようになってから、自分もまた他の人達と同じように快感を得られるのだと知った。

 鷲塚を受け入れ、深く交わり合う事は、底辺に互いに相手を思いやる愛情が横たわっているからこそ、どんなに淫らで恥ずかしい行為であっても、受け入れることができる。

 愛されているのだと……そう感じることができるから、どれほど強引に翻弄されても、零は鷲塚のことを拒絶することは無かった。

 だが、零の合意も無く犯そうという少年たちの行為は、零の気持ちを無視した冷酷なレイプでしかない。

 全身全霊で拒否をしようと、零は身体を緊張させた。

 それを見つめ、安斉は自嘲的に笑いながら、それでも淡く輝くしなやかな肉体に触れていた。

 胸を飾る双の突起は、まるで食べ頃の果実のように妖しく色づいている。

 欲望に突き動かされ、安斉は誘われるように片側に唇を寄せ、しゃぶりついていた。

「いやっ! やめて……止めてっ──触らないで──ッ!!」

 安斉が胸の突起を吸い上げ、その尖端に歯を立てた瞬間、零は絶叫した。

 セピアの双眸から涙が溢れだし、押さえつけられて身動きのできない身体が爆ぜたように跳ね上がる。

 少年たちは暴れようとする身体を力任せに押さえつけ、好奇心と肉欲に満ちた視線を零に向けていた。