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今夜、あなたの猫になる



<35>



 思わず溜息をついた時、肛腔から反り返った硬い肉楔が引き抜かれた。

「……ぅああっ…急に……抜くなっ…て……ッ」

 内臓が裏返りそうな感覚に戦き、大貴がぶるぶると震えると、庄領は敏感になりすぎた躰を引き寄せ、今度は向かい合わせに貫いた。

「──あああぁっ……や、やめっ……お湯が…一緒に……中にッ……」

 大きく仰け反った大貴を抱き寄せ、庄領はそのまま唇を塞いだ。

 互いの舌が深く交わると、大貴はのぼせたように息を喘がせ、男の首に両手を絡めた。

「ふっ…ああっ…んっ……──嫌だっ……こ、腰が……また勝手に……動いて……」

 水の浮力に助けられるせいなのか、ソファの上よりも楽々と腰が上下に踊り始める。

 淫らに動き始めた自分自身を止めることができず、大貴は悲鳴を上げていた。

「そんなに締めつけるな……気を抜くと、出してしまいそうだ」

 溜息混じりの掠れた声が耳元に触れると、それだけで痙攣が起きそうになる。

「うっ…嘘だ……ッ……千晴は……まだ、全然……ッ!
 あ、ああっ……な、なんでっ……俺ばっかり……」

 あの恐ろしい宣言通り、限界まで精を溜めさせられ、その後絞りつくされた大貴のペニスは、ずっと半勃ちになったまま、鈴口からトロトロと雫をこぼすばかりになっていた。

 それでも後肛を男根に塞がれていると、わずかな残滓を弾けさせるほどの情炎に焼き尽くされてしまう。

 腰を深く落とした瞬間、爆ぜるような閃光に貫かれていた。

 次々に襲いかかってくる刺激に堪えようもなく、甲高い嬌声を上げてしまう。

「あううっ……んっ……あ、あっ──も、もうっ……はぁっ…んん…ッ……!」

「顔を見せてくれ──私に犯されながら、イってしまうお前のいやらしい顔を……」

 ドクドクと脈動する庄領のペニスが、さらに大きく膨れ上がったような錯覚に、大貴は惑乱して身悶えた。

 だが、何度となくその淫らな感触を味わっているのに、庄領はまだ幾度も達していない。

「ああっ…もう、イクッ……イクから……千晴も……っ」

 譫言のように大貴が口走ると、庄領は愛おしげにその顔に口づけし、誘惑の言葉を声に乗せた。

「──私が欲しいか?」

 続けざまに絶頂の波に押し上げられた大貴は、朦朧としながら顔を擦りつけ、せわしなく息を喘がせた。

「あっ、ああっ……千晴がっ……欲しい……俺の中に……もっと、来て…ッ。
──ひぃっ…あ、ああっ……ま、また…ッ!」

 熱に浮かされた言葉は淫らな欲望にまみれ、狂おしい快楽の中へと溶け落ちてゆく。

「言ってごらん……お前は、私のものだと──」

 情炎の中で紡がれる甘やかな言葉に責め苛まれ、何も考えられなかった。

「はぁっ…あ、ああっ……俺は……千晴のもの……だから…もうッ……ヒアアッ!」

 その瞬間、ずるりと大蛇がのたうち、後腔から滑り出ていった。

 その鮮烈な刺激に目を剥いた大貴は、ジャグジーバスの縁に上体を押し上げられ、背後から深々と貫かれた。

 律動が勢いを増し、湯面が大きく波立つ。

 床にしがみついていた大貴は、腰を押さえ込まれたまま突き上げられ、背中をしならせた。

「やっ…ああっ……千晴っ……激しいっ……そんなにっ…されたら……あっ……壊れるッ」

「壊れるものか……私を絞り上げて、食らおうとしてるのはお前の方だぞ」

 くくっと喉を震わせた庄領は、上から両手を重ねて指を絡ませ、大貴の耳元で呻いた。

「──お前も…イけ、大貴……私と一緒に……」

 奥深くに穿たれた瞬間、剛直が大きく脈動し、熱情を迸らせた。

 腸腔を満たしてゆく精の飛沫──降り注ぐその淫靡な快感に、大貴はガクガクと腰を跳ね上げていた。

「はあぁっ…あっ、アアァッ!」

 雷に打たれたように、瞼の裏に火花が飛び散る。

 その一瞬で一気に昇りつめ、総身が痙攣した。

 何もかもが形を失い、一つに溶け合うような恍惚の時……目眩く絶頂に息を止めていた大貴は、少しずつ感覚が戻ってくると、背中にのしかかっている男の重みと、まだ内側に残っている脈動を感じた。

