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春耀幻花


<29>



 あの頃は、苦痛に耐え忍んでいる自分が確かにいたのに、今は何もかもがドロドロに溶けて、鷹巳の指先ひとつ、囁きひとつで変わってしまいそうな気がする。

『……許して……謝るから……もう、許して――』

 崩れゆく自分自身が怖くなり、ぼろぼろと涙が溢れ出す。

 だが、哀願する八尋に対して、鷹巳はひどく残酷な目を向けて嗤った。

「そう簡単に許されると思うな。仕置きはまだこれからだぞ。
 私以外の者に、この躰を触れさせることは許さないと前もって言いつけたはずだが、お前はすっかり忘れていたようだ。
 二度と忘れられぬよう、今夜はお前の記憶と躰に刻み直すとしよう」

 八尋が震える唇を噛むと、鷹巳は顔を寄せて口づけを与え、ちろりと舌先で結び目を舐める。

 身を強張らせる八尋を残して鷹巳は立ち上がると、隣室のテーブルに置かれている黄金の箱を手にして戻ってきた。

「土産が欲しいと言っていただろう?
 お前のために、いろいろと誂えさせた。気に入ればいいがな」

 見たことの無い豪華な宝石箱の表面は、金細工でアラベスク文様が貼られ、黄金の隙間に真珠の光沢を放つ螺鈿の鳥が埋め込まれている。

 精緻な工芸品のような箱の中には、赤いビロードの引き出しがついていた。

 台座には、ウズラ卵くらいの大きさがある見事なバロック真珠のイヤリングが二対。

 その二対は何故か、全く同じデザインで作られている。

 次の段には、小粒の真珠がレースのように連なった首飾り。

 三段目には、三日月の形に広がった金細工に真珠や宝石を散りばめた簪が収められていた。

 豪華な装身具の数々に驚く八尋の目の前で、鷹巳は三段に重なった引き出しを外す。

 すると、箱の一角から香水瓶のような金色の壺が出てきた。

「これは、エル・ラサルの王族が、ハレムに入るうら若き新妻のために用意した痛み止めだそうだ。
 これを使えば、どれほど未熟な姫でも破瓜の痛みを忘れ、たちどころに性の快楽を愉しむようになるらしい」

 壺の蓋を開け、とろりとした蜂蜜色の液体を指ですくい上げた鷹巳は、それを八尋の両乳首に塗りつける。

「痛み止め」と聞いて安堵したのも束の間、ひんやりとした塗り薬が淫らな熱を生み出し始めると、八尋は怖くなって躰をひねろうとした。

 そんな八尋の肩を鷹巳は軽く押し、勢いで仰向けになった躰を転がしてうつ伏せに返させる。

 手足が使えず、ごろんとひっくり返った八尋は、尻を突き出すような格好になっていることに気づき、喉を喘がせた。

「安心しろ。仕置きだとは言ったが、お前に痛い思いをさせるつもりはない。
 そら……ここにも塗ってやろう」

 薄ピンクの下着が引き下ろされ、双丘が露わになる。

 剥き出しにされた後蕾に、たらりといかがわしい媚薬が落とされ、鷹巳の指がさらに内へ内へと塗りこめた。

 さあっと鳥肌が立ったが、粘液にぬめる指先は浅く、深く刺し込まれ、官能を刺激する。

「あっ…ん、んんっ……くうっ……」

 繰り返し沈み込む卑猥な感触に、八尋の口から濡れた喘ぎがこぼれた。

(……ダメ……お尻は、ダメなのに――)

