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春耀幻花


<17>



 力の抜けた八尋の両脚を肩に担ぐと、上体を前に屈して、鷹巳が覆いかぶさってくる。

 腰が浮き上がり、くの字に折り曲げられた自分の躰を、八尋は涙の滲む視界の中に認めた。

 飾りのようにひらめく腰紐に結わえられた幼い男根が、腹部に当たって悲鳴を上げる。

 だが、その向こうに見える、赤黒く、太い肉の楔は──。

 鷹巳のそれは、硬く太くそそり立ち、幹の部分には血管がのたうつ蛇のように浮き立っていた。

 ずっと「男の子」だと母親に言われ続けてきた八尋のものとも、勃つことの無かった孝義のものともまるで違う。

 芳澤以上の量感に愕然として、八尋はその凶器から目が離せなくなった。

 隆々と力を滾らせた肉杭が自分を穿ち、内奥へと収められるのだと悟った瞬間、慄いて喉がひくりと喘ぐ。

「……ぅああっ……あっ…ああっ……」

 鷹巳の剛直が突き入れられる様を、八尋は信じられない思いで見つめていた。

 恥ずかしくてたまらないのに、深々と繋がり合う性器から目が逸らせない。

 大き過ぎて、苦しくて、内側から弾けてしまいそうだったが、鷹巳が、自分の中にいる。

 ほとんど身動きもせずに貫かれているだけなのに、躰の内側に鷹巳の力強い脈動を感じてしまい混乱する。

 孝義が使った性具では、空虚な異物感だけで、溶かされてしまいそうな熱は感じたことがなかった。

「……まだ、痛いか?」

 欲情に掠れた低い囁きはぞくぞくするほど艶冶で、下腹や背筋が淫靡にざわめく。

 強引に抱きながらも、八尋の限界を見定めているような鷹巳の抑制が、返って怖くなった。

 理性の箍が外れてしまった時、受け止めきれないのではないかと思うから。

 内から炙られる熱に酩酊したように瞼が重くなり、八尋はゆるく瞬きながら、小さくかぶりを振る.。

 朦朧として鷹巳を見上げると、怜悧な蒼瞳が鬼火を宿し、妖しく輝いている。

 人にしては美しすぎる双眸を細めた鷹巳は、八尋の顎をつかんで唇を重ね合わせた。

「んふぅっ……ふぅっ……んっ……」

 別の生き物のように絡み合う舌の間で、荒い息と唾液が混ざり合い、ぴちゃぴちゃと水音を立てる。

 見計らったように鷹巳が律動を刻み始めると、ひとつに結びついた場所からも、淫らな音が止めどなく流れ始めた。

「今夜から、お前を抱くのは私だけだ。
 痛みも快感も、私が与える感覚だけを、この躰に刻み込んでおけ」

 耳朶に唇をつけて囁いた鷹巳は、己の存在を主張するように、根元まで突き刺した屹立を引き抜いてゆく。

 隘路を圧する剛直がずるりと内襞を削ぎ、身震いするような喪失が生まれた。

 すぐに押し入ってきた鷹巳の熱を感じて、八尋の躰は足先まで震える。

 しゅっと八尋の男根を戒めていた紐が解かれ、内側から突き上げられると、燃えるような快感が全身を貫いた。

「ああーっ、あっ…あっ……あうっ…ああっ……ああぁーっ」

 膨れ上がった肉茎がびくびくと脈動し、押しとどめられていた何かが、出口を求めて噴出してくる。

 狂おしい愉悦の溜まりをさらに中から刺激されれば、羞恥や理性などは散り散りになってしまう。

 大きな波に呑み込まれ、悲壮ですらある八尋の嬌声が空気を切り裂いた。

 断続的に放たれたわずかな白蜜が、汗にまみれた胸元にぱたぱたと降り注ぐ。

 続けざまに極まった八尋は、しかし赦しを授けられることはなく、鷹巳を深々と受け入れたまま前後に揺さぶられた。

 花弁の間から流れ出る白く泡立った樹液が、禍々しい赤銅の肉柱を伝って滴り落ちてゆく。

 鷹巳が、躰の中にいる。

 どくどくと脈動する男根と八尋は結ばれ、鷹巳とひとつになっている。

「今夜は、寝かせない。私の花嫁になるのだから、誰よりも淫らに乱れてしまえ」

 責め嬲る淫靡な言葉すら、鷹巳の声なら快感に変わるのか──。

 繰り返し秘裂を穿つ逞しい男根が、いつしか自分の一部になってしまったような錯覚に陥り、八尋は甘美な陶酔に堕ちた。

 鷹巳は八尋の首筋に口づけを落とすと、敏感な皮膚を何度も吸い上げながら、不意に鋭い八重歯を立てた。

 食い込む歯が牙のようだと知覚しながらも、八尋の意識は悦楽の中に溶ける。