「出会った時から、お前にはいつも驚かされてばかりいた。
 きっと……私をこんなに煽り立てるのは、お前だけだろうな」

 深く息を吸い込んだ庄領が、荒い呼吸を整えながら呟く。

 どことなく自嘲的な響きが混ざるのは、衝動に突き動かされるまま、交わり合う愉悦に溺れ込んでしまったからだろうか──。

「……も、もう……いいだろ……離れろよ」

 同じような照れ臭さは大貴自身も感じていて、男がまだ中に身を沈めていることに戸惑ってしまう。

 意識を飛ばしてしまってもおかしくない激しさだったが、辛うじて繋ぎとめた自我が、掠れきった声を上げさせた。

 すると庄領はふふっと笑い出し、大貴の胸を引き寄せるようにして、背後から抱き締めた。

「離れていいのか? まだお前の中は、私を欲しがって締めつけてくるぞ」

「も、もう…無理、絶対無理! 明日も学校あるんだ!
 このまま腰が立たなくなったらどうする!」

 ぷっくりと膨れたままの乳首を指先で弄んでいた庄領は、仕方ないとでも言いたげに、物憂げな溜息をついた。

「──だったら、最後に可愛く『愛してる、千晴』と言ってごらん。それで我慢してやろう」

 我が儘な暴君の言葉にぎょっとして、大貴は頬に朱を走らせた。

「……な、何、恥ずかしい事言ってんだ、バカ!」

「言えなかったら、このままだな。もう1ラウンドくらいはできるだろう?」

 はっきり言って、どこからどこまでが1ラウンドなのか、見当も付かない。

「わ、判ったよ。言えばいいんだろ、言えば!」

 半分以上自棄っぱちになりながら、大貴は啖呵を切ったが、いざとなると気恥ずかしくて、口ごもってしまった。

「……あ、あーっ……あー、愛してる…千晴」

 その途端、吹き出すようにくつくつと笑い出した庄領は、真っ赤になった大貴を強く抱き締めたまま、しばらく笑い続けていた。

「笑うな、バカ! ちゃんと言っただろうが! もう抜いてくれ!」

 だいたい、愛の言葉を囁き合うなど、男同士ではなおさら不要ではないだろうか。

 元カノの優衣にさえ、面と向かって「愛してる」と言った事はない。

 その時、ようやく笑いを収めた庄領が、大貴の身の内から強靱な肉棒を引き抜いた。

「ヒッ! ひあっ……きゅ、急に……抜くなぁっ!」

 敏感になった粘膜を擦り立てられる感触に喘ぎ、大貴が文句をぶつけると、庄領は皮肉げな微笑を浮かべた。

「抜けと言ったり、抜くなと言ったり……どうして欲しいんだ?」

「……ぬ、抜いてくれ! もう、無理だから!」

 情緒の欠片も無い赤裸々な会話だが、官能の余韻に酔いしれるような余裕は全く無い。

 しかし庄領は、ジャグジーバスから必死で這い上がろうとする大貴を腕の中に閉じ込めると、首筋や頬に口づけをしながら囁いた。

「愛してる、大貴──こうして抱き締めているだけで、私は幸せを感じていられる。
 そう思えるのは、お前だけだ」

 その途端、全身がぞくりと震え、幾重にも重なりあった恍惚に包まれた。

 恥ずかしくてたまらない言葉であるのに、何故かふわふわとした喜びを感じてしまう。

(……だ、だめだ……俺の頭も……相当イカれてる)

 愛されたいと思っていたわけではないが、庄領のその言葉はくすぐったく、そして嬉しく感じてしまって、胸の中が温かいもので満たされてゆく。

 そして何となく、頼りにされているような気分にもなって、甘やかな疼きを感じた。

(──ああ、もう……しょーがねえなあ……)

 唇が重なり合うと、何も考えられなくなり、男の広い背中にすがりついていた。

 艶めかしいキスがもたらす甘美な陶酔に溺れそうになる。

 その時ふと、頭の隅でひんやりとした閃きを感じ、大貴は恍惚となったまま溜息をついた。

(──もしかしたら、優衣は……)

 自分への愛情を確かめたくて、大貴を試していたのだろうか?

