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TearyDoll


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 埠頭近くにあるレンガ造りの古いビルは、十年以上も放置されているため幽霊屋敷のごとき惨状になっていた。

 地上部の窓ガラスは風雨によって汚れ、中には割れてしまっている部分もある。

 地下へと続く階段を下り、重く分厚い鉄扉を開けると、何の仕切りもないコンクリート作りのスペースが広がっていた。

 このビルの所有者は、この世には存在しない架空の人物──そして、管理をしているのは東林総合株式会社。

 荒神会との直接的な関係は全く無かったが、実際は必要に応じて荒神会が利用している。

 廃墟のようなこのビルの地下室は、外部に音を全く逃がさない。

 それゆえに、拷問や制裁に利用されることが多く、そのための大道具・小道具が常に準備されていた。

 気を失った状態で地下室に連れてこられていたチーマーたちは、自分たちが見るからにヤクザな男たちに包囲されていることに気づくと、虚勢すら失って青ざめた。

 その中でも、天井に頭が達しそうなほど巨大な男は、全身が発達した筋肉で形作られているのか、スーツの上からでもその逞しさがうかがえた。

 殴られればひとたまりも無い──想像力が欠落した少年たちにも、そう確信できるほどの迫力がある。

「さて──貴様ら下っ端には、選ぶ権利をやろうか?」

 青白い蛍光灯で照らし出された地下室の中で、鷲塚は感情の失せた冷酷な声で言った。

 煙草を挟んだ指先で、鷲塚は水が溜められた巨大な水槽を示した。

 天井には滑車が取りつけられており、滑車に通されたロープの先には、バランスの悪い不自由な体勢で吊り下げられている後藤の姿があった。

 右手と左足は自由なのだが、それぞれの反対側はロープで拘束されている。

 しかし自由なはずの手足は力を失っており、特に左足からは真っ赤な血が流れ出していた。

「──やれ」

 鷲塚が短く命じると、床に固定されてあるロープの巻き上げ機が動き始め、後藤の身体が徐々に水中に浸かり始める。

 背中に水の冷たさを感じた瞬間、後藤は必死で逃れようと自由になる手足をばたつかせた。

 その瞬間、鷲塚に折られた腕と撃ち抜かれた足が激痛を発し、絶叫を上げていた。

 猿轡を噛まされているにもかかわらず響き渡った後藤の悲鳴を聞き、彼の仲間たちはガタガタと震え始める。

 溺死する恐怖に暴れる後藤の姿を、水槽のガラス越しに鷲塚は冷淡に眺めていた。

 稀代の名工によって刻まれた彫像のように秀麗な顔の中で、鋼色の双眸が不気味なほど無機的で冷たい輝きを放っていた。

「や、やめてくれーっ! マサが死んじまうーっ!!」

 仲間の一人が大声を上げ、水槽に突進しようとした途端、呆気なく床に倒れ込んだ。

「だったら、てめえが身代わりになるってか?」

 足を引っかけて、少年を転倒させた古谷が、可笑しげに笑いながら煙草を吹かせた。

 一度、水中から引き上げられた後藤の身体が、痙攣を起こしたように小刻みに震える。

 恐怖に顔を引きつらせている少年たちに冷酷な一瞥を向け、鷲塚は古びたマットレスの上に横たわっている安斉に視線を向けた。

「それとも、こっちの方が好みか?」

 まるで、コース料理のメインディッシュを選ばせるような何気ない口調で言い、鷲塚は安斉の傍にいる組員に合図を送った。

 男はにたりと残忍な笑みを浮かべ、鉄パイプの両端に安斉の足首をそれぞれ縛った。

 天井から吊り下がったフックに鉄パイプを吊すと、両足がV字に開いたまま閉ざせなくなり、そのまま背中の中程まで吊り上げられてしまった。

 その時、両腕を後ろ手に拘束されていた安斉が、意識を取り戻して暴れ始めた。

 SMプレイで使用するボールギャグで口を封じられているため、獣のような唸り声しか発せなかったが、ひたすら自由になろうともがいている。

 男は大きな裁ち鋏を使い、肌を傷つけないように手際よく衣服を切り裂いていった。

 頭部と肩で身体を支えねばならず、さらには股間を少年たちに見せつけるような向きで吊り下げられてしまい、安斉は凄まじい屈辱に歯を食いしばろうとした。

