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春耀幻花


<30>



 よろめいて倒れ込んでも、鷹巳は助けてくれない。

 縛られた躰を自力で支えた八尋は、喘ぎながら股の下を覗き込み、二人が結びつく場所を探す。

 今の自分は、どんな顔をしているのだろう?

 ひどく物欲しげで、欲情しきった浅ましい姿を、鷹巳はきっと冷たく醒めた目で眺めているのだろう。

「……はあっ…あ、ああっ」

 昂った自身の肉茎が、鷹巳の熱い欲望と触れ合うと、たちまち快美な刺激が全身に広がる。

 胸を反り返らせ、茫洋と霞む瞳を天井に向けたまま腰を蠢かせ続けて、自慰にも似た快感を味わう。

 大腿に滴るほど溢れた淫蜜でぬちゃぬちゃと滑り、花芯に挟み込んだ猛々しい楔は、どこまでも八尋を陶酔させた。

 だが、性器を擦り合わせるだけではもはや疼きは止まらない。

 腰を浮かせて自ら結び目に合わせた八尋は、鷹巳の屹立をさらに奥深くへ沈めようと試みた。

 二度、三度と的を外してしまい、泣きそうになっていると、低く呻いた鷹巳が両手で介添え、ようやく導いてくれる。

「あっ……はああぁ……」

 苦痛はなく、とろけるような快感が刻まれ、八尋の唇から甘い喘ぎがあふれ出した。

「よくできたな。まずは褒美をやろう」

 八尋の胸に手を這わせた鷹巳は、赤く色づいて尖った乳首をさらにきつく摘み出すと、大粒の真珠と金細工の飾りをパチンと嵌める。

「ひいっ…ああっ!」

 小さな棘状のクリップになった真珠の飾りは、イヤリングではなく、裸体を苛む性具であったらしい。

 金属の突起が食い込んだ乳首は、真珠が揺れるたびに、掻き毟られるような淫靡な刺激にさらされた。

「もうひとつ残っている」

 きゅうっと絞り上げたもう一方にも同じ飾りを装着させると、鷹巳は満足したように、繊細な金細工の上から乳首を撫で回した。

「……いっ…ああっ、あっ、ああっ」

 ツキツキとした疼痛が走るたび、乳首から秘芯に痺れが走って、じっとしていられない。

 身をよじると、垂れ下がったバロック真珠が振り子のように揺れ、さらには媚肉を穿つ剛直にまで責め苛まれて、どんどん切なくなる。

「これと同じイヤリングで装うたびに、お前はこれの快感を思い出して濡れるだろう。
 さあ、八尋……動くんだ」

 残酷な鷹巳の言葉に、紫黒の瞳が潤む。

 懲罰は終わっていない。

 許してもらうためには、鷹巳を限界まで高まらせ、射精に導かなければならないが――その前に、自分がどうなってしまうのか、怖くなった。



「……ぅあっ…あっ……はああぁっ」

 羞恥も忘れ、八尋は懸命になって腰を振り、己を抉る鷹巳の快感を煽り立てた。

 汗にまみれ、太腿に貼りついている浴衣の柄をぼんやりと眺め、自分は羽翅(はね)を奪われた蝶のようだとふと思う。

 蜘蛛の糸に絡め取られて、もがきながら、食べられるのを待っているのだ。

 あるいは、長い大蛇に絡みつかれた、哀れな仔ウサギだろうか。

 解放されるのは、捕食者が満足した時だけ――そうして八尋自身もまた、死にも似た法悦が弾ける一瞬を待ち望んでいる。

 何度となく絶頂に達し、全身を息ませて痙攣すると、内に沈む剛直を無意識に引き絞ってしまい、雄々しい脈動をまざまざと味わった。

 だが、苦し気に顔を歪めた鷹巳が、八尋の腰骨あたりをつかみ、下から勢いよく突き上げ始めると、淡い思考の靄さえも飛び散ってゆく。

「……ひああっ…あっ、アッ……あああっ!」

 どろりとした欲望の飛沫が、ドクドクと秘奥に浴びせられる。

 びくびくと脈打つ男根の蠢きにさえ極まってしまい、大きく口を開けた八尋は、宙を仰いで打ち震えた。

「誰にでも足を開き、体を許すのは、娼婦と同じだ。
 お前は、私のためだけに舞う蝶になれ」

 息を整え、八尋から離れた鷹巳が、胸や両腕を縛っていた縄と腰紐をゆるめていく。

 力無く布団に突っ伏した八尋は、不意に切なさを感じて涙をこぼし、小さくうなずいた。

 お前が愛おしいと囁いて、しっかりと抱き締めていて欲しい。

 そうすれば躰だけでなく、心までも満たされて、こんな風に寂しさを感じず、幸せの余韻に浸れるだろうから。

 けれどそれは、叶わぬ夢なのかもしれない。

 鷹巳が八尋に望んでいるのは、甘やかに愛し合う恋人ではないのだ。

 ――鷹巳の心は凍っている。

 咲耶が放った言葉が、やるせない実感を伴って胸に突き刺さってきた。

「八尋。もう一度、風呂に入るぞ。汗まみれのまま眠りたくはないだろう?」

 ぐったりとした八尋を腕の中に抱き寄せ、乳首を噛む真珠を外しながら、鷹巳が耳元で笑う。

 悪戯を思いついた指先が、ぷっくりと赤く腫れた左右の突起をいじると、八尋は広い胸に顔をこすりつけてイヤイヤと顔を振った。

(ああ……でも。それでも……ぼくは――)

