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舞の贄



<11>



「……どう…とは?」

 秘部を苛まれる苦痛と、前方を煽られて込み上がってくる快感に、切なく眉根を寄せたリーファンは、震える声で問い返していた。

 反り返る首筋に唇を這わせていたアルラウドは、くくっと喉の奥で笑うと、濡れた舌先で柔らかな耳朶を舐めた。

「──いい男だろう、タスクは?」

 問いを重ねたアルラウドに、リーファンは首を小さく縦に振った。

「……それは、ご主人様の……ご友人であられる方ですから──ひ…うッ!」

 そう答えた途端、刺激に勃ちあがっていた先端に爪を立てられ、その激痛に少年は仰け反って硬直した。

 深い海の底のような青い瞳に涙が溜まっているのを、アルラウドは長い黒髪をたぐるようにつかんで覗き込んだ。

 可憐な美貌が苦痛と被虐の悦楽に染まるのを、アルラウドは満足そうに見下ろす。

 そしてむしろ優しい声音で、小さく痙攣するように震えているリーファンに囁いた。

「この俺が、そんな答えを望むと思っているのか?
 俺が聞きたいのは、おまえが思ったままの言葉だ。
 ──それとも、おまえの頭の中をのぞいてやろうか?」

 皮肉げな嘲笑を唇に刻んだアルラウドは、前方をいたぶっていた指先をぴたりと少年の白い額に当てた。

 その瞬間、リーファンの美貌が恐怖に凍りつき、ふるふるとかぶりを振った。

「お……お許しください──どうかそれだけは。
 タスク様の事は……私にはよく判りません。
 お優しい方なのかもしれませんが…何故かひどく危険な匂いもする。
 私には、あの方の考えている事が、全く読めなかった──」

「だからこそ、俺はあいつを認めているんだ。
 俺に心を遮断しておける奴は、そう多くない。
 よほど覇気が強いか、感情のコントロールで心を閉ざしているか……あるいは、本当に何も考えていないかだ。
 タスクはどのタイプとも違うからこそ、俺を楽しませてくれる。
 あいつの考えている事が判ってしまったら、きっと俺は幻滅するだろう」

 淡々とした口調で語った後、アルラウドはふんと鼻でせせら笑い、リーファンの上から身体を起こした。

「……何を、お考えなのですか?」

「──さて、どうするかな。
 あいつがレイキ・オキミヤをどう思っているのか、俺はそれが知りたいな。
 タスクにゲイの気質は全く無かったはずなんだが……」

 独白するようなアルラウドの言葉を、リーファンは身動きもできないまま、じっと無言で聞いていた。

「そうだな、それを確かめてみるというのも面白いか。
 聞いたところによれば、レイキは絶世の美少年らしい。
 それはそれで、俺も興味がある」

 くつくつと笑い出したアルラウドを、リーファンは感情の失せた瞳で見つめ続けていた。

 突然、アルラウドの南洋の双眸がきらりと輝き、リーファンを侮蔑したように見下ろしたかと思うと、優雅な指で床を示した。

「床に這え、リーファン。尻を自分で開いて、おまえのいやらしい穴をこっちに向けろ」

 惨く嬲られたばかりの秘蕾を犯される恐怖に震え上がったリーファンは、しかしアルラウドに逆らうことができず、言葉通りに床に降りた。

 高級な絨毯の上に肩口と膝を突き、自ら腰を高く上げた美しい少年は、細い指先で浅い秘裂を両側から割った。

 屈辱的な体勢に瞳を閉ざし、唇を噛んでいたリーファンは、残忍な笑い声を立てたアルラウドの欲望を受け止めきれず、思わず声を上げてしまう。

「あううっ……あっ、あ、ああっ──アルラウド様っ!」

「──もっといい声で啼けよ、リーファン。
 ふふっ……レイキもおまえと同じように犯してやったら、タスクの奴はどうするかな。
 共有のペットにしても面白いかもしれないが──」