 不浄の場所であるはずなのに、鷹巳にいじくられていると、恥辱をまとった快感が全身を灼く。

 長い指が秘蕾の奥を掻き回すたび、グチュッ…グチュッ……と凄まじい羞恥を呼び起こす音色が響いた。

 愛撫をねだるように下肢を掲げた体勢のまま、たまりかねて腰を乱すと、鷹巳がパンと平手で尻を叩く。

「はしたないぞ。じっとしていろ」

 突然、打たれた衝撃が大きな玉となって、性器の内奥で弾けた。

 快感に突き上げられ、びくりと背筋を震わせた八尋は、妖しい熱に冒されたようになり、荒い息をハアハアと吐き出した。

 悦楽の絶頂はすぐそこまで来ていて、あと少しで昇りつめてしまう。

「ああっ…ああーッ……あううぅ……くう…んっ!」

 鷹巳の指が根元まで突き入れられ、円を描くように回されると、呆気ないほどたやすく爛れた法悦に達していた。

「これしきで悦んでいては、罰にならないだろう。もっと耐えてみせろ」

 ひやりと冷たい声に、恥辱が煽られる。

 あられもなく蕩ける唇を八尋が必死になって引き結ぶと、後孔から指を抜いた鷹巳は、下着を元に戻して、新たな赤縄を掛け始めた。

 胸に巻かれた縄にくぐらせ、二重になった細めの縄が、八尋の肉茎を左右から挟み、花弁の間を通る。

 結んで作られた瘤が秘唇と後蕾に嵌めこまれると、淫らな縄は背中へと回された。

「私は風呂に入ってくる。お前はここでしばらく、反省をしていろ」

 鴨井と欄間の間に赤縄を通し、肩と膝が辛うじて床につく程度にぶら下げられてしまうと、八尋は尖った悲鳴を上げそうになった。

『……待って……鷹巳、行かないで!』

 音の出ない笛を吹き鳴らすように、死にもの狂いで声を絞る。

 苦しさに身じろぐたびに、股間が刺激されてしまうのだ。

 媚薬の効果なのか、痛みは感じないが、燃えるように皮膚が疼いて、動かずにはいられない。

 こんな状態で放り出されてしまうのは、拷問に近い――否、そもそもこれは、懲罰だった。

 その証拠に、薬を塗られた乳首や肛孔に、小さな虫がぷつぷつと現れ、うようよと数を増やしながら這い回って、八尋の性感を刺激し始める。

 粘膜から躰の奥へ忍び込むように、蠢いている。

「……ひいぃっ……きひっ…ぃあぁっー!」

 喉を弓なりに反らして、戒められた躰を限界までのたうたせて、八尋は叫び続けた。



 罰を与える鷹巳の優しさは見せかけで、とんでもない残酷性を秘めていたのだと痛感させられた頃には、荒れ狂う欲情に引き裂かれていた。

 布団に顔を押し付けて朦朧と両目を見開き、半開きの口の端からたらたらと涎が滴る。

 声なき声で叫ぶこともできなくなり、新たな絶頂の波に襲われるたびに、本能的な呻きがこぼれるだけになっていた。

 双眸から涙が止めどなく流れ、全身は噴き出した汗でぐっしょりと濡れている。

「……あ、ああ……はぁあっ……」

 膝をつき、爪先を立てて腰を高く突き上げていないと、縄の瘤が秘所に食い込んでくるのだ。

 力尽きて頽れそうになると、その強烈な責め苦に意識を揺さぶられ、ふらつきながら尻を持ち上げる。

 いったい、いつになったら鷹巳は戻ってくるのだろう?

 早く風呂から上がって、この甘苦しい緊縛から解放して、どろどろに蕩けた秘蕾を指や男根で掻き乱して欲しい。

 ジンジンと熱をはらんで尖った乳首を、きつく摘まんで、揺さぶって欲しい。

 理性が崩れると、それしか考えられなくなる。

 静かな足音が聞こえ、襖がすっと開かれると、八尋は涙で汚れた顔をもたげ、白い浴衣をまとう鷹巳を見上げた。

「ア…ああっ……ああぁ……」

 ――これも、夢だろうか? 狂いかけた思考が紡ぎ出した、甘美なる淫夢。

 だが、たとえ夢でも構わない……この苦しみから、一刻も早く逃れられるのなら――。

『……ごめんなさい……もう、許して……ごめんなさい。
 二度と……誰にも……触られないようにするから……』

 むせび泣き、躰を小刻みに揺すりながら訴えると、鷹巳が鴨井から股間に繋がる縄を外した。

「少しは堪えたか?
 今後、他の男にこの肌を許すようなことがあれば、もっと長く吊るしておくぞ」

『もう…しない……誰ともしないから……許して……』

 両脚の緊縛も解かれ、足が伸ばせるようになると、八尋は鷹巳の広い胸に顔を押しつけて身も世もなくすすり泣いた。

 あやすように髪を撫でられ、眦や頬に口づけが降ってくると、苦悩にふわふわとした浮遊感が入り混ざる。

「せっかく買ってもらった下着が、ぐちゃぐちゃになっているな」

 くくっと喉を震わせ、八尋から脱がせたショーツを部屋の隅に放り出した鷹巳は、宝石箱の中から大粒の真珠がぶらさがったイヤリングを一対取り出した。

 どうして同じ物が二つもあるのだろうと、ふと疑問に思った片方を――。

「替わりに、これで飾ってやろう。きっとお前によく似合う」

 布団に仰向けになった鷹巳は、後ろ手に固めた束縛だけを残して八尋を自らの上に跨らせた。

「さあ、腰を落として、お前の中に私を挿れろ。
 お前の奉仕で私を達かせることができたら、今夜はもう許してやる」

 ようやく、ふしだらな我が身を貫かれ、解放される。

 膝立ちのまま躰をずらした八尋は、すでに硬く反り返った鷹巳の屹立に唇をつけ、舌を這わせた。

 強いられたわけでもないのに、これが欲しくて仕方がない。

 うっとりと目元に朱を走らせ、唾液に潤んだ唇に咥え込むと、低く呻いた鷹巳がわずかに身じろいだ。

(……気持ちいい…のかな?)

 澱んだ理性の中で呟きがこだますると、奉仕する喜びに肉体がわななく。

 両手を使えず、膝立ちのまま顔を上下させて剛直を扱いた八尋は、ハアハアと息を乱しながら前に出た。