 牙が、さらに深く、深く突き刺さる。

「──ひぃ……ぃうぅッ!」

 血管が焼けるような痛みが全身を駆け抜け、大きく仰け反った八尋の躰を、爆発的な快感がとぐろとなって巻き付いた。

「くっ……おまえも……達け、八尋……ッ」

 脈動する怒張を八尋の最奥に打ちつけた鷹巳は、きつく眉根を寄せ、何かを押し止めているように歯を食いしばって動きを止める。

 放たれた白濁が、灼熱の奔流となって八尋の芯を叩く。

「……ぅあぁッ……ハアァッ!」

 刹那、頭の芯が痺れ、瞼の裏で白い閃光が弾けた。




 目覚めに近いまどろみの中で、ひそひそと人の話し声が聞こえた。

 咲耶の声と……聞き覚えのない女の人の声。どっしりと落ち着いた壮年らしき男の声。

 もうひとり、ハスキーな低音で言葉少なに喋る男の声。

「水琴亭のことは僕がやるから、大丈夫ですよ。
 そんなに心配しなくていいから……」

「心配するに決まってるでしょう。
 鷹巳さんにも困ったものね。私にも少しくらい相談してくれてもいいのに」

「そんなに拗ねるな。鷹巳の勝手は、今に始まったことじゃない」

「──会長。そろそろ時間です」

 足音と声が遠ざかり、カラカラと玄関の扉が開いて、また閉じる。

 うっすらと瞼を開けた八尋は、人の気配が近くにないことを感じとると、だるさに抗うように上半身を起き上がらせた。

 誰かが、水琴亭を訪れていたのだろう。

 挨拶できるような状態ではなかったが、失礼をしてしまったのかもしれない。

 玄関から戻ってきた咲耶が静かに襖を開けると、ぱっと視線がぶつかり、八尋はとっさに襟元を気にしながら「おはようございます」と頭を下げた。

 あまり寝乱れてはいなかったが、情交の余韻が身の内に色濃く残っていて、咲耶に気づかれるのではないかと心拍数が上がった。

 鷹巳の姿は見えないが、夜に何があったのかは、きっと咲耶に悟られてしまうだろう。

 澱んだ寝室の空気が、八尋を貪った鷹巳の気配を記憶していて、今も全身に絡みついてくるように感じられた。

「ああ、ごめんね。起こしちゃったかな。
 お節介な人たちを追い払ったところだったんだ。
 姫は、もっとゆっくり寝ててもいいんだよ。それとも、お腹が空いた?」

 空腹よりも気怠さが勝り、八尋は首を横に振った。

 何となく、いつもより躰が熱く火照っていて、頭がぼうっと霞んでいる。

 鷹巳は宣告通り、限界まで八尋を嬲り、狂わせた。

 記憶が途切れ、浮上し、また途切れ……最後は啜りながら鷹巳にすがりつき、声にならない声で「許して」と哀願し続けていた。

 乱暴ではなかったけれど、鷹巳は時間をかけて八尋の躰を暴き、自分の欲望に添うように調律し直してしまったのだ。

 たった一晩のうちに、鷹巳は、八尋の躰に残っていた孝義や芳澤の残滓を消し去ってしまった。

 次に抱かれたなら、二人を思い出したり、比べたりすることすらできないだろう。

 そのくらい、鷹巳の存在は圧倒的で、受け入れた八尋の躰の隅々にまで刻み込まれてしまった。

 ぼんやりと宙を見つめていると、いつの間にか隣に座った咲耶がすっと手を伸ばし、八尋の額に触れた。

「熱があるね。鷹巳さんが心配していた通りになってるけど、まあ、噛まれたんじゃ仕方ないね」

 咲耶の言葉を訝しみながら、八尋は思わず首筋に手をやっていた。

 訳知り顔で咲耶が微笑んでいる。

 鷹巳に貫かれ、浅ましく乱れる自分の痴態を見透かされているような気分に陥り、八尋はうなじを押さえたまま、顔を紅潮させた。

「噛まれた所、見せてごらん。
 初めてだから、特に辛いと思うけど、今日はゆっくり眠った方がいい。
 一週間もすれば慣れてくるだろうから」

 優しく気遣う咲耶の手が、首を覆っていた黒髪をさらりと反対側に寄せ、疼いたように熱いうなじを露わにさせる。

 気恥ずかしさに躊躇いながらも、促されて手を離した八尋は、自分では見えない首筋を咲耶の目にさらした。

「ああ……牙の痕が綺麗に四つ。しっかり噛まれちゃったね。
 マーキングそのものだ。
 これは自分のものだって、あからさまに主張してる」

 咲耶はくすくすと笑いながら、奇妙なほど疼き続ける首筋のその部分を撫でる。

 その刹那、全身にびりっと電流が走り、驚いた八尋は飛び上がりそうになった。