 言葉など無くとも、「好き」という気持ちは伝わると思っていたが、何も言わない大貴に、いつも不安を抱えていたのかもしれない。

 そして、本当に「好き」なら、きっと引き止めてくれると思って、だからあんな風に──?

(何か、ちょっと……可哀想な事したかもな……)

 泣きじゃくっていた優衣を想い、大貴は、彼女の言葉を真に受けた自分を反省した。

 お互いに傷つけ合って、壊れてしまった恋だったが、今ならもう少し、彼女に優しい言葉をかけられそうな気がする。

(優衣に……もう一度、会いに行こうか──)

 やり直すことはできないけれど、ちゃんと向き合うことができれば、彼女もきっと新しい恋を見つけることができる──そんな気がした。

 ところがその時、庄領が大貴の顎を強く掴んだ。

「大貴──今、誰の事を考えていたんだ?」

 どうやら、上の空になっていたのが、気づかれてしまったらしい。

 勘が鋭いのか、庄領の瞳には嫉妬の炎が浮かび上がっている。

「ちょ、ちょっと……明日の講義の……教授の事を……」

 ところが庄領は、凄艶な微笑を唇に刻み、冷ややかな眼差しを向けてきた。

「ほう……私に抱かれながら、他の男の事を考えていたのか?
 良い度胸をしているな、大貴。
 だったらその講義に、二度と出られないようにしてやろうか?」

 愕然とした大貴の太腿を持ち上げ、その狭間に庄領は懲罰の楔を押し当てた。

 じわじわと沈み込む感触に仰け反りながら、大貴は死にもの狂いで叫んだ。

「──ギッ、ギブ、ギブッ! もう、無理っ! 俺が留年したら、どーすんだよ!」

「お前の面倒は、ずっと私が見てやるから安心しろ。
 その代わり、お前はいつも私の事だけを想ってくれなければならないが……」

「む、無理です! 無理! 絶対、無理! 無理ーッ!!」

「だったら、セックスの時くらいは私に集中しろ。他の事など考えるな」

 けんもほろろに突き放し、庄領は、身悶える大貴の躰を再び征服し始めた。

 実は、この世で一番厄介な男を、自分は恋人に選んでしまったのではないだろうか?

 嫉妬深い恋人の溺愛に、翻弄される日々がしばらく続きそうな予感に襲われ、大貴はくらりと眩暈を感じた。



 後ろ手で静かにドアを閉め、フウと深い溜息をついた那波瑛吾は、足許にすりよってきた小さな動物に視線を落とした。

「──ニャアン」

 アプリコット色の瞳をきらきら輝かせながら、しなやかな体型の猫が鳴き声を上げる。

「そうか……お前も追い出されていたんだな」

 思わず唇を綻ばせていた那波は、その傍にしゃがみ込み、グルグルと喉を鳴らすアンズの頭や背中を撫でてやった。

 しばらくすると、アンズは物問いたげに首を傾げ、那波が出てきたばかりのドアを、前足でカリカリと引っ掻こうとした。

「おやめ、爪が痛むよ、アンズ。
 それに、お前のご主人は今、千晴様と交尾の真っ最中だ。
 邪魔をしたら、叱られてしまう」

 そっとアンズの小さな躰を抱き上げ、那波はドアの傍から離れた。

 アンズは大人しく腕に抱かれたまま、グルグルと上機嫌に喉を鳴らしていた。

「今夜は、俺と遊ぼうか。きっと大貴様も、お前の浮気を許してくれるだろう」

 階段を降りながら那波が提案すると、アンズは「ミャオン」と可愛らしい声で同意した。

「……確か、お前が食べられそうな物が残っていたはずだけどね」

 大貴が家を留守にしている最中、ひとりぼっちのアンズに、時々マグロの刺身の切れ端などを、こっそりあげていたのだ。

 新たな同居人となった猫との秘密を楽しむように、那波はくすくすと笑い始めた。


 人と猫が暮らす館の長い長い夜は、まだ始まったばかりだった。



─ The End ─



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