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春耀幻花


<16>



 鷹巳の指を呑み込んだ女性器は、淫らに花びらを充血させ、愛蜜を滴らせているのだろう。

 瀬織家の土蔵の中で何度となく見せつけられ、男を誘う色合いだと罵られ──かつて孝義は酷い扱いを繰り返した。

 八尋の内に存在する女性を憎むように。

 自分のことは「男」だと思っているけれど、同時に存在する異性を苛まれることに、八尋は深い悲しみを感じていた。

 芳澤は、卑劣な欲望を剥き出しにしてくるから、受け入れられなかった。

 穢され、貶められるような気がして、最後まで抵抗した。

 悲しんで、打ちひしがれている「半身」を守るために、男である自分は、芳澤を拒絶する。

 守るためには、欲望に奉仕もする。

 嫌で嫌で仕方なかったけれど、臆病で繊細な「半身」を傷つけないように、八尋は自ら盾になった。

 少しでも強くならなければ、胸の奥に隠れている小さな小さなお姫様は、悲しみと苦しみで壊れてしまうから。

 花吹雪のように逝ってしまった母のように、どこまでも儚い存在だから、絶対に守ってあげなければならないのだ。

 それなのに何故、鷹巳に触れられただけで、こんなに無力になってしまうのだろう。

(……だめ……このままじゃ……僕が──)

 孝義や、芳澤を相手にしていた時には決して崩れることがなかったのに、このままでは「八尋」が消えてしまう。

 ずっと守り続けてきた、胸の奥深くに秘めた核心にまで、鷹巳の侵蝕を許してしまう。

(……逃げ…なきゃ……鷹巳の手の届かない、どこかへ……)

 朦朧とする頭の隅でそう思うのに、快感に翻弄される八尋の躰は、鷹巳の腕に捕らわれ続けることを望むかのように言うことを聞いてくれない。

「あ……うっ…ううぅ……くう…んっ──」

 戒められて過敏になっている男根には触れず、柔らかな花弁の縁を上から下へ、右から左へと微風のように、鷹巳の爪先が撫でていく。

 時々、忘れていた存在を思い出すように肉茎を握られ、紐で結わえられたまま尖端を擦られる。

 キスは絶え間なく降り注ぎ、八尋は夢中になって鷹巳の口を貪っていた。

 溢れ出した唾液が滴り、唇や顎を汚していたけれど、ただただ快楽に溺れてしまう。

(……だめ……早く、逃げ、なきゃ──)

 甘美な愉悦に溶けていく意思を必死に掻き集め、八尋は頭を振りたくって口づけから逃れた。

 勢い余って前のめりに布団に倒れ込むと、後ろ手に縛られたまま、這いずるようにして鷹巳から離れる。

 よろめく足に力を込めて立ち上がり、今にも八尋を捕えようと伸ばされる手を振り切るようにして、目の前の襖に向かって駆け寄った。

 水琴亭から逃げて、母屋にいる咲耶に助けを求めたら……助けて、もらえるだろうか──

 大好きになったのに……どうしようもなく怖くて仕方がない、鷹巳の手から……。

 だが、腰に力が入らず、すぐに足が絡まり、躰がふらついてしまう。

 視界が大きく揺れ動き、眩暈を感じた瞬間、八尋の腰に力強い腕が絡みついてきた。

(──いやあっ!)

 逃れようと身をよじった拍子に、勢いよく襖にぶつかり、敷居からガタンと外れた白い壁が真上に倒れかかってくる。

 反射的に目を閉じていた八尋は、いつまでたっても痛みが襲ってこないことを不思議に思い、そろそろと瞼を開いた。

(……お…お、おうみ……?)

 八尋をかばうように覆いかぶさる、大きな黒い影。

 大きく目を見開いた八尋は、息を呑みこみ、薄く開かれたままの唇をわななかせた。

 射抜くような眼差しで八尋を見すえた鷹巳は、背中に倒れてきた襖をわずらわしげに片手で押しやる。

 冷たく冴々としていた蒼瞳が、光を反射したようにぎらりと輝いたように感じ、あられもない姿で倒れたまま八尋は身動きができなかった。

「私の花嫁は、思っていた以上に聞き分けのないじゃじゃ馬だったらしい。
 大人しくしていろと、言っただろう?
 だが……私の欲情を煽るつもりだったのなら、褒めてやろう。
 おまえが逃れようとするほど、私はおまえを捕えて、骨の髄まで喰らいつくしたくなる」

