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<15>



 煌々と光が降り注ぐ明るい部屋の中で、大きく両足を広げられていた悠利は、顔を背けたまま耐えるように目を閉じていた。

 だが、己の全てを暴かれ、視られていると思うと、すぐに羞恥に耐えられなくなる。

「……消して──お願い、明かりを消して……」

 銀色のリングを嵌め込まれたままそそり立った肉茎と、白い光沢を放つ疑似真珠を連ねたバイブレーターに犯される秘蕾──とろとろと先端から漏れ出す雫や、充血してバイブに絡みつく淫らな肉襞も視姦されていた。

「暗くすると、君を見る私の楽しみが無くなってしまうだろう?」

 バカな事を言うなとばかりに彼は笑い、指先でゆっくりと顔や身体をなぞった。

 男がバイブレーターのハンドルを操るたびに、信じられないほどの快感が生まれる──だが、最後の極みの一瞬が迎えられない。

 ずっとパールを引き出された瞬間、悠利の唇から切羽詰まった声が漏れた。

「あっ、アアーッ……いやっ……もう、やめてっ!」

「悠利は嘘つきだな──こんなに感じているのに、止めてほしいのか?」

 くくっと喉の奥で笑った東山は、ぷるぷると震える悠利のペニスをぴんと指先で弾いた。

「ヒアアッ……やっ……!」

 そんな刺激さえも快楽にすりかわり、身体の芯に淫靡な痺れが走った。

(──違う……感じてなんか、いない……)

 朦朧と霞んでいく頭の隅で、己の精神の一部がそう呟く。

 合意も無く身体を弄ばれ、引き裂かれて──快感を感じるはずなどない。

 触れられて身体が熱く高ぶっていくのは、ただの男の生理現象でしかなく、無理矢理引きずり出された感覚は……それは、快感などではない。

 だが、必死で諫めようとする声を裏切り、悠利の肉体は限界まで追い上げられ、破滅を望んでしまう。

 くすくすと嘲笑う男の声は優しく、残酷で──喘ぐように悠利が唇を開くと、すぐに深く貪られるようなキスがもたらされた。

「……おねがい、もう、ゆるして──もう、イカせて……」

「違うな、何度も教えただろう?
 ちゃんと言いなさい、悠利──でなければ、いつまでもこのままだぞ」

 溢れ出した涙に口づけながら、残忍な悪魔は甘く、淫らに耳元で囁きかける。

 その声に惑わされるように悠利はため息をつき、苦しむように眉根を寄せた。

「お願いします──もう挿れてください……僕の…お尻に……」

「何を? 君の中にはもう入っているだろう──そら、奥まで挿れてあげよう」

 引きずり出されたはずのパールが逆流し、深い場所まで押し入れられる。

「──あああっ…あうっ……アア…ッ」

 媚肉を擦り上げる感触に、悠利は背筋を仰け反らせて嬌声を放った。

「何を挿れて欲しい? これじゃ満足できなくなったのか?
 最初は痛いって泣いていたのに、悠利のココは淫乱だな」

「やあっ……言わないで──あっ…挿れて…慶司さんを……中に挿れて……」

 内部を掻き回す人工的な感覚にさえ身体は興奮し、さらなる刺激を渇望する。

「私が欲しい?」

 つんと尖った小さな胸の突起をやんわりと愛撫しながら、誘惑するように問いかけられる。

「……ほし…い──あっ…欲しい…ください……慶司さんを……僕に──」

 男の全てが欲しいと望んだ瞬間、全身が昂揚したかのように震えた。

「良い子だ、悠利──でも、その前にする事があるだろう?」

 男が何を望んでいるのか、時間を掛けて教えられ、身体を重ね合った時の事を思い出せば、すぐに判る。

 のろのろと身体を起こし、男の猛り立つ剛直を咥えた悠利は、その全てを濡らすように懸命に呑み込み、舌をからめた。

「ぐうっ…ううっ……ん、うう……」

 唇が裂けそうなほどほどに太くなった男の欲望は、悠利の喉を貫くほどに熱く、硬い。

 自分を引き裂き、蹂躙する脈動に奉仕しながら、悠利は涙を溜めた瞳で許しを請うように彼の秀麗な顔を見上げた。

「もう、いいよ──挿れてあげるから、後ろを向いて、欲しい所を広げてごらん」

 微かに荒くなった吐息と共に、さらに卑猥な命令が下される。

 屈辱を感じながらも、もはや逆らうことなどできはしない──それほどまでに、いつしか男の言葉は絶対となっていた。

 四つん這いになり、頭と肩口で上体を支えた悠利は、両手で白い双丘を自ら割った。




「いや……もう許して──慶司さん……」

 首を左右に振り、全身を突っ張らせた悠利は、喉から溢れた自分の声で目覚めた。

 カチカチと時を刻んでいる時計を見れば、まだ針は午前1時を示している。

「──夢……」

 あまりに生々しい感触が残り、濃密な愛撫を受けた後のように全身が火照っている。

 悠利は自分自身を恥じるように両手で顔を覆い、耳の奥に残る声を必死で消そうとした。

 琉花の自宅に居候するようになって、ちょうど1週間が過ぎようとしている。

「ねえ、先生──独り暮らしなら、元気になるまでここで療養していってください」

 琉花の母親である零の申し出を、最初は迷惑になるからと言って固辞していた悠利であったが、琉花の言葉で留まざるをえなくなった。

「せんせー、るかの家、お部屋はたくさんあるから平気だよ。
 カオルちゃんが『栄養つけなきゃダメよ』って言っていたでしょ?
 それにせんせーがたおれちゃったら、るかたちも困るし、他のせんせーも困るんだよ」

 どうやら「カオルちゃん」というのは、悠利の様子を見に来た女医さんの事らしい。

 零とは全く異なる華やかな雰囲気を纏った彼女は、まるで弟に接するような気安さで悠利に話しかけてきた。

「しばらくここに泊まっていきなさいよ、悠利君。
 美味しいご飯は出てくるし、他のどこよりも安全な場所だからね。
 うるさいのはいるけど、零ちゃんと琉花に任せとけば大丈夫だから──ね?」

 まるで我が家のような言い様であったが、鷲塚家との関係は何やら複雑でありながらも、ほとんど家族同然であるらしい。

 押し切られるようにして、この豪勢な邸宅に宿泊することになったのだが、薫の言っていた「うるさいの」つまり零の夫であり琉花の父親である鷲塚海琉氏の顔を思い出した途端、悠利の気分は滅入ってきた。

(……何だか……露骨に邪魔者扱いされてるんだよな──)

 小柄な悠利にしてみれば羨望に値するほどの長身で、全身がしっかりと鍛えられていると一目で分かる。

 顔立ちは厳しそうではあったが、古典的な大理石の彫像のように秀麗で、冷たく冴えた光を放つ金属的な双眸が印象的だった。

 本性はどうであれ、エリートビジネスマンといった雰囲気を持つ東山とは根本的に違うのが、迫力のある鋭利な視線と、押し潰されそうな威圧感──ちらりと一瞥されただけでも、悠利は腰が抜けそうになったほどだった。

 零の作る料理はどれも美味しくて、舌も胃も大満足なのだろうが、あの鷲塚氏と囲むテーブルの雰囲気にはどうも今ひとつ馴染めない。

 琉花や零はいたって平気そうだが、「うるさい」と言われていたわりに彼はひどく無口で、悠利は話しかけた方がいいのか、悪いのか、本当に戸惑ってしまうのだった。