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舞の刻



<18>



「よっしゃあ! 先鋒は任せてねー!!」

「行くぞ、融」

「準備はオッケー!!」

 2人は猛ダッシュして取材陣に迫った。
 その途端、マイクが突きつけられ、質問攻めに合う。

「殺された少年をご存じでしたか?」

「今回の事件についてどう思われますか?」

 マイクをかわしながら走った2人は、教師の見守る校門の中に飛び込んだ。

「へへん、ざまあ見ろ」

 鉄門の中に飛び込んだ融は、報道陣をバカにしたように手を振って見せた。
 そして丞の顔を見上げる。

「こんなになってるんじゃ、やっぱり玲熙、来ないんじゃないかな」

「──さあ、どうだろうな」

 それに関しては、丞は全く答えられなかった。
 ただ、隠岐宮玲熙の名前が、報道陣の耳に入らないことを祈るだけである。

 その時、校舎の方から歩いてきた教師に、2人は声をかけられた。

「おい、滝沢、峰月。早く入らないと遅刻だぞ」

 振り向くと、そこにクラス担任の中野の姿があった。

「あ、センセ。玲熙、今日来てます?」

 融がそう訊ねると、中野は首を横に傾げた。

「いや、まだ来てないよ。今日は来ないかもしれないなあ」

 特有ののんびりとした口調でそう言い、中野は校門を見つめた。
 そして大きな目を見開き、指を門の方へ向けた。

「──あ、来た」

 はっと2人が校門を振り返ると、そこに見慣れた黒塗りのベンツが横付けされた。

 記者たちはこぞって押し寄せ、人が出てくるのを、今か今かと待ち構える。

 そしてドアが開けられ、沖守要の姿が現れた。

「要さんだ。どうするんだろう?」

 融が呟くと、丞は校門の方へと歩き出した。
 慌てて融が追いかけてくる。
 そしてその後ろから、遅れて中野が追いかけてきた。

 沖守要は、記者たちの注意を引きつけているらしかった。
 レポーターに囲まれ、質問攻めにあっている。

 その隙に反対側のドアが開き、玲熙が出てくる。

 そのまま校門に入ろうとした時、1人の教師が門を玲熙の眼前で閉ざしてしまった。

 愕然とした丞は、急いで走り出した。

 校門が閉まる音に気づいた記者たちは、玲熙を見つけると一斉に集まってくる。

 彼の美貌に呆気にとられながら、それでも矢継ぎ早に質問を浴びせかける。

 玲熙はそれに答えようとはしなかったが、門を閉めた教師が叫んだことで事態は急変した。

「そいつだ。そいつが鬼なんだ。そいつのせいで、みんなが死んでしまうんだ!」

 そう叫んだ教師は、そのまま校門の前にうずくまってしまった。

 記者たちがその言葉を聞き逃すはずはなかった。
 途端に、玲熙に対する質問攻勢が激しくなった。

 玲熙は、うずくまる教師を呆然と見つめていた。
 その表情にあまり感情は浮かんで見えなかったが、見つめる瞳が驚愕を表わしている。
 そして、あたかも仮面にひびが入り、割れてしまったかのように、玲熙の美しい顔が悲しみに歪んだ。

 丞は門に走りより、教師に怒鳴りつけた。

「何をやってる! 早くここを開けろっ!!」

「嫌だ。もう、人が死ぬのは嫌だ! 死ぬんなら、そいつが死ねばいいんだ!!」

 錯乱して叫き散らす教師に、ますます好奇の視線が集まる。

 口論しても埒があかないことを悟った丞は、コンクリートの門柱に飛び上がり、硬直している玲熙に手を差し伸べた。

「──早く、上がってこい!!」

 呆然としている玲熙は、丞の顔をぼんやりと見つめたまま、動こうとはしなかった。

「早くしろっ!!」

 苛立って丞が怒鳴ると、玲熙はびくりと身体を震わせ、細い腕を伸した。

 その途端、記者たちがどっと押し寄せてきた。

 傷を負っていない右手で玲熙を引きずり上げようとした丞は、玲熙の身体に記者がまとわりつくのを見て、身体の奥からふつふつと怒りが込み上げてくるのを感じた。

「馬鹿野郎! そこをどけっ!!」

 瞳をぎらつかせて罵倒すると、そのあまりの迫力に一瞬恐れをなしたのか、記者たちが一歩後退した。
 その隙を見逃さず、丞は玲熙を引き上げた。

「あなたはその少年とどういう関係なんですか!」

「鬼というのは、どういうことですかっ!」

「その先生が言ってることは、どういう意味なんですか!!」

 凄まじい質問に、丞は答えず、代わりに琥珀色に光る双眸で睨みつけた。

 そして玲熙を地面に降ろし、自分も飛び降りる。

 左肩の傷が痛んだが、この際構ってはいられなかった。

「大丈夫かい、峰月、隠岐宮。怪我はなかった?」

 心配そうに近寄ってきた中野に、丞は頭を振り、小刻みに震えている玲熙を見下ろした。
 そんな玲熙に融が近づき、肩を抱きしめると、支えるようにして歩き出した。

 彼らの後から歩きながら、丞は深いため息をついた。

「それにしても、川村先生はどうしてしまったんだろう?」

 首を傾げている中野に、丞は判らないとしか告げようがなかった。

「とにかく、保健室に連れて行った方が良さそうですよ。
 その後の対処までは、俺には判りかねます」

「ああ、そうだね。うん、校医さんを呼んで来なきゃ」

 慌てて走り出した中野を見送り、丞は盛大なため息をついた。
 危機管理能力というのが、どうやら欠如しているらしい。
 中野には悪いが、こんな頼りにならない教師が指導する学校の未来に、丞は一抹どころではない不安を感じた。

 その日は、授業の前に全校集会が開かれ、学園長から死亡した生徒についての説明が行われた。
 しかしその説明はかなり曖昧なものであり、生徒たちを納得させるにはほど遠かった。

 大ホールでの全校集会が終わった後、教室に戻るために渡り廊下を歩いていた丞に、正志が小走りに近づいてきた。

「おい、丞。君、今朝思いっきり目立ってたぞ」

 無理な行動を取ったのがまずかったのか、またさらに熱が上がったような気分になっていた丞は、不機嫌な顔で正志を見下ろした。