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今夜、あなたの猫になる



<26>



 元気そうなアンズの姿にほっとした大貴は、気を取り直して、庄領の眉間に小さめの絆創膏を貼り付けた。

「──とりあえず、これで良しと。
 上の人のクリーニング代と、あんたの治療代は俺が払うよ。
 ああ、あと、アンズが汚した洋服代。
 やっぱり、こういうのは飼い主責任だろ?」

 そうしなければ、ケジメがつかない。

 ところが庄領は、少し思案した後で呟いた。

「お前から金を取るほど困ってはいないが……」

 どこかで聞いたセリフだと思い、大貴が片眉をつり上げると、絆創膏を指先でなぞっていた庄領は、急ににやりと不敵な微笑を浮かべた。

「飼い主には、相応の責任を取ってもらおうか」

 ぎょっとした次の瞬間、強引にうなじを引き寄せられ、唇をキスで塞がれていた。

 そのままベッドに押し倒された大貴は、逞しい体躯の下でみじろぎもできず、躰の内側で官能の波がざわめくのを感じた。

 貪られるように口づけられ、舌がねじ込まれると、息を弾ませながら応えてしまう。

 快感が背筋を走り抜け、大貴は恍惚に身を震わせた。

 張りつめた欲望の萌芽が、必死で踏み留まろうとする理性とせめぎ合い、心身を追いつめてゆく。

 庄領は突然唇を離すと、息を喘がせている大貴を真っ直ぐに見下ろした。

「お前は、さっき話した黒猫によく似ている。
 気位が高くて、決して馴れ合おうとしない。
 地下鉄の中で初めてお前を見つけた時も、そう思った。
 涙や鼻水でグチャグチャになった顔が、風邪を引いた猫にそっくりだったからな」

 涙の余韻が残る大貴の頬にキスを落とし、庄領はくすくすと笑った。

 恥ずかしくて、顔を背けようとしていた大貴は、はっと男の顔を見返した。

「あ、あんた──俺の事、忘れてたんじゃなかったのかよ?」

「忘れたとは言っていない。それに、お前も聞かなかっただろう?」

 大貴の首筋に唇を這わせた庄領は、吐息を吹きかけながら囁いた。

「からかってみたら、案の定噛みついてきた。
 だから興味を引かれて、お前の後を秘書につけさせたんだ。
 行き先が『ファロス』だと知って、運命を感じた」

「……なっ、何が、運命だ!」

 さらに真っ赤になって、大貴が両目をぎゅっと閉ざすと、男は含み笑いをしながら言った。

「『ファロス』には、創設当時から関わっていたんだ。
 あのビルの設計は私が手がけたものだし、建てたのも私の会社だからな。
 私の造り上げた檻の中に、お前が飛び込んできた。
 ──運命的だと思わないか?」

 はっと瞼を開いた大貴の瞳を覗き込み、庄領はミステリアスな微笑を浮かべた。

「もう一つ種明かしをすると、『ファロス』の理事には、雇用者の履歴書が随時送られてくる。
 お前のも見たが、その時はあまり印象に残っていなかった。
 だが、地下鉄で会った時、不思議なデジャヴは確かにあった。
 秘書の報告を受けて、すぐに思い出したよ。
 気が強そうな目つきをしていたからな」

 つまり、庄領は大貴の個人情報を握っていたにも関わらず、初対面であるかのように、「何も知らない」と嘘をついたのだ。

「俺を、騙したな! 初めて会ったような顔をして、名前聞いたり……」

 大貴が瞳を怒らせると、庄領は目を細めて笑った。

「お前の声で名乗ってもらいたかった。
 それに、私が全てを知っていると言えば、警戒しただろう?」

「──あ、当たり前だ!」

 とはいえ、それが無くとも十分過ぎるほど警戒はしていたのだが、庄領の手管に翻弄されて、いつの間にかホテルで……。

 庄領の裸体を意識した刹那、心臓が早鐘を打つように鳴り始めた。

 両肩を押さえ込まれているため、身動きできなかったが、何故か抗うこともせずに、ぼうっとした眼差しで男を見つめてしまう。

 すると、庄領は唇に微笑を刻み、互いの吐息が触れ合うほど近くまで顔を近づけた。

「いつの間にか、ミイラ取りがミイラになっていた。
 鼻っ柱の強いお前を手懐けたかったが、逆に私の方が虜になっている。
 どうやら、深みにハマったようだ──今は、どうしてもお前が欲しい」