 だが、口の中の異物がそれを阻み、唾液すら飲み下せずに、口から伝い落ちていく。

「兄ちゃん、今から、極楽を見せてやる」

 細いコードのようなものにジェルを塗りつけながら、そのヤクザはサディスティックな笑みを浮かべた。

 力を失って垂れ下がっている安斉の分身を片手に取り、やんわりと包皮を扱く。

 尖端の鈴口をさらけ出させ、丸みを帯びたカテーテルのようなコードを尿道に押し込んだ。

 その途端、安斉が眼を剥き、くぐもった悲鳴を上げる。

 最奥まで届いたカテーテルをゆっくり抜き挿しされ始めると、安斉は身を捩りながら、怺えきれずにぶるぶると震え始めた。

 焼け付くような痛みと共に、腰の芯から疼くような快感が湧き起こってくる。

「おやおや、勃ってきちまったか──そら、これでどうだ?」

 リモコンを手に取った男は、にやにやと笑いながらバイブレーションのスイッチを入れた。

 その途端、コードが微細な震動を起こし、敏感な粘膜を刺激し始める。

 目もくらむような快感が弾け、安斉は見られていることも忘れて息を喘がせた。

 ところが次の瞬間、背筋から脳天を突き抜けるような電流が走り、雷に打ちのめされるような激痛に、安斉は断末魔のごとき叫びを上げた。

「これをやられると、どんなに強い男でも落ちるんだぜ。
 さすがに、この中までは、どうやっても鍛えられねーからな」

 コードから流れる電気ショックによって苦痛を受けながら、安斉は両目から涙を溢れさせ、絶え間ない悲鳴を上げ続けた。

 不意に電流が消えると、直接的な激痛によって膀胱が急激に収縮し、安斉は放心したまま失禁した。

 両足を高く吊り下げられているせいで、生暖かい液体が胸や顔に流れ落ちてくる。

 少年たちは、その想像を絶するおぞましい行為に青ざめ、凍りついたように動けなくなっていた。

「──さあ、どちらがいい? どちらか好きな方を選ばせてやる」

 鷲塚は冷たく嘲笑うように唇をつり上げ、少年たちに非情な二者択一を突きつけた。




 ビルの外に出た古谷は、息苦しさを払拭するように大きく背伸びをすると、煙草を吸いながら車に寄りかかっている鷲塚を見やった。

「なあ、鷲塚──おまえ、あれで満足してんのか?」

 わずかに星が輝く夜空を仰いでいた鷲塚は、古谷とその後から現れた高宮を見やり、皮肉げな微笑を唇に刻んだ。

「満足するわけない──ガキどものセックスシーンを見ても、イライラするだけだ」

 結局、どちらの制裁も選べずにいるチーマーたちに、鷲塚は第三の道を示した。

 今後、荒神会が彼らの面倒見をする代わりに、組織の手先となって動くこと──そして最初の命令は、安斉を全員で輪姦することだった。

 もちろん、全員その提案に飛びついたのだが、鷲塚は醜悪ですらあるその光景を見る気にはなれなかった。

 ──我が身の保身のためなら、平気で他人を犠牲にする。

 それは鷲塚自身とて同じ事なのだが、恥もプライドも無くした少年たちの姿を見ていると、馬鹿馬鹿しい……と言うより、その愚かしさに苛々した。

「おい、そういう事じゃねーだろうがよ。
 あいつらをこのまま放り出しちまっていいのか?」

 呆れたように古谷が言うと、鷲塚はにやりと傲慢な笑みを浮かべ、高宮に視線を移した。

「高宮、撮影したビデオは、ネット配信できるように編集させろ。
 安斉の父親と兄の職場、学校関係者、マスコミ──指示を出したら、すぐに流せるようにな。
 それをネタに安斉を脅して……調教した後は、アングラのSMクラブで働かせるか」

「<コロッセウム>のショーにでも出したら、東山サンが喜びそうだな」

 鷲塚の残忍な処断を聞いても、古谷は顔色一つ変えずにくすくすと笑った。

「──あの後藤という小僧の方はどうします?」

 鉄壁のポーカーフェイスを崩さないまま高宮が訊ねると、鷲塚はたった今思い出したというように、軽く眉根を寄せた。

「組の若手の誰かに、監視がてら面倒を見させろ。
 モノになるようだったら、あのチーマーどものヘッドにそのまま使えばいい。
 ただし、御山に寝返る気が絶対に起きないよう、どんな方法を使っても、その辺の躾はきっちりさせておけ」

「いつまでも逆らうようだったら?」

 厳つく荒削りな高宮の顔を、鷲塚は冷厳な鋼の双眸で見据えた。

「その時は処分しろ──使い物にならなければ、組には必要無い」