 八尋を見下ろした鷹巳は、人にしては美しすぎる双眸を細め、残酷な微笑を浮かべた。

 この瞬間まで、鷹巳の欲望はどことなく茫洋としていて、自身の欲求を遂げるよりも、八尋の反応を冷淡に観察しているような気配があった。

 けれど今は、貪欲に八尋を求め、原始的な本能に身を委ねようとしている。

 おののく八尋の顎をすくいあげた鷹巳は、唇に吐息を吹きかけるようにして囁いた。

「どこまでも私を拒むのなら、仕方がない。
 嫌と言えなくなるまで、狂わしてやる。
 ひとたび私を受け入れたなら、たとえおまえが望まなくとも、この躰は私を待ちわびるようになるだろう」

 観察者が、捕食者に変わる──その変貌を感じ、八尋の全身に震えが走った。



『 ……いやぁっ……いかせて……もう、いかせて……許して──ッ!』

 逃れた時と同じ形に捕らわれ、愛撫が途絶えた刻など無かったかのように執拗に嬲られる。

 狂おしく甘美な拷問にさらされる全身から汗が噴き出し、八尋は溶けてしまいそうなほどの熱に冒されていた。

「まだ堪えろ。限界まで張り詰めれば、その分遠くまでゆけるだろう」

 情欲に染まりきらないひんやりとした声音が耳元に落ち、耳の穴に濡れた舌が差し込まれる。

 八尋の躰は炎に包まれ熱くなっているというのに、鷹巳は楽器を爪弾くように、淫らに愉悦を操り、踊らせてゆく。

『も、もう……ひどいこと……しないで……』

 鷹巳はどこまでも冷酷な支配者で、敏感になりすぎた八尋の躰に、快楽という名の懲罰を与えているのだ。

 拒んでも、受け入れても、逃れることができない底無しの淵に、八尋は絡めとられたまま抜け出せなかった。

「気持ち悦いだろう? おまえのはしたない花から、淫らな蜜が尻の方にまで滴って、びしょびしょに濡れている。
 甘い香りが漂っているのが判るか?」

 つっと花びらを撫でていた鷹巳の指先が、先ほどよりも鮮やかに色づいた花芯に沈む。

 くちゅくちゅと淫らな音を立てながら、鷹巳の指が八尋の中で蠢き始めた。

「ああっ……いっ…あっ…ああぁ……あうぅ…ッ」

 喉から絞り出せるだけの声を出し、獣のように喘いでいると、八尋の目の前に銀色の雫をまとう指先が翳される。

 はっとして顔を背けたが、すぐに唇をこじ開けられてしまい、濡れた指先が戸惑っている舌先をそっと摘み上げた。

「舐めろ、八尋──甘い葡萄の薫りがするだろう?」

 耳元で淫猥に囁かれ、官能的な響きに酔わされたように、八尋は鷹巳の指を懸命に舐め始めた。

 敏感な上顎の奥を指の腹でなぞられ、閉ざす事のできない唇から、透明な雫が糸を引いて流れ落ちてゆく。

 守るべきものの存在は、すでに頭から抜け落ちていて、八尋は無意識に腰を揺らめかせていた。

「あふっ……ああ…んっ…ふっ……ううぅ……」

 指をしゃぶりながら、苦悶と快楽の入り混ざった呻きが途切れる事なく流れると、鷹巳が端整な唇を寄せてくる。

 引き抜かれた指先が、もう一度花裂を貫き、さらに上品な形を保つ後ろの秘蕾を撫でる。

 二つの淫花を交互に愛撫されながら、深い口づけを与えられた。

 ぴちゃぴちゃと絡み合う舌と、ぐちゅぐちゅと花唇を出入りする指。

 互いの口の間にこぼれる荒い吐息が作り出す和音が混ざり合い、官能的なメロディとなって淫靡な空間に響く。

「八尋……いい子だ──もっと足を上げろ」

 はあっと大きく息を吐いた鷹巳が、濡れた八尋の唇を軽く吸い、真っ白な内股を掌で撫で上げた。

 桜の花びら……もしくは鱗の連なる痣を撫でられると、性器に触れられずとも極まってしまいそうになり、八尋は腰を振り乱した。

 膝裏に滑り込んだ逞しい腕が、Mの形に恥ずかしいほど大きく足を開かせ、八尋の腰を浮かせる。

 自分の躰を支えられなくなり、鷹巳にもたれかかった八尋は、次の瞬間、信じられないほど大きな衝撃を感じ、尖った悲鳴を上げていた。

「ひいっ…ひいいーっ……いっ…あっ、あっ……ひうぅっ!」

「まだ…狭いな──」

 低く呻いた鷹巳は、征服される痛みに泣きじゃくる八尋の唇を捕らえ、慰めのキスを繰り返した。

「泣くな……じきに馴染んで、悦くなってくる」

 一度身を引いた鷹巳は、八尋の手を縛る兵児帯を素早く解くと、そのまま布団の上に仰向けに押し倒した。