 飴と鞭とを使い分けるかのような手管に翻弄され、被虐の悦楽に狂っても。

 人形のように従順に躰を差し出す、ただの愛玩物としか見なされていなくても――。

 いつの間にか、苦しいほど求めている……祇堂鷹巳という高貴で傲慢な支配者を。

 だからこそ、彼の気を惹くために繰り広げる浅ましい痴態を、本当は見て欲しくない。

 ようやく仕置きが終わったと安堵しても、エル・ラサルの塗り薬を浸み込ませた後蕾はズクズクと淫らに疼き、おぞましい不満を募らせている。

 犯して欲しいのは、前ではなく、後ろの方だから、躰の悲鳴が止まらない。

 肉筒の中でぞろぞろと蠢き、膨らんでゆく見えない虫を、鷹巳の肉棒でめちゃくちゃに掻き出してほしいのだ。

 口に出すのは恥ずかしくて、死んでしまいたいとさえ思えるのに……。 

『して……もっと、して……鷹巳』

 責め苛まれる心とは裏腹に、昂りをもてあました躰をすり寄せながら、欲情に潤んだ瞳で鷹巳を見上げる。

 逞しい首根に両手を絡め、吐息とともに囁くと、八尋は鷹巳の前で再び四つん這いになり、浴衣の裾をまくって尻を突き出した。

『ここにも、挿れて……もう、我慢できないから……』

 自ら双丘を左右に割り、狭間で淫らにひくついている秘蕾に指を這わせる。

 つぷりと指先を突き入れると、媚薬によって柔らかく綻んでいた後肛は、待ちわびたように爛れた快感を生み出した。

よく私を誘えたな。もう少し責めなければ、根を上げないかと思ったが」

 媚薬に蝕まれないようにするためにか、男根にコンドームを付けた鷹巳が、ほどなくのしかかってくる。

 太く、逞しい肉幹に淫蜜を塗りつけ、鷹巳はぶるりと震えた八尋の首筋に背後から口づけた。

「ゆっくり息を吐いて、力を抜け。今夜はこちらの花も咲かせてやる」

 交尾を急ぐ獣のように、八尋のウエストをつかんだ鷹巳は、慎重に様子をうかがいながらも、力強く腰を押し進めた。

 入るはずもないと感じていた太い剛直に突き刺され、じわじわと小刻みに揺すられる。

 肛虐の責めを待ちわびていた肉筒が奥まで広げられると、手足の指先まで快感が弾けた。

「……ぅああっ…あっ……はあぁっ」

 身を守るように両腕を胸の下に縮こまらせても、頭と肩とで支える躰は下半身を高く捧げ、鷹巳の餌食になっている。

 出し入れをされるたびに形を変える肉環は、擦られて鮮やかな快美感を放ち、八尋を禁忌の愉悦に突き落とした。

『……やあっ…ダメ、動いちゃだめぇっ……ひぃっ……動いちゃ、いやあぁ』

 敏感な一点を繰り返し擦られると、触れられてもいないのに、八尋の幼茎が白蜜を放つ。

 目も眩む絶頂に全身を震わせながら、それでもなお続く律動にまた極まってしまい、終わりの見えない悦楽にただただ狂った。

「……イキっぱなしだな」

 密やかな嗤いに、躰が融ける。

 ひっきりなしに喘ぐ口に、背後から顔を寄せた鷹巳が舌を差し入れ、溢れる唾液をぴちゃぴちゃと舐める。

 わけもわからずに舌を伸ばし、絡め合わせながら、八尋は自身を穿つ鷹巳の脈動を強く感じて恍惚となっていた。

「お前を抱いていると……生きている実感が湧く。
 泣き濡れたこの顔を見ているだけで、血がたぎって、何もかも忘れそうだ」

 涙と涎で汚れた八尋の顔にキスをして、荒い息をこぼしながら囁いた鷹巳は、のけぞった白い首筋に顔をつけ、歯の尖を立てる。

「エル・ラサルで、お前の、夢を見た。
 眠るお前を犯して、こうして、お前をまた噛んでやりたいと思っていた。
 そうすれば、お前は私から、逃れられない」

 鋭い牙が、八尋の皮膚を裂き、肉まで貫いた。

「ひぃうぅっ……あ、ひっ……ああああぁっ!」

 強く噛みついたまま、ひときわ激しい突き上げで八尋を叫ばせ、ぐぐっと反り返った細い躰を締めつけるように鷹巳は両腕を絡みつける。

 日頃、どこまでも典雅で、隙の無い冷徹さを見せつける鷹巳では考えられないほど、荒々しく野性的な動き。

 八尋を嬲る余裕を失い、自身の欲望を露わにして、熱く汗ばんだ逞しい肉体を打ちつけてくる。

 操られたように八尋の躰がガクガクと震え、たまらず喉を振り絞っていた。

 噴き出した汗が全身を濡らし、長い黒髪が顔や喉にへばりつく。

 被虐の快感に惑乱し、自制心を全て砕かれて、八尋は肛姦の昏い倒錯に堕ちていった。