 低く蠱惑的な声で囁かれると、瞬きさえできなくなる。

 だが、射すくめられるような視線を避けた途端、男の股間に聳え立つモノに気づき、全身の血がざわついた。

 すぐに見ていられなくなり、おずおずと男の顔に目線を戻す。

 視線が絡み合った瞬間、心がわしづかみにされたようなショックを感じた。

「あんたは……どうして……」

 頭の中が真っ白になり、大貴が喘ぐように呟くと、庄領はそのまま深く唇を重ね、抗いの言葉を奪った。

「──千晴だ。呼んでごらん」

 甘い誘惑に呑み込まれ、その名を呼ぶと、もう一度唇が重なる。

 心の殻が全て剥がれ落ち、庄領の中に引き寄せられていくような気がした。

 キスをせがむように両手を回し、男の広い背中を抱き締めると、その熱さが危うい陶酔を呼び起こす。

 身につけていた衣服を剥ぎ取られていた大貴は、男の膝の上に、向かい合わせで跨り、互いの欲望を擦り合わせていた。

「……あふっ…うぅっ…ふうぅッ……んんっ……」

 大貴の背中に回された男の手が、双丘を割り広げ、後肛をじわじわと刺激する。

 奪い合うように舌を絡め合わせながら、前後の快感に身を浸していた大貴は、指で貫かれた途端、背中を弓なりに反り返らせた。

「……ぅはっ…んっ……あっ……はあぁっ…うぅんッ……」

 二本に増やされた指がゆるゆると抜き挿しされると、キスを交わす余裕は無くなり、腰を跳ねさせてしまう。

「手を休めるな、大貴。ここで抱かれたくはないんだろう?」

 秘やかに笑った庄領は、大貴が二本のペニスを扱き始めると、再びそのうなじを引き寄せ、唾液の滴る唇を塞いだ

 腰が揺れると、安物のパイプベッドがギシギシと軋みを立てる。

 その音が不安と共に官能を煽り立て、大貴は息詰まる射精感に突き上げられていた。

「……ハアッ…ああぁッ! んっ……イッ…イク…ッ!」

 ビクビクと震え、欲望が爆ぜる。

 それと合わせるように庄領の男根も膨れ上がり、熱い白濁を解き放っていた。

「──はぁっ…ハア……」

 ぐったりと庄領の胸にもたれかかった大貴は、荒い息を吐き出す唇を奪われて、眉根を寄せた。

 汗ばんだ躰を火照らせたまま、深く絡まるキスと、射精後の虚脱感に酔いしれる。

「もっ…もう……ダメだ──気持ち悦すぎて……」

「ずいぶん可愛いことを言うな」

 大貴の躰を抱き寄せ、くすくすと笑った庄領は、肛腔に含ませていた指を蠢かせた。

「ここで、お前と一つに交わりたいが、そうすると我慢が効かなくなりそうだ。
 私も、お前と過ごす時間は大事にしたい」

 耳元でそう囁いた庄領は、照れ臭さに顔を赤らめた大貴をベッドに横たえた。

「さて、1時間ほど猶予をやろうか。
 その間に、私はこの傷の治療を済ませてくる。
 お前は、必要な身の回りのものをまとめるんだ。
 もちろん、アンズも忘れないように」

