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TearyDoll


65



 力尽きたようにシーツの上に頽れている零を、うつ伏せに反転させた鷲塚は、背後から淡く紅潮している双丘を開いた。

 つぷりと秘蕾に指が差し込まれてると、そのささやかな刺激にさえ感じてしまい、零は喘ぎながら哀願をもらした。

「ああ……あうぅ……海琉──おねがい…後ろも……早く……して……」

 後孔の中で破れたオイルの中には、媚薬の類が混ざっていたのか、むずがゆいような疼きと痺れるような熱さが媚肉を蝕んでいた。

 バスルームで散々泣き叫び、許しを請うた後で、鷲塚はようやく後孔を洗い清めてくれたが、肉体が発火するような熱さと脈打つ疼きだけは消えなかった。

 熱い吐息を漏らす唇はずっと半開き状態で、その中で快楽を求めるように舌先が踊る。

 零の顎を片手で捉えた鷲塚は、とろりと見開かれたセピアの瞳を見下ろし、そのまま貪るように唇を重ね合わせた。

 欲望の衰えない肉刃を片手でさらに猛らせてゆき、その先端をオイルの残滓が滲んだ秘蕾にあてがうと、零の腰を持ち上げながらゆっくり押し込んでいく。

 ようやくもたらされた狂おしい刺激に、シーツにしがみついたまま零は掠れた啼き声を立てた。

「あ、ううぅ……もっと、きて……早く、挿れて……」

 限界を超えた悦楽を望むように、零は淫らに腰を掲げようとする。

 オイルで内部は潤い、とろけていたが、鷲塚が全てを埋め込んだ途端、零が弱々しく喘いだ。

「あ、ああ…き…つい……まって……まだ、動かないで──」

 充溢感に苦しみながらも、背筋を舐め上げるぞろりとした快美感が炎のように零を包み込む。

 しかし鷲塚は、雄茎の張り出した部分で狭い媚肉を押し拡げるように、腰をゆるやかに動かし始めた。

 淫らな白い獣のように仰け反った零は、艶めかしくすすり泣きながら身悶え、夜気を震わせるような高く澄んだ悲鳴を上げた。

「──ああぁっ! ああっ…かい…る──あ……いぃ…ッ!」

 快感と痛みが交錯する深い悦楽に襲われた零は、息を喘がせ、涙を溢れさせながら総身を痙攣させた。

 あっという間に絶悦を極めた零を、鷲塚はさらに嬲るように責め立てる。

「いやああっ……あっ、ダメ……いっちゃう…っ──ああっ、また……ッ」

 昇りつめた瞬間、全身がきしむほど強く突き上げられ、最奥で揺すられ、限界に達した零は狂ったように歔いた。

「ひぃいっ……ああっ…死んじゃう……死んじゃうぅ…ッ…ひああ──ッ!」

「……逝け、このまま逝ってしまえ、零。
 他のヤツらに……奪われるぐらいなら、いっそな──」

 零の背後に覆い被さり、その耳朶に後ろから噛みついた鷲塚は、息を荒らげながら囁いた。

 永遠に続くような目眩く絶頂に追い上げられ、零は全てを手放し、忘我の淵に堕ちる。

「──零、愛してる……俺が欲しいのは、おまえだけだ……」

 快感に濡れた鷲塚の声音とキスを、零は深い眠りの闇の中で感じていた。



 地上に夜闇の気配が忍び寄ってくるのを感じながら、鷲塚は腕時計を見下ろす。

 車窓から外の風景を眺め、鷲塚は考え込むように頬杖をつき、ふっと嘆息をもらした。

「──若頭、本当に一人で行かれるつもりですか?」

 助手席の高宮にそう問われ、鷲塚は小さく苦笑いをしてうなずいた。

「心配するな。何も起こらん──多分な」

「気休めにもなりませんね、それは。
 こういう時にこそ新堂を連れて行くべきなのに、あいつは零さんの傍だし……」

 呆れたように言ってため息をついた高宮は、シティホテルの正面ロータリーに車を回すように指示をした。

 ベンツから降り立った鷲塚は、泰然とした歩みでホテルのロビーに足を踏み入れると、待ち合わせ場所に指定したラウンジに視線を向ける。

 日本庭園を見晴らす壁に接する窓際のテーブルに、小柄な中年の女が座っていた。

 物憂げに庭園を見つめる横顔は、どちらかと言えば十人並みの平凡なものだった。

「──お待たせしました、鳴川さん」

 知り合いがその場にいれば愕然とするほど、鷲塚は丁重な態度で挨拶をする。

 はっと驚いたように見上げてきたその女は──鳴川美弥子は、鷲塚の姿を見つめると、大きな目をこぼれんばかりに見開き、そして穏やかに微笑んだ。