 不吉な嘲笑を立てたアルラウドは、リーファンの細い腰を強くつかむと、己の欲望を遂げるため激しく腰を打ちつけ始めた。



 白いベッドに横たわる隠岐宮泰熙を見つめていた榊志熙は、布団の上に置かれた手に己の手を静かに重ねた。

 深い眠りに落ちていた泰熙は、その温もりを感じたのか瞼を上げると、志熙に向かって穏やかに笑いかけた。

「──すまないな、志熙。おまえにまで迷惑をかけてしまった」

 やせ衰えた隠岐宮家の当主を見つめ、志熙は白い美貌に淡い微笑を湛えると、ゆっくりとかぶりを振ってみせた。

「これもまた私の宿命なのだと思っています。
 要に請われはしましたが、いずれ私はここへ来ることになっていた。
 水晶の獄で私が無為な時を過ごすことを、我らの神は望んでおられない。
 ──ならば、玲熙のために、一族のために、私は出来る限りの事をいたしましょう」

「志熙……おまえは人前に出ることをずっと厭っていた。
 玲熙のためとはいえ、宮司となれば、おまえに多くの苦労をかけてしまうだろう。
 おまえの事を詮索する輩も出てくるかもしれない。
 だが、私はおまえには何もしてやれない……どうか、赦してほしい」

 肉の削げた手で志熙の手を握った泰熙は、黒水晶のごとき瞳に微かに沈痛な表情を浮かべた血族の青年をじっと見つめた。

 志熙は漆黒の瞳を縁取る純白の睫毛を伏せ、物憂げに微笑んだ。

「──蛇のように地底で生きてゆく定めであった私に、泰熙様は日の光を与えてくださいました。
 異形と生まれた私に、志熙の名を下さったのは泰熙様です。
 あなたはこの私に、人の子としての生き方を教えてくださった。
 今度は私が、玲熙に伝えてゆく番なのでしょう」

 感情の起伏の無い、淡々とした声音で語る志熙は、あたかも幽艶な白雪の精霊のようにも見える。

 常人にあらざる容姿を持つがゆえに、血族からさえも異端視された志熙は、皆から巫女と崇められている玲熙以上に孤独な存在であった。

 本来ならば、彼は榊家の頭領になるはずであった。

 しかし、そうなっていれば鬼塚森神社の宮司職を任せられなかっただろうとも思い、泰熙は運命の皮肉をつくづくと考え、内心でため息をついた。

「玲熙は、ほとんど何も知らない──一族の事も、己の宿命についても。
 私は、長子である晴熙に全てを教えてきたが、あれはその事で心を病み、古の血を蘇らせ、聖地を汚した。
 一族の長として、私は晴熙を処罰しなければならないが、おそらく、その時までは生きていられまい。
 晴熙の事は、要とお前、そして長老会の決定に委ねる。
 玲熙には知らせるな……知らせないまま、闇へ葬れ」

「──心得ました。どうぞお任せください」

 志熙が表情を変えずに頭を下げると、泰熙はひとつうなずき、そして苦く笑った。

「もし祥子が生きていて……私が我が子を殺せと命じた事を知ったなら、あれはきっと私を許さなかっただろう。
 祥子は、一族のしきたりに繋がれることを嫌がり、玲熙を巫女として育てることを悲しんでいた。
 晴熙も、玲熙も、普通の子と同じように、自分の未来は自分で選ばせてやりたいと。
 当時の私は、全てが万事、一族優先の生活を送っていた。
 祥子が病んでいることも、最後になるまで気づかなかった。
 晴熙は、祥子を殺したのは玲熙だと恨んでいたようだが、彼女を死に追いやったのは玲熙ではなく私なのだ。
 死の間際に立って初めて、私は妻の心が判ったような気がする。
 祥子は──最後まで子供達の事を気に掛けていた。
 自分が死んだ後、いったい誰が本当にあの子たちの事を考えてくれるのかと。
 一族の事ではなく、晴熙と玲熙一人一人の事を考えてくれる者がいないだろうかと、ずっと心配しながら逝ってしまった。
 私では駄目だったのだろう──私は、一族のために息子さえも殺す。
 彼女が望んだのは、一族を裏切っても、あの2人を守ってくれる者だったのだからな」