「──はっ? どういう意味?」

 驚いて大貴が聞き返すと、ベッドから離れた庄領は、意地の悪い表情を浮かべた。

「約束を守らなかったら、お前を力ずくで攫いに来ると言っただろう?」

「だって、それは──!?」

 ぎょっとして大貴が目を剥くと、庄領は意味深な流し目を向け、邪な微笑を口角に刻む。

「それとも、今からここでお仕置きされたいか?
 腰が立たなくなるまで責め抜いてやってもいいが……。
 いずれにせよ、お前の可愛いよがり声は、筒抜けになっているだろうな」

 平静な声で恥ずかしい事を指摘され、大貴は顔から血の気が引くのを感じた。

「……だ、だからって、どこに行くんだよ?」

「私の家に来ればいい。
 部屋は余っているし、アンズも快適な生活が送れるだろう」

 あっさりと答えた庄領は、足許にじゃれつき始めたアンズを撫でると、悠然とユニットバスに入って行った。

 シャワーの音が流れ始めると、茫然としていた大貴は、慌てて反論しに向かった。

「──勝手に決めんな! どうして俺が、あんたの家で暮らさなきゃいけないんだよ!」

 訴えながらドアを開けると、狭苦しい空間でシャワーを浴びていた庄領は、何も聞こえてないような顔でしらっと言った。

「お前も洗ってやろうか? 私のザーメンにまみれていたいなら、それでも良いが」

 視線を感じて見下ろすと、ドロドロとした二人分の精液が、胸や腹にこびりついている。

 思わず顔を真っ赤にした大貴は、庄領に腕を引かれ、バスタブの中に引きこまれていた。

 プラスチックの壁に背中を押しつけられるようにしてシャワーを浴びせられと、水流が粘液を洗い流してゆく。

「これほど狭いと色々やりづらいが、この密閉感は堪らないな」

 排水口に茫然とした視線を向けていた大貴は、庄領の逞しい体躯が押しつけられ、再びペニスに刺激が走った途端、焦って肩を押し返そうとした。

 だが、両手を頭上で押さえつけられ、股間にぐいぐいと膝頭を押しつけられると、若い欲望が再び息を吹き返す。

 庄領の手でペニスを扱かれながら、大貴が腰を揺らすようになると、上気した顔をじっくりと観察された。

「どうする、大貴? もう一度、イキたいか?」

 指の腹で亀頭を揉み込むようになぞられ、大貴は焦らされるもどかしさに喘いだ。

 答えようとすると、口をディープキスで封じられ、鼻にかかった呻き声しか出せなくなる。

「……ぅふうぅっ…んっ…ううぅッ……」

 口の中を犯され、支配されることに、これほど感じてしまうとは思わなかった。

 背筋にビリビリと電流が走り、腰が溶け落ちそうになる。

「──私の家に来るな?」

 結び合っていた唇が解かれ、耳や首筋に口づけられると、大貴は涎を滴らせながら何度もうなずいた。

「……行く……行くから……頼む、もう……イカせてくれ……うあぁ……ッ!」

 マスターベーションを覚え立ての頃のように、呆気なく欲望が加速し、沸騰する。

 狭いユニットバスにこもる自分の喘ぎ声が大きく反響すると、大貴は庄領に自身を押しつけながら、淫熱を解放した。

「……あっ…ハアッ…ん…ぅふうぅ………」

「ほら……今度は、お前の番だ」

 両腕を解放された大貴は、天を突くように硬く反り返った庄領のペニスを握らされた。

 促されるまま手を動かし、男の獣欲を煽り立てる。

 覆い被さられていた大貴は、庄領の艶めいた呻きや快楽に歪む顔を見ているうちに、自分もまた昂ぶり始めているのを感じた。

「……感じやすい躰だな」

 きざした屹立を、庄領の手が捕らえる。

 互いに刺激を与え合いながら、唇や舌を交わらせ、二人は絶頂へと駆け上っていった。