「初めまして、鷲塚さん──零の母の鳴川美弥子です。
 零がいつもお世話になっております」

 椅子から立ち上がり、深々と頭を下げて挨拶をする美弥子を、鷲塚は椅子に座るよう促した。

 壁に背を向ける席に座り、鷲塚がコーヒーを注文すると、その様子を眺めていた美弥子が、躊躇いがちに口を開いた。

「鷲塚さん──あの……零は元気にしているのでしょうか?」

「特に問題があるとも思えませんが──零の事が気になりますか?」

 足を組みながら鷲塚が問い返すと、美弥子は膝に視線を落とし、少し疲れたように言った。

「咲妃の事で、あの子は随分と傷ついてしまったようですから……心配していたんです。
 何があったのか、咲妃から大体の事情は聞きました。
 私が電話で聞いても、零は『大丈夫』だって笑っていましたけど、咲妃から話を聞くと、何でも無かったとは思えなくて。
 零はいつもそうなんです──辛い事あっても、私たちの前では絶対に泣き言はいいません。
 どんなに自分が傷ついても、私たちには心配かけまいと、我慢してしまって……。
 いつか自分自身を追いつめてしまうのではないかと、私はそればかり心配していました」

 ふっと小さくため息をついた美弥子は、無言で話を聞いている鷲塚を、不安げに見つめた。

「──零の生い立ちを……あなたは、聞いていらっしゃいますか?」

 鷲塚がうなずくと、美弥子は重ねて問いかけた。

「では──あの子の身体の事も?」

 鷲塚は鋼の双眸で美弥子を見返し、唇に薄く笑みを刻んだ。

「知っています──全てを。零の事で、今さら驚く事は何もありません」

 鷲塚がそう応じた途端、美弥子はほっと安堵したように両肩から力を抜いた。

「そうですか──だったら、良いんです。
 あの子は、その秘密を家族以外の誰にも打ち明けることができずに、ずっと苦しんできたんだと思います。
 明るく振る舞っていましたが、寂しそうにしていることもあって、けれど家族ですら零の心を慰めることができなかった。
 あの子は手の掛からない子でしたから、だから余計に、私と主人はそれに気づいてやることができなかったんです」

 淡々とした口調で話ながらも、美弥子の瞳に涙が滲み始めていた。

 昨日、美弥子から零についての重要な話があると連絡を受けた時、鷲塚は最初怪訝に思い、そして警戒した。

 咲妃から鷲塚の話を聞かされた両親が、「零を返せ」と訴え出てくるのではないかと、一瞬そう考えたのだ。

 だが、美弥子の話し方は穏やかで敵愾心は無く、だからこそ多忙な時間を調整してでも、彼女に会ってみようという気になった。

 美弥子に言ったように、零に関する情報で驚く事はもはや何も無いはずだが、それでも育ての親が「重要な事」と言うのだから、興味を引かれた。

 義理の母とは言え、零を育て上げた美弥子を、直接見てみたいという好奇心もあった。

 そんな鷲塚の内心を露とも知らず、美弥子は過去の思い出をひとしきり語った。

 運ばれてきたコーヒーに口をつけ、鷲塚がタイムリミットを頭の中で計算し始めた時、不意に美弥子が意を決したように頭を下げてきた。

「鷲塚さん──零を……どうぞ末永くよろしくお願いいたします。
 私も、主人も、そして咲妃も、零の幸せをいつも祈っています。
 零があなたを選んだのなら、私たちは反対する気はありませんし、むしろ安心して零の事を託せると思っています」

 意表を突かれ、一瞬鷲塚は眉根を寄せた。

 表面上はクールなポーカーフェイスを保っていたが、心の内側にわずかな動揺が生まれる。

 唇に淡い苦笑を浮かべた鷲塚は、コーヒーカップをソーサーに戻した。

「たとえ、あなた方に反対されたとしても、零を手放す気はありません。
 もっとも、幸せにしてやれるかどうかは判らないが。
 聞いての通り俺はヤクザですから、これから先どうなるのか判らない。
 だから、あなた方が望むような幸せを零に与えてやれるとは、俺は思っていません」

 すると美弥子は柔和な優しい微笑を浮かべ、唇をほころばせた。

「あなた方が幸せだと感じられるなら、それでいいじゃありませんか。
 零は、自分が望むものを知っているはずです。
 零にとっては、あなたと出会えた事が、幸せの始まりだったのでしょうから」

 明らかに他者とは違う雰囲気を持つ鷲塚を、美弥子は怖れる様子も無く見返し、迷いの無い口調でそう告げた。